◇SH3249◇金融庁、「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」の更新 山名淳一(2020/07/23)

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金融庁、「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」の更新

岩田合同法律事務所

弁護士 山 名 淳 一

 

1 はじめに

 金融庁は、令和2年7月10日、「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」(以下「本文書」という。)を更新した。

 本文書は、平成30年10月に公表された「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(以下「本基本方針」という。)において示された着眼点ごとに、金融庁による実態調査やモニタリング結果を踏まえ、コンプライアンス・リスク管理の具体的な事例やそこから抽出された傾向と課題を取りまとめたものである。

 本基本方針及び本文書におけるコンプライアンス・リスク管理に関する提言は、金融機関以外の業態においても当てはまるものも少なくない。本稿では、これらの内容を簡単に解説し、更に今回の更新によって追加された具体的事例等をいくつか紹介する。

 

2 本基本方針の概要

 本基本方針は、従前のコンプライアンス・リスク管理には、①形式的なルールベースでの対応の積み重ねに終始していること(形式的)、②発生した個別問題に対する事後的な対応に偏重していること(過去志向)、③コンプライアンス問題をビジネスモデル・経営戦略とは別の問題と位置付け、管理部門中心の局所的・部分的な対応となっていること(部分的)、の3つの問題点があったことを指摘する。

 その上で、本基本方針は、これらの問題点を改善するためにはコンプライアンス・リスク管理を「形式的、過去志向、部分的」なものから「実質的、未来志向、全体的」なものへと転換することが重要であるとして[1]、「経営・ガバナンス」と「リスクベースの発想への視野拡大」という2つの着眼点に大別した上で、下図記載のような改善の方向性を示している。

[2]

 本基本方針は、特に経営陣に対し、コンプライアンス・リスク管理のための態勢整備を主導することを求めており、具体的には、①ビジネスモデル・経営戦略とコンプライアンス・リスク管理は表裏一体のものであることを認識し、ビジネスモデル・経営戦略に内在するコンプライアンス・リスクを幅広に考慮する姿勢を持つこと、②コンプライアンス・リスク管理を重視する姿勢を社内に浸透させること(その手段としての人事・報酬制度の設計運用等)、③健全で風通しの良い企業文化を醸成することなどが重要であると指摘している。

 

3 本文書の趣旨及び今回の更新において追加された具体的事例

 本文書では、本基本方針の示した着眼点に沿って、金融機関における実際の取組み事例及び問題事象につながった事例が具体的にまとめられている。紙幅の関係上全てを紹介することはできないが、今回の更新において追加された事例のうち、経営陣に求められる対応に関連したものをいくつか紹介する。

  1. ⑴ コンプライアンス・リスク管理の重要性を浸透させることに関する事例
  2.    コンプライアンス・リスク管理の重要性を浸透させるための取組み事例としては、①経営陣から役職員に対し、地域金融機関は地域社会の四方八方から見られていることを繰り返し伝えてコンプライアンス意識の浸透を図る、②役職員が真に納得できる経営理念を掲げる必要があるとして、役職員皆で経営理念を見直した、③職員から退職の申出があった場合に、表面上の理由の把握に留まらず、職場におけるパワハラの有無等その背景事情を正確に把握することで、不祥事の兆候を把握しようとしている、といった事例が紹介されている。
  3.    一方、問題事象につながった事例としては、経営陣が法令違反の件数や苦情の発生率等に照らして営業に問題があったことを認識していたものの、これらの項目を定量的に把握するにとどまり、個別事案における原因分析や再発防止策の策定等を疎かにしていたため、営業品質の改善につなげられなかった、といった事例が紹介されている。
     
  4. ⑵ 人事・報酬制度に関する事例
  5.    コンプライアンス意識を浸透させるための人事・報酬制度に関する取組事例として、①コンプライアンス・リスクの軽減には部署間の連携が重要であると考え、管理会計上、収益をダブルカウントすることで異なる二部署間の連携を促進させようとしている、②中間管理職について、「人を育てる」ことを人事評価に盛り込むことで、コミュニケーションの機会の創出にインセンティブを与えている、といった事例が紹介されている。
     
  6. ⑶ 企業文化の醸成に関する事例
  7.    企業文化の醸成に関する取組み事例として、中堅・若手職員にも経営の一翼を担っているという意識を持ってもらうために、同職員らで構成されるワーキンググループを組成し、そこで出された意見と経営陣の認識をすり合わせることで組織風土改革に取り組んでいる、といった事例が紹介されている。
  8.    一方、問題事象につながった事例としては、業務が縦割りで、かつ本社と現場の人材流動性が失われた結果、本社と現場との間のコミュニケーション・相互理解が希薄で風通しの悪い企業文化が醸成されてしまい、経営陣が現場で発生している不適切事案を適時的確に把握・認識できなかった、といった事例が報告されている。

 

4 おわりに

 本文書には、上記で紹介したものの他にも様々な取組み事例・問題事象につながった事例が紹介されているので、コンプライアンス・リスク管理のため態勢を整備する際には、業態を問わず参考になるものと思われる。

以 上

 


[1] 今野雅司「コンプライアンス・リスク管理基本方針と金融実務」金法2104号(2018)46頁参照。

[2] 金融庁「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)のポイント」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/07/compliance_revised_abstruct.pdf)より、一部を加工し抜粋。

 

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