◇SH3271◇来場または観覧を伴う会場や店舗におけるコロナ対応 佐藤大和(2020/08/19)

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来場または観覧を伴う会場や店舗におけるコロナ対応

レイ法律事務所

弁護士 佐 藤 大 和

 

1 はじめに

 現在、世界中において、新型コロナウイルスの感染者数が増大し、東京都内においても1日あたり400人を超える新規感染者も生じている。

 そして、店舗、会場もしくは会社内におけるクラスター(集団感染)も増えている。宝塚歌劇団では、公演関係者13人が新型コロナウイルスに感染し、また、島根県の高校では、生徒・教員を含む91人が新型コロナウイルスに感染し、各地でクラスターが多く確認されている。

 上述のとおり、現在、新型コロナウイルスの感染者数が増大しているため、来場または観覧を伴う大規模イベントを今後どういう形で開催すべきか、また、例年通りの開催を予定しているイベントのどこを見直すべきなのか検討している企業も多いと考える。そのような検討においては、万が一クラスターが発生した場合の対応方法まで想定しておくことは必須である。そこで、来場または観覧を伴う会場または店舗において、クラスターが発生した場合、会場、店舗を運営している、もしくは会場におけるイベントを主催している事業者は、どのような対応をすべきか、安全配慮義務違反を問われないためにはどうしたら良いのか、筆者のイベントにおける大規模なクラスター対応の経験を踏まえて詳述する。

 

2 クラスターが発生した場合の対応

⑴ 初動対応

 まず、来場または観覧を伴う会場、店舗またはイベントにおいて、新型コロナウイルスの感染者が発生した場合、当然ながら、保健所に連絡をしつつ、適切な事実確認が必要となる。そして、同時に店舗及び会場の消毒作業が必要となる。

 この時点において、企業としては、感染者は1人であると決して楽観視はせず、数名程度のクラスター、さらには、より大規模なクラスターが発生する可能性を疑い、事業者または主催者において、感染者が生じた現場の責任者のほか、後述のとおり損害賠償責任、または補償問題等に発展することも想定し、顧問弁護士、企業の法務部またはクラスター対応の経験がある弁護士を含む「クラスター対応チーム」を作る必要がある[1]

 その上で、新型コロナウイルスの感染者が発症した時期からその前後において、その会場もしくは店舗にいたスタッフ、関係者(取引先)、来場者または観覧者等に連絡を行い、速やかにPCR検査を受けることを勧めるべきである[2]

 次に、新型コロナウイルス感染拡大の抑止の観点から、クラスター対応チームから各関係者に対して聴き取り等を行い、適切に事実関係を把握したら、随時、会場、店舗を運営している、もしくは会場におけるイベントを主催している事業者のHP等において感染に係る情報を公開することが望ましい。また、外部取引先を含めた関係者間において、随時、情報共有をするべきである。特に、大規模なクラスターが発生した場合、来場者もしくは観覧者から、陽性者情報を知りたいという問合せが殺到するため、陽性者が来場または観覧した際の場所及び時間帯をできるだけ特定しておくことが求められる。そのためには、来場者または観覧者に対する専用窓口を創設し、来場者または観覧者から速やかに感染情報等を収集するという方法がある[3]。なお、これらの情報収集は、後々、公的機関から求められる報告書等の作成の際にも役立つ。

 また、クラスターの発生中及び収束後には、イベントの出演者、取引先、または来場者等から、感染に関する責任や補償等に関する協議を求められ、さらに、行政から業種別感染拡大予防ガイドラインの遵守状況について確認を求められる。そのため、関係者からの聴き取りを進め、①客観的資料に基づくガイドラインの遵守状況、及び②感染に関する事実経緯については随時報告書の形にてまとめる必要がある。そして、可能な範囲において、③陽性者に対してアンケート等を実施し、行動履歴を把握しながら、感染経路、クラスターの原因究明についても同時に進めていかなければならない。

⑵ メディア対応

 メディア対応の鉄則としては、以前、「メディア戦略法務」で述べたとおり[4]、メディアで拡散されることによるレピュテーションリスクを軽減するために「1回の対応」で終わらせることが肝要である。

 しかし、新型コロナウイルスの対応は、人の生命または身体に対する著しい影響、及び感染力の高さから、来場または観覧を伴うイベントにおける大規模なクラスターが発生する見込みが高い場合には、企業として情報を適切な形で公開し、誠実に対応する方が結果的にはレピュテーションリスクを抑えることができると考える。企業のレピュテーションリスクの観点から考える場合、後々「隠蔽だ」と言われる方が企業としての信用や信頼を失うことになるため好ましくなく、そのような事態は避けるべきである。

 具体的には、企業の広報は、クラスター対応チームと協力し、上述のとおり、事業者のHPにおいて、保健所と相談しながら感染者の人数を公開しつつ[5]、来場者または観覧者に対し速やかに、「発熱等の症状が生じた場合、速やかに、近くの保健所、帰国者・接触者相談センターに相談する」ように案内する旨の文言を掲載する[6]。なお、この時点では、感染経路は不明確であることが多いため、その点に触れつつ、感染経路に関する憶測等を記載することは避けるべきである。

 ところで、大規模なクラスターが発生した場合、各メディアからの問合せも多く発生する。来場者または観覧者に対する専用窓口以外に、メディア専用窓口を創設するかを検討する必要はあるが、仮に創設した場合、メディアからの取材が殺到し、その対応に追われるため、基本的には創設する必要はないと考える。また、大企業はともかく、中小の企業であれば、従業員であるスタッフが濃厚接触者である可能性もあるため[7]、当該スタッフの健康状態、適切な事実確認及び感染拡大抑止を優先し、積極的なメディア対応は避けるべきである。

 もしメディアからの問合せについて回答する場合においても「当社のHPにてお知らせするため、そちらを見て欲しい」という回答に留めるべきである[8]。また、その他の問合せについても同様に、「ご心配並びにご迷惑をおかけした」ことを丁寧に謝罪しつつ、現在、事実確認中であると伝え、「何か明らかになった場合には当社のHPにてお知らせする」という回答に留めるべきである。

⑶ クラスター沈静後の対応

 基本的に、大規模なクラスターが発生した場合、その対応において慌ただしくなるのは、最初の数週間ほどであり、その後は徐々に沈静化する。そのため、メディア、保健所、出演者や来場者等に対する対応の沈静後は、クラスター対応チームを縮小するか、通常のとおり法務部または顧問弁護士が、残る補償等に関する問題に対応する形になるだろう。

(流れ)

 ① 感染者1人発生

    ↓

 ② クラスター対応チームの創設

    ↓

 ③ クラスター対応チームが指示をしながら、

   ❶ 関係者に対して、保健所に相談、簡易検査またはPCR検査等を勧奨

   ❷ 自社で作成したクラスター発生対応マニュアルに従い、保健所と協力しながら事実確認

   ❸ 企業の営業または顧客管理部を中心に来場者または観覧者に対する専用窓口を創設し、対応

   ❹ 企業の法務部を中心に報告書、改善報告書等の作成

   ❺ 企業の広報部を中心にメディア対応  等

    ↓

 ④ クラスター沈静後、チームを縮小し、顧問弁護士等と補償問題に関する対応

 

3 クラスター発生に備えて

⑴ ガイドライン

 現在、上述のとおり、新型コロナウイルスの感染者数が増大し、会場または店舗において、いつクラスターが発生してもおかしくない状況である。そして、発生した場合、事業者に対する安全配慮義務[9]違反が問題になる。

 一般に、安全配慮義務違反の有無は、当該事業活動等により事故等が発生する可能性の程度、事業者等による事故等の予見可能性・結果回避可能性、事業者等が実際に事故等を回避するために講じた措置等を総合考慮して判断される。そして、安全配慮義務は、多数の利用者が存在する施設において感染症が発生したなどという場面でも問題となり得る。実際に、公衆浴場の利用者がレジオネラ肺炎(レジオネラ属菌の感染による肺炎)を発症した事案につき、事業者が条例、厚労省の通知・マニュアル等に従った衛生管理措置を講じていなかったことを理由に、安全配慮義務違反を認めた裁判例もある(前橋地判平成23・11・16判時2148号88頁)。

 したがって、新型コロナウイルスの感染者数が増大している状況下において、事業者は、安全配慮義務として、「新型コロナウイルスの感染者が発生しないように合理的な措置、配慮等を尽くすべき義務」を負うと考えられる。具体的には、感染者またはクラスターが発生しないようにするため、行政が作成している業種別感染拡大予防ガイドラインをもとにして、新型コロナウイルス感染の抑止、または拡大の抑止の観点から、イベント内容や会場、店舗に対応した具体的なガイドラインを作成し、それを適切に遵守することが求められる。

 ところで、後に、損害賠償の責任問題になる可能性を視野に、そのガイドラインの遵守状況について、写真撮影等をしながら証拠として随時保管しておくべきである。なお、サーモグラフィを設置して検温をすることも感染拡大抑止の観点から有効だと思われるが、それでも無症状の陽性者を見逃すため[10]、消毒及びマスク着用等の徹底が不可欠である[11]

⑵ 新型コロナウイルスに合わせた契約書及び定型約款について

 現在、会場でイベント等を開催する場合、出演者、取引先または外部スタッフ等との間で契約書が作成されていない場合が少なからずある。契約書がなければ、クラスターが発生した場合、事実経緯の調査、感染状況に係る外部に対する公開・告知方法、会場・出演者・取引先等との補償の有無や補償の範囲、イベント中止・再開の判断、または労災に関する問題などにおいて、後々紛争になる可能性が高くなり、迅速な対応を妨げることに繋がる。また責任問題になった場合においても紛争になり得る。

 そのため、出演者、取引先または外部スタッフ等との間における契約書において、新型コロナウイルスに関する取り決めをしておく方が好ましい。具体的には、主催者側としては、新型コロナウイルスの感染者が発生した場合において保健所と相談しながら速やかに情報公開すること、主催しているイベントを直ちに中止すること等を定め、主催者側の損害賠償の制限条項等を設けておくべきである。

 また、観覧者がいるイベント等の場合、観覧者に対する定型約款も新型コロナウイルスの発症者が生じた場合に備えた条項が必要となる。こちらも主催者側の損害賠償の範囲を制限する条項[12]を検討の上、連絡方法の確認[13]、保健所に対する個人情報の公開、事業者側のHP等における情報公開をすることについて予め同意を得ておくべきである[14]

⑶ 新型コロナウイルスの感染者が発生した場合に備えたマニュアル作り

 新型コロナウイルスの感染者が生じた場合、事業者は上述のような問題に対する対応の他、各マスコミや保健所または行政に対する対応等に追われることになり、現場は混乱することが少なくない。そのため、事前に、クラスターに関する対応の経験がある者及び顧問弁護士等と協議しながら、対応時の順番、優先事項、連絡方法、メディアに対する対応方法(レピュテーションリスク対策)等を記載したマニュアルを作成するべきである[15]

 以上のとおり、現在、新型コロナウイルスの感染者数が増大している中、事業者及び主催者側は、クラスターが発生する可能性を視野に入れ、専門家と協議しながら、ガイドラインの策定、新型コロナウイルスに関する契約条項、定型約款、感染発覚後のマニュアル等を策定するべきである。

以上



[1] 筆者は今まで多くの企業の危機管理の経験があるが、大規模なクラスターが発生した場合、毎日のように新たな陽性者が発生し、濃厚接触者も増え続ける。対応が後手にならないように感染者が少数の時点から、クラスター対応チームを作るべきと考える。またチームには、後述のとおり、広報も必要であるため、企業の広報部からも選出するべきである。さらに、保健所との連絡係を置き、情報の一元化に努める観点からも、対応チームの創設が必要になる。

[2] この点について簡易検査で足りるという意見もあるが、簡易検査で陰性でも、PCR検査で陽性になることはあるため、保健所に連絡した上でPCR検査を受けることを勧めるべきである。

[3] 多数の問合せが発生するため、法務部もしくは弁護士と協議しながら、企業の広報部等が想定問答集を作成しておくことが望ましい。問合せ内容の中心は「陽性者がどこにいたのか」「自分が濃厚接触者に該当するのか」であり、来場者または観覧者が濃厚接触者とされてからは「補償はどうするのか」という問合せが増える傾向にある。

[5] 大規模なクラスターが発生した場合、現在の社会的な状況を鑑みると、把握している限りにおいて感染者数は公開すべきであるが、個人情報の特定になることは新たなトラブルを発生させるため避けるべきである。また、店舗または会場を訪れた来場者または観覧者のなかには自分が感染者であることの公開すら避けたいという者もいるため、感染者数の公開には、慎重な配慮が必要となる。さらに、感染者が誹謗中傷の対象となり、深刻化するケースも多いため、誹謗中傷を防止する観点からも情報の公開には、感染者個人を特定できないようにするなど、慎重な配慮や誹謗中傷に対する対応が必要である。

[6] 来場者または観覧者が全員濃厚接触者とされる可能性もあるため、その場合に速やかに来場者または観覧者に対して連絡できるよう、連絡先を把握しておく必要がある。

[7] 濃厚接触者とされた場合、執筆時点では、保健所から2週間程度の自宅待機をするようにと指示を受けている。

[8] 大規模なクラスターが発生した場合、一部メディアでは、虚偽の事実や憶測で記事を掲載する場合があるため、そのようなメディアには個別で記事の削除請求等を求めつつ、名誉毀損等を理由に損害賠償をすることを視野に、当該記事等を保存しておくことが望ましい。

[9] 「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の附随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として、(中略)生命および健康等を危機から保護するよう配慮すべき義務を負つているものと解すべきである」(最三小判昭和50・2・25判時767号11頁)

[10] 実際に検温をしていた会場において大規模なクラスターが発生した事例がある。

[11] フェイスガードも有効的であるが、熱中症になる可能性もあるため、フェイスガードを使用する者の熱中症対策も必要である。

[12] 対消費者との契約においては、全部免責条項は、消費者契約法8条1項1号、3号に抵触し、無効となる(なお、東京高判平成29・ 1・18は、軽過失の場合に限定した全部免責条項であっても無効である旨判示している。)。

[13] 観覧者が多い場合には、連絡を一斉にするため、メールアドレスが好ましい。

[14] 観覧者の中には、個人特定を避けたいということから情報公開を拒否する者もいるため、情報公開について予め同意を得ておく必要がある。

[15] 現在、筆者は、さまざまなイベントにおけるガイドライン等のレビューをしているが、新型コロナウイルスの感染抑止・拡大対策としては、イベント時における収容人数・距離に関する規定(曖昧な規定になっていることが多く現場に裁量がある形になっている)、会場に換気に関する規定(具体的には換気設備、換気を意識した演出、会場規模等に合わせた換気時間の把握、会場以外の会議室・控室・楽屋やロッカールーム等の換気対策等に関する規定)、飲食または喫煙時に関する規定、出演者に対する行動履歴の把握に関する規定、出演者やスタッフ等のイベント参加基準、来場者に対する感染予防策や注意事項の掲載方法、マスクまたはフェイスシールド着用時の熱中症対策に関する規定などにおいて不十分なところが多く、またクラスター発生後のマニュアルまで記載しているものはまだ少ない。筆者としては、クラスター発生後のマニュアルは不可欠であると考えている。

 

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