◇SH1926◇企業法務フロンティア「企業に求められる『同一労働同一賃金』への対応」 小川尚史(2018/06/25)

未分類

企業法務フロンティア
企業に求められる「同一労働同一賃金」への対応

――最高裁判決と働き方改革法案の成立を受けて――

日比谷パーク法律事務所

弁護士 小 川 尚 史

 

第1 はじめに

 本年6月1日、正規雇用労働者と有期契約労働者との間の不合理な待遇差の解消を目指すいわゆる「同一労働同一賃金」に関する労働契約法20条の解釈論が最高裁において初めて示された。また、「同一労働同一賃金」に関する法改正を含むいわゆる「働き方改革法案」が6月29日に参議院で可決され、成立したが、これにより労働契約法20条は削除され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に新たな規定が設けられることとなる。

 このような状況を踏まえ、本稿では、最高裁判決及び働き方改革法案の成立を受けて企業に求められる「同一労働同一賃金」への対応について検討したい。

 

第2 「同一労働同一賃金」に関する現行法及び改正法、ガイドライン案

1 現行法の規定内容

 正規雇用労働者と有期契約労働者との間の待遇差に関しては、平成25年施行の改正労働契約法において以下の条項(いわゆる「均等待遇規定」。20条)が定められた。

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 本条項により、労働条件の相違の合理性は、①職務内容(業務内容・責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情という3つの考慮要素に基づいて判断されることになる。

2 今般の法改正の背景及び規定内容

 上記の現行法の規定に関しては、労働政策審議会において、個々の待遇の相違と3つの考慮要素との関係性が明確でなく労使当事者にとって予見可能性が高いと言えないため、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に対応する考慮要素により不合理性が判断されることを明確化するべきであるとの報告がなされた。

 今般の法改正はこの報告で示された方向性に基づくものであり、現行の労働契約法20条を削除し、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」から名称変更)に以下の条項を設けるものである。

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与、その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 本条項と現行の労働契約法20条との最大の相違は、不合理か否かを判断する際の考慮事情に「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」という限定が付されていることである。

3 今般の改正法施行により個別の待遇差の適法性に関する解釈論に相違が生じるか

 今般の法改正により、いかなる場合に待遇差が不合理と認められるかという解釈論に相違が生じるのか否かが問題となるが、上記のとおり法改正の趣旨が待遇差の不合理性を検討する際の考慮要素を明確化することにあることからすれば、解釈論に実質的な相違は生じないと解される。また、第3で詳述する今般の最高裁判決は、労働契約法20条に関する判断であるが、基本的には改正法施行後も新たな均等待遇規定の解釈論として妥当すると考えられる。

4 「同一労働同一賃金ガイドライン案」[1]

 平成28年12月、厚生労働省は「同一労働同一賃金」の実現に向けて「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下「本ガイドライン案」という。)を公表した。本ガイドライン案は、典型的な賃金項目や基本給に相違を設ける要素ごとに、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものではないかを示したものであり、たとえば精皆勤手当、時間外労働手当、深夜・休日労働手当、通勤手当・出張旅費等の手当については、業務内容等が同一の労働者には基本的には同一の支給をしなければならないとされている。ただし、それぞれにつき待遇差が不合理とならない事例も示されており、各賃金項目について画一的に待遇差が不合理であるか否かを明示するものではないため、本ガイドライン案に依拠すれば各賃金項目に関する待遇差が不合理であるか否かを明確に判断できるというものではない。

 なお、本ガイドライン案は現時点では「案」であり、改正法案に関する国会審議等を踏まえて最終的に確定され、改正法の施行時期に合わせて施行される予定とされている。

 

第3 「同一労働同一賃金」に関する最高裁判決

1 最高裁判決の概要

 本年(平成30年)6月1日、現行法の均等待遇規定(労働契約法20条)に関する初めての最高裁判断が2つの事件について示された(以下「本件最高裁判決」と総称する。)。いずれも有期労働契約の従業員が、無期労働契約の正社員との間の労働条件の相違は労働契約法20条違反であると主張して、差額賃金の支払い等を求めた事案である。いわゆるハマキョウレックス事件[2]では無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金に相違があることが問題とされており、いわゆる長澤運輸事件[3]では、定年後再雇用後の賃金格差(2割前後の相違)が問題とされている。

 2事件のいずれにおいても住宅手当が問題とされたが、最高裁は結論としていずれの事件でも非正規社員に住宅手当を支給しないことは不合理ではないと判断した。その理由について、ハマキョウレックス事件では、正社員は転居を伴う配転が予定されているのに対して、契約社員には就業場所の変更が予定されていない点が指摘されており、長澤運輸事件では、正社員には幅広い世代の労働者が存在し得るのに対して、定年退職者である嘱託社員は老齢厚生年金の支給を受けることが予定されていると指摘されている。

 また、ハマキョウレックス事件において、最高裁は、通勤手当、給食手当、無事故手当に関する待遇差は不合理であるとの原審判断を維持するとともに、皆勤手当に関する待遇差も不合理と判断している。当該判断の理由は、皆勤を奨励するという手当の趣旨は正社員と契約社員とで異ならないというものである。さらに、長澤運輸事件においても、最高裁は、休日以外に欠かさず出勤することを奨励する趣旨の精勤手当について、その必要性に関して正社員と嘱託社員との間に相違はないとの理由により、待遇差を不合理と判断している。

2 本件最高裁判決の意義及び帰結

 本件最高裁判決は、個別の賃金項目ごとに条件相違の不合理性を判断しているが、各賃金項目の具体的内容や目的、労働者の処遇等の個別具体的事情を含めた諸要素を総合的に考慮するという個別判断であるため、各賃金項目に関する結論のみを一般化することはできないことに留意が必要である。

 しかし、最高裁の示した、当該手当を支給する目的及び趣旨を前提として、それが正社員及び非正規社員の双方に等しく妥当するものであるか否かを検討するという判断枠組みには他社にも適用され得る一般論としての意義がある。そのため、支給目的が正社員及び非正規社員に等しく妥当する場合が多いであろう賃金項目(たとえば通勤手当、皆勤・精勤手当、給食手当、無事故手当等)に関する待遇差は不合理と判断されやすいと言える。他方で、これらと比較すると、たとえば住宅手当、家族手当、役付手当、賞与等のように、支給目的との関係で正社員と非正規社員との間に相違があると言いやすい賃金項目に関しては、個別事情によるものの、不合理ではないと判断される場合が多くなるのではないかと思われる。

 

第4 企業に求められる「同一労働同一賃金」への対応

 第2及び第3で述べた今般の法改正及び今後のガイドライン策定への動きや本件最高裁判決を踏まえ、企業には「同一労働同一賃金」に向けた更なる取組みが求められている状況にある。

1 待遇差が適法であるか否かの判断

 企業がまず行うべきは現行の待遇差が適法か否かの判断であるが、これまでに述べたとおり待遇差の不合理性判断は複数の考慮要素に基づいて行われるため、この判断は必ずしも容易ではない。

 しかし、第3・2に述べた最高裁の示した判断枠組みは参考となるし、個別事情の相違にもかかわらず本件最高裁判決及び従前の下級審裁判例において概ね一致した判断が示されている賃金項目に関する判断は、他社の事案にも同様に妥当し得ると考えてよいと思われる。

 したがって、各企業としては、本件最高裁判決及び従前の下級審裁判例の判断内容、さらに本ガイドライン案の内容も参考にして自社における待遇差の内容を検討すべきであるし、不合理と評価される可能性のある待遇差に関しては是正するべく対処するというように、保守的に対応することが望ましい。

2 待遇差に問題がある場合の対応策

 現状の待遇差に問題があると認識した場合に企業が採りうる対応策には以下のような選択肢があると思われる。

 ① 待遇差が不合理と評価されないよう雇用形態ごとの職務内容を確認し、見直す

 ② 待遇を変更して待遇差を解消する

  1. (1) 待遇差が不合理と評価されないよう雇用形態ごとの職務内容を確認し、見直す
  2.    待遇差が不合理と評価される事例の多くは、雇用形態が相違しているにもかかわらず「職務内容(業務内容・責任の程度)」及び「職務内容・配置の変更範囲」の内容が同一である場合であると考えられる。そして、このような場合、使用者が明確に意図しないままに雇用形態の相違にもかかわらず職務内容等が同一又は類似するものとなっていたという事例も少なくないと推測される。そこで、企業としてはまずは雇用形態ごとの職務内容の状況を正確に把握し、意図せず雇用形態間での職務内容等の区別が曖昧になっている場合には、待遇差を設けるに相応しい程度に雇用形態ごとの職務内容を明確に区別するよう運用を改めるべきである。
  3.    なお、この点に関連して本ガイドライン案では「今後、各企業が職務や能力等の内容の明確化と、それに基づく公正な評価を推進し、それに則った賃金制度を、労使の話し合いにより、可能な限り速やかに構築していくことが、同一労働同一賃金の実現には望ましい」とされている。
     
  4. (2) 待遇を変更して待遇差を解消する
  5.    また、待遇を変更して待遇差を解消するという対応については、非正規労働者の待遇を変更して正社員のそれと同等の水準にするという方法が期待されているといえるが、両者の待遇を完全に一致させることは難しい場合も考えられる。そのような場合、非正規労働者の待遇を変更して新たな労働条件を設定する際の手続が重要である。すなわち、使用者が一方的に決定したものなのか、労働組合等との労使交渉を経た上での変更であるのかという事情は、「その他の事情」として不合理性判断においても重要となるため、企業としては十分な労使協議を経て待遇変更を行うべきである。
  6.    さらに、待遇変更による待遇差の解消という対応に関して一般的に期待されているとは言いづらいが、正社員の待遇を変更することにより待遇差を解消するという対応策も考えられる。本年4月に日本郵政グループが正社員に支給していた住居手当を廃止する方針であることが報道されたが、この事案はこのような対応の一例である。ただし、就業規則に規定されて労働契約の内容となった手当を廃止することは労働条件の不利益変更に該当するため、正社員の理解を得られなければ紛争となる恐れもある。そのため、仮に正社員の待遇の変更という方策を実施するのであれば、労使交渉により労働者側の理解を得ることは必要不可欠であろう。報道によれば、日本郵政グループの事例では労使交渉において手当の廃止が協議され、労組も一定の経過措置等を条件として住居手当の廃止を了承したとのことである。

以上

 

タイトルとURLをコピーしました