◇SH3120◇2020年の定時株主総会とハイブリッド型バーチャル株主総会(下) 尾崎安央(2020/04/24)

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2020年の定時株主総会とハイブリッド型バーチャル株主総会(下)

早稲田大学法学学術院教授

尾 崎 安 央

目 次
はじめに
Ⅰ 3月決算会社の6月定時株主総会
Ⅱ 2020年6月の定時株主総会(2019年度決算総会)の問題点
 1 決算手続の遅滞
                     〔以上(上)掲載〕
 2 「三密」を回避した定時株主総会の開催
 (1)「三密」
 (2) 定時株主総会を開催することの必要性
 (3) 定時株主総会の開催延期
  ① 株主総会の延期または続行の決議
  ② 現行法の解釈で延期を認めることの可否
  (ⅰ) 定款所定の開催時期との関係
  (ⅱ) 定款所定の基準日との関係
                     〔以上(中)掲載〕
 (4) 規模を縮小した定時株主総会の開催
 (5) インターネットの活用
  ① テレワーク、インターネット会議
  ② バーチャル株主総会
おわりに 
                     〔以上(下)掲載〕

 

Ⅱ 2020年6月の定時株主総会(2019年度決算総会)の問題点

2 「三密」を回避した定時株主総会の開催(承前)

(4) 規模を縮小した定時株主総会の開催

 密集と密接を避けるには、入場可能な株主を制限したり、会場の規模を縮小したりすることも考えられる。例年通りの会場でも、座席の間隔にソーシャル・ディスタンスを意識した配置がなされれば、入場制限の事態が発生するであろう。経済産業省=法務省のQ&Aは、入場制限や規模縮小などの方法も可能と回答している。しかし、この方法は必然的に株主権(行使)の制約を伴う。定時株主総会に出席することは「不要不急」のことではなく重要なことだとして会場まで来た株主が会場に入れない場合が生じうるからである。ウイルスの感染拡大を防止する上での必要と考えられた措置の結果、入場できない株主が生じうるのはやむを得ないことともいえようが、そのような株主からの決議取消訴訟提起の可能性は完全には払拭できないであろう。経済産業省=法務省のQ&Aは、株主の議決権行使について、書面や電磁的方法による事前行使を示唆するが、それは「決議の成立に必要な要件を満たすことができます」と文章が結ばれていることからすれば、会社の総会担当者を安心させるためのものであろう。しかし、会場に入場できなかった株主にとっては不満の残る可能性がある。事前にその旨を開示していればよいと言い切ってよいのであろうか、躊躇を覚える。

(5) インターネットの活用

➀ テレワーク、インターネット会議

 巷では、在宅勤務、テレワークが推奨されているようである。私が勤務する早稲田大学でも、5月11日から授業を開始し、原則としてインターネットを通じて行うことが決定された。それまでもオンディマンド授業方式を採用することは可能であり、現にそのような授業形式を採用されていた先生もおられたが、多くの教員は教場での講義や演習等を行ってきた(リアル授業)。そのような教員にとって、オンディマンド用の教材づくり、さらにはロースクールのように双方向的授業が原則とされるところでは同時配信が推奨され、その準備に追われているのが現状である。企業その他にあっても、テレワーク。インターネットを利用した勤務も少なくないようである。テレビ番組も、出演者がインターネットを通じて「出演」しているケースも散見される。あたかも同じスタジオ空間にいるかのごとき画像処理がなされており、現に双方向的な会話もなされている。新型コロナウイルスが話題になって以後、会議等がインターネットを通じて行われている例も増えてきている。出張して東京に集まらなくても、全国、全世界の支社長会議ができる状況にあることを、多くの国民が知るところとなっている。

② バーチャル株主総会

 今年の定時株主総会も、このようにインターネット経由で開催することはできないか。容易に思いつくアイディアである。

 現行会社法上、現実の株主総会(リアル株主総会)を開催していることを前提に、議決権を電磁的方法で行使することはできる(会社312条)。その議決権行使は、株主が出席した議決権行使として扱われる(同条3項)。しかし、この方法は、「株式会社の承諾を得て」など、法定の条件の充足が必要であり、あまり普及していないようである。たしかに、この方法を使えれば、新型コロナウイルスの拡散防止策としてリアル総会への出席者を減らすことが可能となるかもしれないが、その議決権は、議決権行使書面の場合と同様に、事前行使しなければならない制約がある(会社則70条)。

 議決権行使の電磁的な方法ではなく、株主総会それ自体をインターネット経由で同時配信するものを「バーチャル株主総会」という(北村雅史「株主総会の電子化」商事2175号(2018)5頁参照)。たとえば、従来と同じようにリアル株主総会を開催しつつ、その映像・音声等をインターネット利用で同時配信し、株主はPCやタブレット等でそれを同時に見る。さらに、その映像を見て、株主権を行使することを認める。こういうものが「バーチャル株主総会」である。そして、リアル株主総会の開催を前提にしたバーチャル株主総会を「ハイブリッド型バーチャル総会」といい、リアル株主総会を全く開催しないものを「バーチャルオンリー株主総会」という。それは、サイバー空間での株主総会であるが、現行会社法の下で、この「バーチャルオンリー株主総会」を開催することができるのかどうかについては、解釈が分かれる。招集通知には、株主総会の「場所」が記載されなければならないが(会社則63条2号)、サーバー空間は含まれないというのが有力な解釈である。(第197回国会衆議院法務委員会第2号(2018年11月13日)小野瀬厚政府参考人(法務省民事局長(当時))発言)。株主総会決議不存在確認の訴えを提起されるリスクも指摘されている。

 ハイブリッド型バーチャル株主総会については、経済産業省からは、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下、「ガイド」という)が公表されている(「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(2020年2月26日)、遠藤佐智子「『ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド』の解説」商事2225号(2020)26~35頁)。それは、「ハイブリッド型バーチャル総会」として「参加型」と「出席型」を実施するうえで生じるであろう疑問の答えるものになっている。この「ガイド」は、ハイブリッド型のバーチャル株主総会は現行会社法の下でも実施可能であるという理解に立っている。一方でリアル株主総会が開かれているのであり、それに出席しない株主の処遇の仕方の問題ともいえるからである。株主はリアル株主総会に出席する選択肢を有しているのである。そのようなハイブリッド型バーチャル株主総会を運営するうえで考えなければならない法律上の論点などを検討したものがこの「ガイド」である。

 「ガイド」で「参加型」と言っているバイブリッド株主総会は、イメージとしては、次のようなものである。

 これまで通りにリアル株主総会を開催し、これを同時映像配信し、会場にいない株主はインターネット配信された映像等を傍聴するというスタイルである。議決権行使などの株主権は、インターネットを通じて同時的に行うことはできない。この点が「出席型」との一番大きな違いである。議決権は、従来のように、議決権行使書面や電磁的方法により総会前に行う。この方法による議決権行使は、原則として、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時までであり(会社則69条、70条)、これまでの総会実務が維持される。この場合、会社としては配信された総会画像等を見ている株主からの率直な質問・意見等を受ける工夫が可能である。この点がこの方式のメリットである。それらを総会の中で紹介し回答したり、あるいは総会終了後にHPで回答したりするなど、対応方法はさまざまである(上記ガイド参照)。もとより、その株主からの質問はいわゆる説明義務の生じる総会の場における質問ではない(会社314条)。株主との双方向的な建設的対話を行おうという意欲のある、「株主フレンドリー」な会社が行う「株主向けサービス」と考えてよい。ハイブリッド型バーチャル株主総会の発想は、株主と会社との間の建設的な対話の場を作り、確保することである。株主は、株主総会の場にいなくても、URLにアクセスすることで、総会の場で何が語られ、どのように総会が進行しているのかを同時的に見ることができる。会社としても、そこに不在の株主に積極的に語り掛けることができるとともに、このような株主からの意見等を吸い上げる機会として、株主総会を活用することができるのである。

 これに対して「出席型」は、総会の場にいない株主の株主権行使まで認めるものである。しかし、リアル株主総会が必ず開かれている点で、完全なバーチャル株主総会(バーチャルオンリー株主総会)とは異なる。バーチャルオンリー株主総会は、リアル総会を開催しないものであり、サイバー空間だけの株主総会である。それだけに、「三密」を回避するうえでは理想的なもののように映る。だれも同一のリアルな会議空間に集まることを必要としないからである。IT技術の進歩・深化によって可能になった株主総会の開催形態であり、米国ではそのような形態の株主総会が現実に「開催」されているようである。とはいえ、前述したように、日本の現行会社法では、バーチャルオンリー総会は想定していないと考えられてきた。招集通知に記載される「場所」については、「株主総会の場所が、過去に開催した株主総会のいずれの場所とも著しく離れた場所であるときは」その理由を記載する必要があるとされるが、「サイバー空間」はたしかに従前の総会の開催場所から見れば「著しく異なった場所」であるが、「著しく離れた」ではないであろう(会社則63条2号参照)。サイバー空間も「場所」であり、株主全員の同意があれば可能という理解に立てば(同条2号ロ参照)、バーチャルオンリー株主総会を開催することも可能であるという理解もありえようが、それは株主総会決議取消訴訟提起のリスクを伴ういささかチャレンジングな試みである。前述した有権解釈(衆議院法務委員会での小野瀬発言参照)からは、リアル株主総会をどこかで現実に開催しておかなければならない。株主が「三密」に置かれることを避け、かつ、定時株主総会への参加や出席を可能とするハイブリッド型バーチャル株主総会は、新型コロナウイルス感染拡大の防止として、有力な選択肢になりうるであろう。

 なお、参加型は株主権の行使を直接結び付かないものであるのに対して、出席型においては、その株主権行使をどうするのかが問題となる。リアル株主総会の場における株主の権利(議案提案権、動議提出権、議決権など)は、株主にとってきわめて重要な権利と理解されており、出席型ハイブリッド型バーチャル株主総会において、それを制約する運営方法がとられたときは、場合によっては決議取消訴訟につながりかねないリスクがある。「ガイド」を作成するにあたっての研究会においても、その点が時間をかけて議論されたところである。結論的には、株主はリアル株主総会に出席する選択肢が保障されていることを前提に、インターネットを通じての株主の権利行使等は若干制約されても仕方がないというところに落ち着いた。株主議題提案や質問、動議提出、また議決権行使それ自体、従来のリアル株主総会を想定した解釈論がどこまで妥当するかを検討したのが「ガイド」である。

 

おわりに

 新型コロナウイルス感染症の状況がこれからどうなるかは今のところ不明である。会社としては、当面、例年通りにリアル株主総会を開催する方向で準備を進めるほかはないであろう。しかし、「三密」を避けるために、株主総会の場に行けない、あるいは行かない株主を無視してよいことにはならない。会社として、何らかの対応を採るべきである。そして、インターネットを利用した講義や会議が進められている現在にあって、株主総会についても、インターネット同時配信はあってよいという解が得られるであろう。上述したように、株主からの声を受け止める工夫を施せば、株主総会がよりいっそう株主と会社の対話の場になるものと思われる。これが参加型ハイブリッド型バーチャル株主総会のアイディアである。さらに出席型になれば、インターネットを通じて、株主は出席している株主と「ほぼ同じ」状況に置かれ、議決権行使も可能となる。その場合の議決権行使は事前行使ではない。もとより、動議への対応など、現実に出席している株主との差が生じることはやむを得ない。それを避けたければ、株主総会の場に行けばよいのである。その機会は確保されているが、新型コロナウイルスの感染拡大防止という趣旨からは、従来ほどの自由度はない。株主総会に入場制限があったり、規模が縮小されていたりして、確実に入場できない可能性があるからである。事前告知されているからと言って、それでよいのかどうか、である。結果として、株主が誰もいない株主総会になるかもしれないが、それでもリアル株主総会が開催されている点で、バーチャルオンリー株主総会ではない(SH3087 事実上の「バーチャルオンリー型株主総会」を志向した「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」の開催のポイント 塚本英巨(2020/04/02)参照)。東京証券取引所の調査によれば、3月決算の上場会社の5.6%で参加型バーチャル株主総会が検討されているという。出席型も1.4%の会社で実施が検討されているようである(マーケットニュース「2020年3月期上場会社の定時株主総会の動向(速報版)」)。感染症対策を図りつつ、現実の株主総会の開催を行い、かつ、出席しない・出席できない株主に総会の情報を提供するとともに対話を促進する手段として、ハイブリッド型バーチャル株主総会という選択肢が考えられてよいように思われる(問題点や体験談など、松本加代ほか「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実務対応――実施ガイドを踏まえて」商事2225号(2020)13~25頁参照)。

[2020年4月20日脱稿]

以 上

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