◇SH3309◇Withコロナ時代の労働法務 第2回 在宅勤務(2) 福谷賢典(2020/09/15)

労働法

Withコロナ時代の労働法務
 第2回 在宅勤務(2)

島田法律事務所

弁護士 福 谷 賢 典

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下「新型コロナ」という)の流行が収束を見ない状況下、各企業においては、事業活動の継続と感染拡大防止の両立が図られる形での従業員の働き方を実現する必要があるが、本連載では、このことに伴って求められる労務管理等の諸課題への対処について解説する。第2回では、第1回に引き続き、在宅勤務を巡る各種の法的論点について述べる。

 なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が現在所属し、または過去に所属していたいかなる団体の見解を示すものでもないことに注意されたい。

 

Ⅱ 在宅勤務と労働時間管理

1 労働時間規制の適用

 第1回で述べたとおり、在宅勤務は、基本的には、就業の場所が各従業員の自宅であること以外に通常の勤務と異なるところはない。「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「テレワークガイドライン」という)においても、テレワークを行う労働者に対して労働基準法や労働安全衛生法といった労働基準関係法令が適用されることが確認されている(同2(1))。

 したがって、在宅勤務をする従業員についても、労働基準法等に定める労働時間規制が当然に適用されることとなる。すなわち、法定労働時間(1週40時間、1日8時間。労働基準法32条)は遵守されなければならず、これを超えて労働させる場合には同法36条に基づく労使協定(いわゆる三六協定)の締結・届出が必要となるが、その場合にも同条の定める労働時間の上限規制[1]に服する必要がある。また、在宅勤務者に時間外・休日・深夜(以下「時間外等」という)の労働(以下「時間外労働等」という)をさせる場合も、割増賃金の支払いが必要となる(同法37条)。さらに、所定労働時間(始業・終業時刻および休憩時間)にかかる就業規則の定め(同法89条1号)の適用も、在宅勤務者と一般の従業員とで異なるところはない。

 

2 時間外労働等

 在宅勤務の場合、従業員が管理職の目が届かない場所で勤務することになるため、相対的には管理の程度が弱くなり、結果として時間外労働等にかかる労働時間が長くなるおそれがあるとされる。

 この点、労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいい[2]、使用者の命令がないにもかかわらず、労働者が使用者の知らぬ間に業務に従事していたという場合は、その時間は労働時間には該当しない。そうだとすれば、たとえば、在宅勤務規程などを制定し、在宅勤務者が時間外等に業務を行うときは事前に申告して管理者の許可を得ること、および時間外等に業務を行った実績について事後に管理者に報告することを義務付けていた場合に、事前許可を受けず事後報告も行わないまま在宅勤務者が時間外等に業務を行っていたとしても、その時間は使用者の命令に基づくものとはいえず、労働時間には該当しないようにも思われる。

 しかしながら、これは在宅勤務者のみならず一般の従業員についても妥当することであるが、使用者の黙示的な命令があったとか、労働者が時間外等に業務を行うことを余儀なくされていた等、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価される時間については、労働時間に該当するものと解される。このことを踏まえ、テレワークガイドラインは、上記の事前許可・事後報告制の下で許可・報告がない場合であっても、以下の①ないし③のすべてに該当する場合に限り、在宅勤務者の時間外等の労働が使用者のいかなる関与もなしに行われたものと評価することができ、その時間が労働時間に該当しないとしている(同2(2)エ)。

  1. ① 時間外等に労働することについて、使用者から強制されたり、義務付けられたりした事実がないこと
  2. ② 当該労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合等、時間外等に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がないこと
  3. ③ 時間外等に当該労働者からメールが送信されていたり、時間外等に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されたりしている等、時間外等に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が時間外等の労働を知り得なかったこと

 さらに、テレワークガイドラインは、上記の事前許可・事後報告制につき、以下の①および②のいずれをも満たしていなければならないとしている(同2(2)エ)。

  1. ① 労働者からの事前の申告に上限時間が設けられていたり、労働者が実績どおりに申告しないよう使用者から働きかけや圧力があったりする等、当該事業場における事前許可制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと
  2. ② 時間外等に業務を行った実績について、当該労働者からの事後の報告に上限時間が設けられていたり、労働者が実績どおりに報告しないように使用者から働きかけや圧力があったりする等、当該事業場における事後報告制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと

 なお、テレワークガイドラインは、長時間労働対策としてはむしろ時間外労働等を原則禁止とすることも有効であるとしている(同2(3)③)。もっとも、厚生労働省は、本年8月17日、テレワークの促進策を検討する有識者会議(「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」)を立ち上げ、上記ガイドラインの記載が中小企業などにおいて柔軟な働き方の導入に足踏みする要因になっているとの問題意識の下、適切な労務管理を前提に休日・深夜労働を明確に認めるルールの整備を目指すとしており[3]、今後の動向を注視する必要がある。

 

3 中抜け時間

 在宅勤務者が、個人的事情(育児、介護等)により、所定労働時間内に一時業務から離れる必要が生じることがある。かかる中抜け時間は、事業場で勤務する一般の従業員においても生じ得るものではあるが、在宅勤務者の方が業務と私生活との境界があいまいとなり、中抜け時間も生じやすくなるものと思われる。

 中抜け時間については、労働者が使用者の指揮命令を受けず、自由に利用することが保障されている限り、労働時間には含まれないと解される。かかる時間を労務管理上どのように処理するかについては、以下の①ないし③の各方法が考えられる。

  1. ① 始業・終業時刻の変更
  2.    在宅勤務者が、個人的事情により、始業時刻よりも遅い時刻からしか業務を開始することができない、あるいは、終業時刻よりも早い時刻に業務を終了する必要があるという場合は、当該者の始業時刻を繰り下げ、あるいは、終業時刻を繰り上げることが考えられる。
     始業・終業時刻は就業規則の必要的記載事項であるが(労働基準法89条1号)、企業の一般的な就業規則では、始業・終業時刻につき、業務上の必要性に応じて繰上げ・繰下げが可能である旨の規定が置かれていることが多い。かかる就業規則の規定がある企業であれば、在宅勤務者の事情に応じ、個別具体的な業務命令によって始業・終業時刻の繰上げ・繰下げを行うことが可能である。
     
  3. ② 休憩時間の付与
  4.    在宅勤務者が、個人的事情により、所定労働時間の中途で一時業務から離れなければならないときは、その時間を休憩時間として付与することが考えられる。
     この点、労働基準法34条2項は、休憩時間は一斉に付与しなければならないとしているが(一斉付与の原則)、ここでいう「休憩時間」はあくまで同条1項が要求する法定の休憩時間[4]であり、かかる法定基準を超える休憩時間は、必ずしも一斉に与えなければならないわけではない[5]。したがって、全従業員に適用される休憩時間(たとえば、正午から午後1時まで)とは別に、在宅勤務者の事情に応じ、各者に対して追加的に各別の休憩時間を付与することも可能である。かかる休憩時間を付与した場合、当該時間分の給与を控除することも可能であるが、終業時刻をその分繰り下げること(前記①)で、給与を控除しないようにすることもできる。
     
  5. ③ 時間単位の年次有給休暇の付与
  6.    労働基準法39条4項は、使用者が事業場単位の労使協定[6]を締結することにより、年5日の限度で時間単位の年次有給休暇を労働者に付与することを可能としているところ、在宅勤務者の中抜け時間については、かかる時間単位の年休として付与することも考えられる。当然のことながら、年休は労働者の請求(時季指定)によって付与されるべきものであるから、在宅勤務者に対して時間単位の年休の取得を強要することはできない。
     2019年4月施行の改正労働基準法により、使用者は、年休が10日以上の労働者に対し、年間5日分の年休を取得させる義務を負うこととなったところ(同法39条7項)、上記の在宅勤務者に対する時間単位の年休の付与は、年休取得の促進策として有用であるとも考えられる。

 なお、上記①ないし③の方法を用いるのは、在宅勤務者の中抜け時間がいつ頃になるかが事前に判明している場合が多いと思われるところ、そうではなく、在宅勤務者において、突発的に短時間、業務から離れざるを得なくなることも考えられる。かかる時間を在宅勤務者からの報告等によって把握した場合、当該時間分の給与を控除することも可能であるが、給与計算が煩雑になることは否めない。実務上は、在宅勤務者について成果主義的な人事評価を行うという観点から、一定程度の成果が確保されている限りにおいて短時間の中抜けは不問とし、給与は控除しないこととすることも考えられよう。

 

4 移動時間

 たとえば、午前中は在宅勤務をしていた従業員が、午後になってから出社勤務したような場合に、自宅から事業場への移動時間が労働時間に該当するかが問題となる。

 テレワークガイドラインは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否か」によって個別具体的に判断すべきであるとし、「使用者が移動することを労働者に命ずることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、その自由利用が保障されているような時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられる」が、「使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間と考えられる」としている。そして、たとえば「使用者が具体的な業務のために急きょ至急の出社を求めたような場合」の移動時間は、労働時間に該当するとしている(同2(2)イ(ア)(ⅱ)③)。

 しかしながら、出社自体が使用者に命令されたものであるからといって、出社のための移動時間につき、常に労働者の自由利用が保障されていないと解する必要はないように思われる。移動時間がある程度の長さであり、たとえば公共交通機関を利用する間は読書でも睡眠でも自由に時間を使えるという場合には、当該時間は使用者の指揮命令下にはなく、労働時間に該当しないとの評価も妥当し得るところである。

 ただし、上記のように解し得るとしても、在宅勤務者ごとに異なる出社のための移動時間を各別に把握し、それらが労働時間に該当しないものとして、当該時間分の給与を控除したりすることは、非常に煩雑である。思うに、上記在宅勤務者の移動時間は、一般の従業員に対して所定労働時間内にある事業場から別の事業場への移動(本部・営業店間の移動等)を命じた場合の移動時間とも同視し得るところ、かかる移動時間を労働時間に該当しないものとして取り扱うことは実務上少ないように思われ、そうであるとすれば、上記在宅勤務者の移動時間も同様に取り扱えばよいであろう。

(第3回へ続く)

 


[1] 三六協定によって労働時間を延長して労働させることができる原則的な限度時間は、1ヵ月について45時間、1年について360時間であり(労働基準法36条4項)、特別条項を定めた月(1年について6ヵ月以内)を含めても、1ヵ月について100時間未満、1年について720時間未満である(同条5項)。なお、直近2ないし6ヵ月の各期間における時間外労働および休日労働の平均時間が1ヵ月について80時間を超えないようにする必要もある(同条6項3号)。

[2] 最一小判平成12・3・9民集54巻3号801頁(三菱重工業長崎造船所事件)。

[3] 2020年8月18日付日本経済新聞朝刊5面「テレワーク定着へ有識者会議設立 厚労省、2万社調査」。

[4] 使用者は、労働者の労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与えなければならない。

[5] 菅野和夫『労働法〔第12版〕』(弘文堂、2019)485頁。

[6] 労使協定では、①時間単位で年休を付与し得る労働者の範囲、②時間単位の年休として付与し得る年休の日数(5日以内に限る)、③②の年休日数について1日の時間数(1日の所定労働時間数を下回らないものとする)、および④1時間以外の時間単位で年休を付与することとする場合はその時間数(1日の所定労働時間数に満たないもの)を定める必要がある(労働基準法39条4項、労働基準法施行規則24条の4)。

 

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