ベトナム:上場企業に対する外資出資上限の撤廃!?
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
「ベトナムのグエン・タン・ズン首相は6月25日、外資による上場企業への出資規制の撤廃を正式に認めた」との新聞報道が日本でなされていた。これは、6月26日に公布された政令60/2015/ND-CP号を報道したもので、9月1日から施行されるこの新政令を受けて、ベトナムの株式市場は活況を呈しているようである。
背景をご説明すると、これまでは、ホーチミン証券取引所及びハノイ証券取引所に上場している会社を含む公開会社に対する外国投資家の出資割合は、(他の法令上より低い制限がかかっている場合を除き)49%が上限とされていた。これについては、2014年初め頃から既に上限の引き上げについての議論がなされており、一度は上限を65%に引き上げるとの方針が報道され、それを受けて株式指数が上昇したこともあった。しかし、その後正式な決定がなされないまま今年6月に至っていたところである。
今回公布された政令60/2015/ND-CP号は、証券法の施行細則を定める政令58/2012/ND-CP号を改正するものであり、その内容は多岐にわたる。その中で最も注目されているのは、公開会社への外国投資家の出資割合の上限を緩める第2a条の追加である。
その内容は、確かに一定の公開会社について外国投資家の出資割合の上限を完全に撤廃しているが、その対象となる公開会社は限定的であることに注意が必要である。すなわち、
- ・ 条約において外国投資家による出資割合の上限が定められている業種の事業を行う会社については、その上限が適用される。
- ・ 国内法で別途外国投資家による出資割合の上限が定められている業種の事業を行う会社については、その上限が適用される。例えば、銀行等金融機関については、原則として30%という上限が課されている。
- ・ 外国投資家に適用される条件付投資分野に該当する事業を行っている会社については、引き続き49%という出資上限が課される。
これらの条件のいずれにも該当しない場合にのみ、外国投資家の出資割合の上限が撤廃される。出資割合の上限が設定されている複数の事業を行っている場合には、そのうち最も厳しい上限が適用されることになる。
ベトナムにおいても、日本同様上場会社ともなれば様々な事業を行っているのが通常であり、特に「外国投資家に適用される条件付投資分野」(その範囲自体が現時点では不明確なのであるが)のいずれをも行っていない上場会社がどれほどあるのか、疑問を禁じ得ない。その意味で、この新政令による実務への影響がどれほどあるのか、今後注目していく必要がある。