◇SH2513◇ICOに対する米国証券規制――SECが証券規制の適用基準を公表(下) 森順子(2019/04/26)

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ICOに対する米国証券規制

SECが証券規制の適用基準を公表(下)

森・清水法律事務所

弁護士・ニューヨーク州弁護士 森   順 子

 

3 2019年4月3日付SECのFramework公表

 DAO後もICOに関するいくつかのケースが摘発されたが、今回のTurnkey Jetのケースで、SECは、発行されるトークンが証券法の「Security」(具体的にはinvestment contract)に該当しないと判断し、これに該当しないための一定の基準を明示した[i]

(1) Frameworkのポイント

 この公表文も上記DAOケースと同様Howeyテストを採用したうえで、判断基準として重要な②収益の期待と④他社の尽力による収益について、どのような場合にinvestment contractに該当しないかを詳述している。この基準の概略は以下の通りである。

  1. ① ICOの対象となるトークン[ii]のプラットフォーム、ネットワークはトークン募集時において完全に開発済みであり、トークン募集により得た資金をこれらの開発に充当しないこと。すなわち、ICOのネットワーク、トークンの開発に、ICOで調達した資金を使用しないこと。
  2. ② トークン保有者は取得してから直ぐに、当該トークンをネットワーク上の特定の用途のために使うことができること。
  3. ③ トークンの仕組みがその保有者による使用のために設計されており、トークンの価値又はネットワーク開発についての投機目的を満たすものではないこと。例えば、トークンがそのネットワーク(ブロックチェーン)のWalletに対してのみ譲渡できる仕組みで、その対価もトークン保有者の使用権の価値と等価であること。
  4. ④ トークンの価値の上昇に対する期待値が限定されていること。例えば、トークンの価値は一定のものであるか、時の経過により価値が減少するものとして設計されており、トークンを長期保有することが投資にはならないと合理的に判断されること。
  5. ⑤ トークンが仮想通貨である場合、当該トークンが通貨の代替物として様々な商品又はサービスの対価の支払手段として(他の仮想通貨又は現金に交換することなく)使用できること。
  6. ⑥ トークンが商品又はサービスについての権利を表象するものである場合、当該商品又はサービスの対価として、ネットワークもしくはプラットフォームの中で使用、買取できるものであること。
  7. ⑦ ブロックチェーンの設営者がトークンを買い取る場合、買取価格は当該トークンの額面金額未満であること。
  8. ⑧ トークンをマーケティング(取得の勧誘)する場合は、当該トークンの機能を強調する形で行うべきであり、トークンの市場価格の上昇が見込まれるような広告をしないこと。

(2) TurnKey Jetの件に関するSECの判断

 SECはTurnKey Jet, Inc.のノー・アクション・レター[iii]において、TurnKey社が発行するトークンが1933年証券法・1934年証券取引法に基づく登録が必要とされる有価証券には該当しないと判断した。

 TurnKey社はフロリダを拠点にプライベートジェットの派遣事業を行う会社である。TurnKey社は独自のトークンプラットフォームを開発して、プライベートジェットのチャーター・サービスの利用者(Consumer)に対して1トークン=1米ドルの価格でトークンを販売し、Consumerはチャーター・サービスを利用するにあたりこのトークンで支払う仕組みとなっている。

 SECは、2019年4月3日付ノー・アクション・レターで、以下の判断基準に基づき、このトークンが証券法の登録規制の対象となる「有価証券」には該当しないと判断した。

  1. ① TurnKey社はトークンによる調達資金を、プラットフォーム、ネットワークの構築に使用していない。
  2. ② トークンは募集時に直ちにチャーター・サービスの利用というサービスの対価として使用できること。
  3. ③ トークンの譲渡はTurnKey社専用Wallet内でのみ可能なものと限定され、このWallet外での取引が禁止されていること。
  4. ④ 1トークン当たり1米ドルで募集され、各トークンは価値の変動なく1トークン当たり1米ドルの交換価値でチャーター・サービスの利用対価として支払われること。
  5. ⑤ TurnKey社がトークンを買い戻す場合は、裁判所命令でトークンを売却する場合を除き、割引価格でのみ行うこと。
  6. ⑥ トークンの募集に当たってはチャーター・サービス利用目的が強調されており、トークンの価値上昇の可能性は強調されていないこと。

 

4 雑感

 SECのFrameworkの記述は詳細かつ多岐にわたるが、総括して言えば、投機性・収益性がなく流通が制限されていれば有価証券には該当しないという考え方のようである。わが国においても、前掲「仮想通貨交換業等に関する研究会」公表の報告書(案)において、ICOによるトークンの発行は集団投資スキーム持分とされているが、その場合金融商品取引法2条2項5号の除外規定で投資家保護のために支障のない事例は規制対象からはずされることになろう。

 米国ではブロックチェーン技術を活用して小口のトークンにより機動的に資金調達し、不動産開発を行う事業が注目されているが、わが国でも、今後は地方再生や空き家・空き地問題の解決の一手段として、トークンによる資金調達の活用が期待される。このような小口資金の調達においては、資金調達の機動性が期待できる反面、小口資金を提供する投資家保護としての情報開示、流動性の確保、並びにAMLの観点からの規制が問題となる。地方自治体の試みとして岡山県西粟倉村の「西粟倉コイン」による村おこしの資金調達が話題となっている[iv]が、このような試みを後押しできるような規制の枠組みを期待したい。



[ii] SECの公表文においては、投資対象を「digital asset」としているが、本書では便宜上トークンと称する。

[iv] 日本経済新聞2019年4月10日朝刊11面。

 

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