SH3175 企業法務フロンティア「新型コロナで一部滅失等? ~賃料減額を巡って」 小川直樹(2020/06/01)

取引法務不動産法

企業法務フロンティア
新型コロナで一部滅失等? ~賃料減額を巡って

日比谷パーク法律事務所

弁護士 小 川 直 樹

 

 国・地方自治体による新型コロナウイルス感染症の拡大抑制の呼びかけに応じる形で休業する賃借人の交渉カードとして、賃借物の一部滅失等に関する民法611条1項が注目された[1]。大雑把に言えば、新型コロナのために休業を余儀なくされる(建物を利用できなくなる)のであるから、賃料が減額されるべきであるという立論である。が、違和感もなくはない。そこで、平成29年債権法改正前の民法611条1項の議論を出発点として、改正前後の使用収益不能の場合の賃料債務に関する議論を確認する。なお、休業の理由の問題(使用収益不能と評価し得るのか)ついては踏み込まない。以下では、平成29年改正法前の民法611条1項を旧民法611条1項、改正後の民法を新民法611条1項と呼ぶことにする。

 旧民法611条1項は「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。」と規定している。要するに、旧民法611条1項は、賃借物の一部滅失という量的かつ永久的な一部履行不能が生じた場合、賃借人の請求により賃料を減額できるという規定であって、危険負担の原則に対する特則を定めたものである。ここで特則であるとされるのは、賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失すれば、本来なら、危険負担の原則により、滅失部分の賃料債務は当然に消滅するが(民法536条1項参照)、旧民法611条1項は、賃借人の請求を待って減額されるとしているからである[2](蛇足であるが、旧民法611条1項を交渉に使用するのであれば、その有効性はさておき、減額請求権を行使したという事実を証拠化したほうがよいだろう。減額請求権の行使の効果は、一部滅失の当時に遡るというのが通説である[3]。)。

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