SH2297 企業法務フロンティア「会社が司法取引を行う場合の意思決定手続」 野宮 拓(2018/01/25)

組織法務金商法違反対応(インサイダー等)

企業法務フロンティア
会社が司法取引を行う場合の意思決定手続

日比谷パーク法律事務所

弁護士 野 宮   拓

 

 昨年秋から現在に至るまで、マスコミはカルロス・ゴーン事件一色である。コーポレート・ジェットで羽田空港に降り立ったゴーン氏が東京地検特捜部に逮捕されたのはセンセーショナルであった。当初の逮捕容疑は、有価証券報告書虚偽記載(金融商品取引法違反)であったが、逮捕に至る過程で司法取引が用いられたと言われている。司法取引の2例目である。そして、そのきっかけは日産社内での内部通報であり、内部通報を元に監査役が調査を行い金融商品取引法違反にたどり着き、執行役員2名が司法取引をすることにより、日産のトップであったゴーン会長(当時)の刑事責任が追及されたと報道されている。

 司法取引の1例目は、三菱日立パワーシステムズの役員ら3名がタイの発電所建設に関連してタイの港湾当局関係者に贈賄したとして、不正競争防止法違反で起訴されたというものであった。これも発覚のきっかけは三菱日立パワーシステムズでの内部通報であったが、三菱日立パワーシステムズという法人自体が司法取引により起訴を免れ、役員ら3名の刑事責任が追及された。

 このように公になっている司法取引2例のいずれについても内部通報がきっかけとなっている点は興味深い。企業法務関係者は内部通報が司法取引に発展し得ることを十分に視野に入れて、どのようなプロセスを辿るのかをシミュレートした上で、その過程で惹起し得る問題を検討し対処する必要がある。本稿においては、その中でも、会社が「本人」として司法取引を行う場合の決裁権限について若干の考察を行いたい。

 司法取引とは、正式には「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」といい、特定の財政経済犯罪と薬物銃器犯罪について、検察官と被疑者・被告人(本人)とが、弁護人の同意がある場合に、本人が他人の刑事事件について証拠収集等への協力をし、検察官が、その協力行為を考慮して、本人の事件につき不起訴処分や特定の求刑等をすることを内容とする合意をすることができるというものである(刑事訴訟法350条の2)。合意は、要式行為とされており、合意の内容を明らかにする書面(合意内容書面)を作成し、検察官、本人及び弁護人の三者が連署することによって合意が成立する(同法350条の3第2項)。法人が合意の主体となることも可能であり、その場合、合意に係る手続は、法人の代表者が行う(同法27条1項)。また、検察当局によれば、法律上の要請はないものの、協議の開始に際しては協議開始書を検察官、本人及び弁護人の連署により作成するという運用をしているようである。

 さて、それでは内部通報の結果、会社の取締役に犯罪行為(法人の両罰規定があるもの)が発覚した場合、当該会社が「本人」として、当該取締役を「他人」として、検察官との間で司法取引を行うためにはどのようなプロセスが要求されるであろうか。

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