◇SH3168◇ESG・SDGsの世界的潮流と会社法に与えるインパクト――企業の取組みからの検討(2) 吉戒修一(2020/05/28)

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ESG・SDGsの世界的潮流と会社法に与えるインパクト

――企業の取組みからの検討(2)――

弁護士 吉 戒 修 一

 

Ⅱ ESG・SDGsに対する企業の取組み

3 世界と日本の企業の取組み

 ESG、SDGsに対する世界の企業の対応はどうかといえば、それについては、レピュテーションリスクを懸念して、これに取り組むという消極的な対応をする段階は、すでに過去のものとなりつつある。

 今は、ESG、SDGsにプロアクティブに取り組むことにより、ESG、SDGsに対する企業の経営姿勢をアピールし、あるいは、アセットがいわゆる座礁資産(Stranded Assets)となることを回避して、より成長が見込める事業分野に投資しようとし、さらには、これに取り組むことを新たなビジネスチャンスにしようとするなど、いわゆる本業化の段階に移行する動きもみられるようになってきた。

 日本の企業のESG、SDGsに対する取組みも同様の傾向にあり、現在、その動きは着実に加速している。その取組例として、航空運送事業のグローバル企業であるANAホールディングスと日本の通信事業のトップ企業である日本電信電話の取組みを次に紹介してみる。

 ANAホールディングスは、2019年6月21日に開催した第74回定時株主総会の招集通知の事業報告中の「参考:ANAグループのESGに向けた取り組み」の項で、同社のESGの取組みを紹介している[10]

 たとえば、E(環境)については、①TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:金融安定理事会により設立された気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明、②サンフランシスコ国際空港からの定期便でバイオ・ジェット燃料を使用、③野生生物不正取引にかかわるトレーニングの開発・実施、S(社会)については、①日本企業として初の「人権報告書」の発行、②国内および海外での社会貢献活動、そのほか、グリーンボンドおよびソーシャルボンドを発行し、世界の代表的な指数会社からESG格付を取得したこと、G(企業統治)については、グループ経営理念に基づくコーポレートガバナンス体制を構築していることなどを紹介している。また、ウェブサイトでもESG経営の推進状況を紹介している。

 次に、日本電信電話は、2019年6月25日に開催した第34回定時株主総会の招集通知の事業報告中の「ESG経営の推進、株主還元の充実による企業価値の向上」の項で、同社のESG経営の取組みを紹介している[11]

 たとえば、環境への取組みとして電気通信事業者として世界ではじめて国際的なNPO法人「The Climate Group」が運営する国際イニシアティブ「EP100」、「EV100」に加盟し、サイバーセキュリティの取組みとして国際評議会CSDEに参画し、ダイバーシティ・マネジメントに取り組み、世界の代表的なESG投資指標であるDow Jones Sustainability Indexの「World Index」にはじめて選定されたことなどを紹介している。また、ウェブサイトでもESG経営の推進状況を紹介している。

 以上は、日本の企業のESG、SDGsの取組例の一端を紹介したものであるが、インターネットでESGやSDGsを検索すれば、日本の企業のこれらの取組みの進展状況を紹介したウェブサイトや関連ページは枚挙にいとまがない。

 

4 丸紅の取組み――サステナビリティ推進委員会の設置および活動

 前述したように、筆者は、丸紅に関与しているので、以下、丸紅におけるESG、SDGsに対する取組みを紹介してみる[12]

 丸紅は、2018年4月、ESG経営に対する取組みを強化するため、サステナビリティ推進委員会を設置した。同委員会の委員長、副委員長は代表取締役、委員はコーポレート・スタッフグループの部長クラスおよび営業本部の副本部長クラスの経営幹部がそれぞれ務め、また、アドバイザーとして外部の視点を取り入れるため、社外取締役1名、社外監査役2名計3名が加わり、さらに、専門家として外部のコンサルタントも参画した。

 サステナビリティ推進委員会は、社長直轄の機関であり、2018年4月~2019年3月の1年間に、合計23回開催された。多忙なメンバーが出席する中、世界のESG、SDGsの最新の動向が紹介され、これを受けて丸紅の関係各部の検討状況が報告され、活発な意見交換が行われた。

 そこでの審議の経過は、次のとおりである。

 まず、丸紅の社是「正・新・和」の精神に則り、公正明朗な企業活動を通じ、経済・社会の発展、地球環境の保全に貢献する、誇りある企業グループを目指すという経営理念を実践するために、「マーケットバリューの高い人財」、「揺るがない経営基盤」、「社会と共生するガバナンス」という基盤マテリアリティ(重要課題)[13]を特定し、これを活用してビジネスモデルを刷新し、実現性の高いソリューションの創出に注力することにした。

 この基盤マテリアリティに基づき、SDGsの提唱する環境、社会課題の解決に向けて、①「気候変動対策への貢献」、②「持続可能な森林経営、森林保全への貢献」、③「人権を尊重し、コミュニティとの共発展に貢献」、④「持続可能で強靱なサプライチェーン構築、取引先との協働」という4つの環境・社会マテリアリティ(重要課題)を特定した。4つの環境・社会マテリアリティの特定を受けて、丸紅の関係各部は、その具体的なソリューションについて検討を重ね、図表2のような取組みをした。

 

〔図表2〕 環境・社会マテリアリティ(重要課題)
① 気候変動対策への貢献 ② 持続可能な森林経営、森林保全への貢献 ③ 人権を尊重し、コミュニティとの共発展に貢献

地球温暖化の抑制と低炭素社会の実現を目指して、2018年9月、石炭火力発電事業によるネット発電容量を2030年までに半減し、新規の石炭火力発電事業は原則として取り組まない方針を発表し、今後は再生可能エネルギー発電事業への取組みを加速させ、2023年までに再生可能エネルギーの電源比率をネット発電容量ベースで倍増させる目標を掲げた※。また、グリーンレベニュー(気候変動対策に貢献するビジネスの取扱高)を現状の約7,000億円規模から2024年3月期までに約1兆3,000億円に拡大することを目指すこととした。さらに、気候関連財務情報開示の重要性を認識してTCFDに賛同し、気候変動が事業にもたらすリスクと機会の財務的インパクトを把握し、情報開示に努めることとした。

インドネシアやオーストラリアで計約14万ヘクタールの植林事業(総事業面積32万ヘクタール。東京都の約1.5倍の面積)を展開しているが、この事業について、2019年2月、「天然林からの転換を行わない」、「違法伐採された木材から生産された調達物は取り扱わない」、「生物多様性の保護」などを内容とする「森林経営方針」と、森林由来製品についての「商品調達方針」を発表し、また、森林経営に当たっては、児童労働などの人権侵害をせず、森林で暮らす先住民との共生を意識して、事業を推進することとした。

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の三原則である(ⅰ)人権の尊重、(ⅱ)人権デューデリジェンス、(ⅲ)救済に基づき、丸紅グループ人権基本方針を策定した。

④ 持続可能で強靱なサプライチェーン構築、取引先との協働

気候変動対策と人権の尊重に対する取組みを強化するため、「サプライチェーンにおけるCSR基本方針」を改定し、新たに、「サプライチェーンにおけるサステナビリティ基本方針」を策定した。

※ 丸紅は「電力の丸紅」といわれ、発電事業が基幹事業の1つである。電力本部の石炭火力発電事業への新規投資を原則撤退するという思い切った方針の提案は、当初、驚きをもって迎えられたが、低炭素社会の実現を目指すグローバルなメガトレンドを踏まえた周到かつ緻密な計算と見通しに基づく提案であることが理解され、サステナビリティ推進委員会および取締役会において異論なく了承された。

 

 図表2は、丸紅のサステナビリティ推進委員会での議論を受けて、社内の関係各部で行った取組みの一端を紹介したものであるが、これらの取組状況は、適時に取締役会に報告され、承認を受けている。

 次いで、丸紅は、2019年4月、コーポレート・スタッフグループの中にサステナビリティ推進部を新設してサステナビリティの取組みを強化することとし、サステナビリティ推進委員会も引き続き、サステナビリティの考え方および取組みについて丸紅内におけるさらなる周知、浸透を図るため、必要な施策を検討するなどの活動をしている。

 また、丸紅は、2019年6月21日に開催した第95回定時株主総会の招集通知の株主総会参考書類中の「(ご参考)丸紅グループのサステナビリティ」の項で、前述したような丸紅のサステナビリティの取組みを紹介し、さらに、「統合報告書2019」、「サステナブル・デベロップメント・レポート2019」およびウェブサイトでも前述したようなサステナビリティの取組みの推進状況を紹介している。

 以上のとおり、丸紅は、2018年度にサステナビリティ推進委員会を立ち上げて、丸紅グループのサステナビリティへの取組方針を策定、公表し、2019年度はこの取組方針に基づき、環境・社会マテリアリティに関する対応事項の実行計画を策定するとともに、国内外主要拠点において事業会社が一堂に会する説明会を開催し、取組方針の現場への浸透を図った。今後は、経営執行部から現場の従業員まで丸紅グループ全員がサステナビリティについての価値観や理念を共有し、サステナビリティの取組みを取締役会のガバナンスの下にPDCAサイクルとして回し、その取組状況を内外に情報発信することなどが課題であろう。

(3)につづく

 


[10] 以下の記述については、ANAホールディングス「第74回定時株主総会招集ご通知」35頁以下およびウェブサイト(https://www.ana.co.jp/group/)の関連頁参照。

[11] 以下の記述については、日本電信電話「第34回定時株主総会招集ご通知」23頁およびウェブサイト(https://www.ntt.co.jp/)の関連頁参照。

[13] 基盤マテリアリティに掲げられた「マーケットバリューの高い人財」とは、企業にとって人は人的資源であるのみならず、財(たから)であるという含意の下、社内だけでなく、社会からも必要とされ、評価を受ける人財を指し、「揺るがない経営基盤」については、人財の力を最大限に引き出し、企業価値の最大化を図るために必要であると考えられ、また、「社会と共生するガバナンス」とあるのは、企業は、社会からの期待・要請を踏まえ、社会と共生していくための企業統治の仕組みを構築し、サステナビリティの実現を目指すという考え方を示したものである。

 

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