◇SH3267◇経産省、「事業再編実務指針」を策定――事業ポートフォリオと組織の変革に向けて(2020/08/18)

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経産省、「事業再編実務指針」を策定

――事業ポートフォリオと組織の変革に向けて――

 

 

 経済産業省は7月31日、事業再編研究会(座長=神田秀樹・学習院大学大学院法務研究科教授)における議論等を踏まえ、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」(以下、「本指針」)を策定・公表した。

 日本企業において事業ポートフォリオを検討する必要性が指摘されているところ、特に「事業の切出し」に対しては消極的な企業も多く、必ずしも十分に行われていない状況にあるとされている。

 これに対して、「新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告」(令和元年12月19日・未来投資会議)において、「企業価値向上のためのスピンオフを含めた事業再編を促進するため、取締役会の監督機能の強化等の在り方について指針をとりまとめる」との方向性が示されたことを受けて、経済産業省では令和2年1月より事業再編研究会を設置し、計6回にわたり、持続的な成長に向けた事業再編を促進するため、経営陣、取締役会・社外取締役、投資家といった3つのレイヤーを通じて、コーポレートガバナンスを有効に機能させるための具体的な方策について検討を行った(同研究会立ち上げの経緯等については、後掲の別稿参照)。

 さらに、令和2年7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」において、「スピンオフを含む事業再編を促進するための実務指針を策定し、企業に対応を促す」との方針が示されたことも受け、今般、同研究会の議論をまとめる形で本指針を策定したものである。

 本指針は、コーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」)との整合性を維持しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資する形でコーポレートガバナンスを実践するためにコードを補完するものであるとされている。

 また、本指針は、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(令和元年6月28日)の事業ポートフォリオマネジメントに関する議論を前提に、特に事業再編に焦点を当て、経営陣における適切なインセンティブ、取締役会による監督機能の発揮、投資家とのエンゲージメントへの対応、事業評価の仕組みの構築と開示の在り方を整理するとともに、事業の切り出しを円滑に実行するための実務上の工夫について、ベストプラクティスとして示すものとなっている。

 本指針の構成を概観すると、第2章が経営陣、第3章が取締役会・社外取締役、第4章が投資家と、それぞれのレイヤーごとにコーポレートガバナンスを機能させるための具体的な取組等を整理しており、第5章では「事業の切出し」を円滑に実行するための実務上の工夫についてまとめている。

 以下では、「エグゼクティブ・サマリー」から、ポイントを紹介する。

  1. (※) なお、旬刊商事法務No.2238(8月5・15日号)に関連記事を掲載しているほか、商事法務研究会のHPには経産省の担当官による解説動画(商事法務研究会会員・旬刊商事法務読者向け)を掲載しているので、参考にされたい。

 

▽「エグゼクティブ・サマリー」のポイント

2 経営陣における課題と対応の方向性

【事業ポートフォリオマネジメントの在り方】

  1. ○ 事業ポートフォリオマネジメントの基本的考え方
  2. ・ 経営者は、事業ポートフォリオに関する基本方針の立案(取締役会への付議)、その執行、見直しの立案を行う等、事業ポートフォリオマネジメントの一義的な責任者として主導的な役割を果たすことが期待される。
  3. ・ 事業ポートフォリオマネジメントの基本は、①企業理念・価値基準に基づき、②ビジネスモデルを明確化し、経営戦略を策定した上で、③事業ポートフォリオを定期的に見直す仕組みを構築し、これを適切に運用することである。

 

3 取締役会・社外取締役における課題と対応の方向性

【取締役会の役割】

  1. ○ 取締役会における事業ポートフォリオに関する基本方針の見直し
  2. ・ 取締役会においては、(i)少なくとも年に1回は定期的に事業ポートフォリオに関する基本方針の見直しを行うとともに、(ii)経営陣に対して、事業ポートフォリオマネジメントの実施状況等に関して監督を行うべきである。
  3. ・ 取締役会において上記の見直しや監督を行う際には、株主に対する受託者責任を踏まえ、中長期的な企業価値の向上に向けて、全社レベルの視点から検討するとともに、①事業ポートフォリオマネジメントに関する実施体制・事業評価の仕組み・情報開示及び②事業ポートフォリオの内容について具体的に確認すべきである。

【社外取締役の役割】

  1. ○ 事業ポートフォリオに関する検討への積極的な関与
  2. ・ 事業の切出しに関しては、経営陣に「現状維持バイアス」がかかりやすいとの指摘もあり、社外取締役には、事業ポートフォリオに関する検討への積極的な関与が期待される。
  3. ・ 社外取締役が、独立した立場から、その検討を働きかけるとともに、必要に応じて、事業の切出しに関する経営陣の判断を後押しすることや、事業評価の仕組みの構築や取締役会での議論を促すことも重要である。
     
  4. ○ 社外取締役による投資家との対話
  5. ・ 社外取締役が、自ら投資家との対話を積極的に行い、事業ポートフォリオに関する投資家の見方を学び、対話の内容を取締役会にフィードバックすることも有意義である。また、投資家との対話の中で、事業ポートフォリオについて取締役会で十分な議論がなされていることについて社外取締役が監督者として説明することは投資家の理解と納得を得ることにもつながる。

 

4 投資家との対話や情報開示における課題と対応の方向性

【投資家との対話や情報開示の充実】

  1. ○ 投資家への期待
  2. ・ 投資家において、事業ポートフォリオの組替え等に積極的に取り組む経営者を適切に評価し、後押しすることは、企業の持続的な成長を支え、企業と投資家双方の利益につながり得るものである。「スチュワードシップ・コード」の趣旨を踏まえ、投資家側においても、企業の中長期的な成長戦略やその実現のためのリスクテイクに対する理解を深める努力が期待される。

 

 

経産省、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」を策定しました(7月31日)https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731003/20200731003.html

○事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/20200731003-1.pdf

○別紙(事業セグメントごとの貸借対照表の作成方法と資本コストの算定方法)
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/20200731003-2.pdf

○参考資料集
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/20200731003-3.pdf

○エグゼクティブ・サマリー
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/20200731003-4.pdf

○事業再編研究会の活動状況
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jigyo_saihen/index.html

 

参考

SH3021 経産省、「事業再編研究会」を立ち上げる――スピンオフ等による積極的な事業再編を促し、実効的なガバナンスの仕組みを構築するための具体的な方策について検討 藤田浩貴(2020/02/21)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=11076918

 

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