◇SH3222◇内閣府、法務省、経産省、押印に関する民訴法上の取扱いや、効果及び代替し得る手段等を整理した「押印についてのQ&A」を公表 藤田浩貴(2020/07/03)

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内閣府、法務省、経産省、押印に関する民訴法上の取扱いや、
効果及び代替し得る手段等を整理した「押印についてのQ&A」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 田 浩 貴

 

1 背景

 デジタル技術が進歩する中で、日本経済の成長力を維持・強化し、社会生活環境を維持・改善するためには、デジタル化への対応に遅れがあってはならず、デジタル技術等の活用を阻害する規制・制度・慣行の見直しが官民を問わず検討されている。

 このような状況の中で、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、人と人との接触を最小限にする必要があり、テレワークを推進するため、デジタル技術等を活用することが喫緊の課題として議論されている。

 この点、書面に対する押印原則がテレワーク推進の足枷になっているとの指摘もあり、押印原則を見直すことができないかが問題となっている一方で、書面に対する押印を廃止した場合、契約書に押印しなくても法律違反にならないか、文書の成立の真正を証明できないのではないかといった懸念があり、書面に対する押印原則の見直しが進まないのが実情である。

 そこで、内閣府、法務省及び経済産業省は、押印に関する民事訴訟法上の取扱い、押印の効果及び押印を代替し得る手段等について整理を行い、令和2年6月19日、押印慣行の見直しに向けた自律的な取組みが進むよう「押印についてのQ&A」を公表した。

 

2 「押印についてのQ&A」についての解説

⑴  「押印についてのQ&A」の概要

 「押印についてのQ&A」では、下記の表の6つの問いについて、解説が行われている。問1は、押印の要否に関する根本的な疑問であり、契約とは何かという理解に資するものである。また、問6は、押印が必須ではないとした場合の代替手段について解説するものであり実務的に重要な課題であることから、以下では、問1及び問6について、「押印についてのQ&A」の回答を踏まえて解説を行うこととする。

問1 契約書に押印しなくても、法律違反にならないか。
問2 押印に関する民事訴訟法のルールは、どのようなものか。
問3 本人による押印がなければ、民訴法第228条第4項が適用されないため、文書が真正に成立したことを証明できないことになるのか。
問4 文書の成立の真正が裁判上争われた場合において、文書に押印がありさえすれば、民訴法第228条第4項が適用され、証明の負担は軽減されることになるのか。
問5 認印や企業の角印についても、実印と同様、「二段の推定」により、文書の成立の真正について証明の負担が軽減されるのか。
問6 文書の成立の真正を証明する手段を確保するために、どのようなものが考えられるか。

 

⑵ 問1について

 契約は、原則として、当事者による申込みと承諾の意思表示の合致によって成立するとされているが(民法第522条第1項)、契約書への押印は必要だろうか。

 契約に関する最も重要な通則として、「契約自由の原則」が挙げられるが、「契約自由の原則」の内容の1つとして、「契約の方式の自由」がある。「契約の方式の自由」とは、「契約は、いかなる形式によっても当事者の自由であって、特に法律の要求する方式を必要とするものではない。」という原則である。民法は、第522条第2項において、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」とし、「契約の方式の自由」を示している。

 したがって、契約は、原則として、当事者による申込みと承諾の意思表示の合致によって成立し、契約書の作成及びその契約書への押印は、特段の定めがある場合を除き、契約の効力に影響を及ぼさない。

 なお、「契約の方式の自由」は、法令に特別の定めがある場合には、これによる制限を受ける。例えば、保証契約(民法第446条第2項・第3項)や諾成的消費貸借契約(民法第587条の2)など、一定の方式を備えていることが契約の成立要件とされている場合(要式契約)や、書面による贈与(民法第550条)や書面による使用貸借(民法第593条の2)など、要式契約とはされていないものの、契約の拘束力との関係で方式を備えることに一定の意味がある場合がある。

⑶ 問6について

 文書に対する押印は、あくまで文書の成立の真正(文書が作成者の意思に基づいて作成されたこと)を証明する有力な手段ではあるが、他の方法によっても文書の真正な成立を立証することは可能である。例えば、電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)といったデジタル技術を用いた手段のほかにも、原始的な手段としては自署(自筆)があり得るし、以下のような手段を押印の代わりに利用することも考えられる。

  1. ① 継続的な取引関係がある場合
取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)
  1. ② 新規に取引関係に入る場合
契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでのPDF送付)の記録・保存
文書や契約の成立過程(メールやSNS上のやり取り)の保存

 

3 まとめ

 文書の成立の真正を確保するという面からは、本人による押印があったとしても必ずしも万全というわけではない。そのため、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることに拘りすぎず、不要な押印を省略したり、重要な文書であっても押印以外の手段で代替したりすることを検討することが重要となる。

以上

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