企業法務フロンティア
『リツイート事件』が残したもの
日比谷パーク法律事務所
弁護士 井 上 拓
1 はじめに
先日、いわゆるリツイート事件(以下「本事件」)の最高裁判決が出された(最三小判令和2・7・21、平成30年(受)第1412号発信者情報開示請求事件、以下「本判決」)。本判決は、氏名表示付きの写真画像が添付されたツイートをリツイートした結果、ツイッターのシステムの仕様により氏名表示部分がトリミングされた状態で当該画像がタイムライン上に表示されたという事案において、リツイート者による氏名表示権侵害を認めたものである。ツイッター利用者を中心に動揺が広がっている。
本事件については、原告本人が情報発信をしている[1]。また、本稿を執筆している最中、本事件の原告代理人である齋藤理央弁護士も本事件について分かりやすく解説した記事を公開された[2]。技術的な点を含め、本事件の詳細についてはこれらの記事を参照されたい。
本稿では、本事件をまったく知らない読者を想定し、本事件の内容を簡単に整理した上で、本判決が社会に与える影響について考える。
2 本事件の概要
以下、本判決と関連する部分のみを簡略化して記載する。
職業写真家である原告Xは、すずらんの写真を撮影し、当該写真の隅に「©」マーク及びXの氏名を表記した文字等(以下「本件氏名表示部分」)を付加した略正方形の画像[3](以下「本件写真画像」)を作成し、自己のウェブサイトに掲載した。
氏名不詳(以下「本件元ツイート者」)が、あるアカウント[4]を用いて、Xに無断で、本件写真画像を添付したツイートをした(以下「本件元ツイート行為」)。これにより、本件写真画像のデータ(以下「本件元画像ファイル」)がツイッター社のサーバに保存された。
さらに、氏名不詳(以下「本件リツイート者」)が、別のアカウント[5]を用いて、上記ツイートをリツイートした(以下「本件リツイート行為」)。これにより、本件リツイート者のタイムラインに本件元画像ファイルへのインラインリンク[6]が自動的に設定された。その結果、本件写真画像が当該タイムラインに表示されるのだが、ツイッターのシステムの仕様により本件写真画像の全体ではなく一部のみが表示された(以下「本件表示画像」)[7]。具体的には、リツイートがなされると、ツイッター社所定の画像の表示方法を指定するHTML等のデータがリツイート者のタイムラインに係るサーバに自動的に記録され、同タイムラインの本件写真画像は当該指定に従って表示される。本事件の場合、本件写真画像が、上下の部分がトリミングされた本件氏名表示部分を含まない長方形の画像として表示された[8]。
Xは、氏名不詳である本件元ツイート者と本件リツイート者が同一人物であると考え、同人に対する責任追及を行うこととした。そこで、同人の身元を特定するため、ツイッター社を被告として、同人が用いた各アカウントに係る発信者情報を明らかとするよう求める訴訟を提起した(発信者情報開示請求訴訟)。
上記発信者情報開示請求が認められるためには、Xの「権利が侵害されたことが明らか」であることが必要である(プロバイダ責任制限法4条1項1号)。この点、本件元ツイート行為がXの著作権(公衆送信権)を侵害していることについてはツイッター社も第一審の時点で認めており、当事者間に争いがない。よって、主な争点は、本件リツイート行為がXの権利を侵害するのか否かである。
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