◇SH2977◇契約の終了 第12回 組合・組合契約と終了(下) 中山知己(2020/01/23)

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契約の終了
第12回 組合・組合契約と終了(下)

 明治大学教授

中  山  知  己

 

 承前

Ⅲ 契約としての組合契約の終了

 これまで組合の法的性質を諾成・有償・双務契約として構成する場合には、通常であれば問題なく適用されるはずの民法諸規定、とくに民法総則、債権総則、そして契約総則に関する規定を組合契約に適用してよいか、が議論されてきた。基本的にこれは組合契約の法的性質決定に関する議論であるといってよいであろう。当初、組合契約が諾成・有償・双務契約であることは古来かつて議論なき所とされていたが[23]、後に双務契約ではないがなお契約であるとする説が生じ、やがて合同行為であるとする説が有力に主張された[24]。しかし、合同行為説に対しては従来より根強い反論[25]がなされ、この概念を生み出したドイツにおいてもその後批判があり、現在では、法律行為の分類としても一般の教科書等で合同行為概念が説明されることは少なくなっている[26]。もっとも近時は問題を抽象的ないし演繹的に法的性質決定から導くのではなく、契約総則等の規定の適用の当否を個別的に検討すべきであるとの主張がなされている。たとえば、後述するように同時履行の抗弁権、危険負担、解除の適用が制限されることから組合契約を合同行為としてよいとする見解[27]、あるいはこれと同様に、合同行為説によりつつ、意思の不存在その他の規定の適用などにつき、個別的に問題を検討すればよいとする見解[28]がみられる。もっともこのような方向の議論に対してもあえて合同行為という意味は乏しいとの指摘もある。すなわち最高裁は少なくとも公刊された裁判例では、合同行為の概念を用いていないようであり、また組合契約は実定法上の双務契約であるといいがたいがーーあまり意味のある議論でないと留保しつつーーなお組合契約は諾成・有償契約で「広義の」双務契約であるとされる[29]

 このような議論状況をみるとき、今日においてなお合同行為説に依拠する理由は何か、明確にする必要があるであろう。わが国では法律行為概念の分類に際し伝統的に合同行為概念が説明されてきたが、ドイツ法においては合同行為ではなく、決議(Beschluss)概念が採用されてきており、その経緯も含めてなお吟味される必要があろう。しかしながら、さしあたり本稿の終了との関係では、この法的性質論について団体との関連、とくに団体の終了との関係が比較的明かな我妻説を中心に検討する。

1 解除・危険負担

 契約法において組合ないし組合契約の終了に関連するのは、解除・危険負担の制度である。従来、危険負担の制度は、双務契約説に立てば適用されるが、なお団体性から制限を受け[30]、あるいは組合契約に適用されないとされた[31]。後者は、組合理論によって解決すべきであるとする。たとえば、特定の不動産を出資する義務を負担する者の給付が不可抗力によって履行不能となってもこの者が出資をしたことになるのでなく(改正前534条1項適用なし)、また労務出資をなすべき組合員Aの出資が組合継続中にAの責めに帰すべからざる事由によって将来に向かって履行不能となっても、組合が消滅するのでないことはもとより、Aの給付義務に対応する他の者の給付義務が消滅することによってAが当然脱退すると解すべきでもない(改正前536条1項の適用なし)という[32]。後者の場合、組合の存続中Aの労務給付が出資義務である場合、とくにそれまでの労務だけで出資と認める合意が成立しないかぎり、将来に向かって出資をしないことになり、その理由で脱退することになる。また、いずれの場合でも、不能となった出資が組合の目的達成のために重要なもので、不能となることで組合の目的達成が不能または著しく困難となるときは、そのために組合が解散することは、おのずから別問題であるとし、さらに二人だけから成る組合でも危険負担の適用を認める必要はないとの指摘がある[33]

 改正法では、Aの出資債務が帰責事由なく履行できなくなった場合でも自己の出資債務の履行を拒むことはできない(新667条の2第1項、新536条の規定の不適用、改正前534条は削除)。労務給付が出資義務である場合、将来にわたり履行不能である場合、脱退することとなるか、あるいは組合の目的達成との関係で解散となるかは、組合の団体としての存続の問題となろう。

 

2 担保責任としての解除ほか

 当初は、組合契約を一種の有償契約と解して売買規定を準用(559条)する一方で、組合契約の特殊性を考慮し、たとえば代金の支払期限の推定規定(573条)の準用ができないなどの例外を認めていた(梅)ところ、合同行為説をとる我妻に至って変更され、有償契約の通則たる売買の規定の準用(559条)についても、双務契約規定と同様に、組合契約に適用なしと解する。有償契約の本質たる当事者の対価的出捐とは、当事者が相手方の出捐を自己の利益として収めることを意味し、各当事者が共通の目的のために出捐することを含まないというべきだから、というのが理由である。実際上問題になるのは、売主担保責任規定(現行561条~571条)であり、たとえば、甲組合員が出資を約した不動産が他人に属し、しかも甲がそれを取得して組合に移転できないとき(改正前561条、563条2項)解除権を認めることは、たとえその効果に遡及効を認め得ないとしても、組合の団体的性質に適さない。民法が組合員の脱退・除名・解散請求などについて規定したのは、組合結合関係の全部または一部の終了は、専らこれらの規定による趣旨とみるべきであって、売買規定の準用を否定し、脱退・解散によって処理すべきである[34]とする[35]

 担保責任として代金減額請求権を生ずる場合に該当するとき、たとえば甲組合員が数量を指示して出資した土地の面積が不足する場合、出資の評価を改めることによって解決すべきであるか、あるいは別種の追加出資をするなどの合意が必要で、それが不可能なら、甲組合員は脱退することになり、またもし組合の目的達成が著しく困難か、不可能になるならば組合は解散することになるとする[36]

 改正前の議論であるが、担保責任として売主が無過失賠償責任を負う場合、たとえば甲組合員の出資した目的物(特定の自動車)に隠れた瑕疵があったため多額の修理費を要した場合など、組合員は無過失責任を負わず、債務不履行の一般通則に従うとする。

 さらに契約解除の通則(540条~548条)も組合契約には適用がない。この点も、上述したところと同様に、解除規定の主要な目的が、当事者の給付交換関係の規律にあるから、組合員全当事者の共通の目的のために給付を結合する組合には適用されないと考えるからである[37]。かつての判例も一組合員の債務不履行によって組合契約の全部が解除される結果を生じて「組合ノ団体性ニ反スルノミナラス、民法カ脱退除名解散請求等ヲ認メタル法意ヲ没却」することになると説く[38]。もっとも2人だけの組合員の場合、遡及効のない解約を認めても差し支えない[39]として、団体性を組合員二人の組合の場合には制限ないし否定する。

 改正法では、債務不履行による解除(新541条)に関しては、たとえばある組合員が出資債務を履行しないことを理由に、組合契約を解除することはできない(新667条の2第2項)。仮に債務不履行解除を認めると、「やむを得ない事由」を要件とする解散請求制度(683条)と整合しないからであり、また解散請求のほか、履行しない組合員の除名(680条、679条4号)、脱退(678条)、組合の解散(新682条1号・3号・4号)の各制度があり、これらは組合の団体性を考慮しているのであって、これらにより解決されるべきだからである[40]。さらに、この規律は出資債務に限らず、組合契約に基づく債務不履行一般に適用され、現行法下でも同様とされる[41]。このように改正法においても、組合契約の終了における規律が、団体としての組合の規律に接続・移行する場面があることが確認できる。

 

3 組合契約の瑕疵

 組合契約に、意思表示の瑕疵に関する民法総則規定が適用されるか。この点も組合の終了に関わる問題である。双務契約説でも合同行為説でも、意思表示は存在するので、むしろ組合の団体性との関係がこの場面ではより強く問われよう。

 ここでは、組合が事業を開始して第三者と取引関係を生ずる前後が区別される。意思表示した当事者を保護する必要がある一方で、組合の存続を望む他の組合員や取引関係に入った第三者の利益も考慮しなければならないからである。ここでも主として我妻説の所論を中心に検討する。

 (1) 組合が事業を開始し第三者と取引関係を生ずる前においては、制限行為能力・意思表示に関する民法総則規定はそのまま適用される。組合契約は合同行為であるとしても、この段階においては団体としての社会的実体はまだ存立しないから、「各当事者が相互に権利義務を負う点だけに着目して、個人法上の規定を適用することが妥当」[42]とされる。しかし、3人以上で組合契約を締結し、そのうち1人の意思表示が無効・取消しとなったとき、組合契約としての意思の合致から見るときは、一部の無効または取消を生ずるわけだが、その者だけが組合関係から脱落するのではなく、原則として――残部のものだけで組合を成立させようとする意思が認められない限り――全部が効力を失う。組合契約は相互の信頼に基いて結合される関係だからである[43]。もっともこれに対しては、組合の団体性(社団化された性格をどの程度もつか)のほか、組合の目的が公益的か経済的か、その組合員が業務執行権を有するかどうか、その組合が組合員の交替をある程度予想する等、諸般の点を綜合して、反対に推定すべき場合もあるとの指摘もある[44]。ここでも組合の団体性が強い場合には、個人法上の処理をしない場面が登場するといえよう。

 (2) 組合が事業を開始し第三者と取引関係を生じた後には、意思表示の総則規定をそのまま適用することはできない。というのは、これらの規定は、個人対個人の取引関係を規律することを主眼とするものであって、団体設立の基礎となる行為(合同行為)にそのまま適用し、団体そのものの存在を無に帰せしめることは著しく妥当を欠くとし、さらに団体がすでに社会的実体として活動するときは、この外形を信頼する第三者の立場から、右の個人法上の規定の適用を制限すべきである[45]。そして、このような趣旨に基づく商法(現会社法)の規定、たとえば設立取消しの訴えの制度(一般法人法267条1号、274条、276条1項、会社法832条1号、839条、845条【持分会社】)の精神を類推すべきであるという[46]。これらの規定のない組合については組合契約そのものの無効・取消しを認めることなく、すべて脱退によって処理する他はない。したがって、組合契約の意思表示に無能力または詐欺・強迫などの瑕疵のあった者は、まずそれを理由として、脱退することができ、次にその意思表示の瑕疵のために組合員となって不利益を蒙ったとき(例 無能力または詐欺強迫のために出資した財産と分配を受けた利益とが不権衡であったとき)民法の一般理論に従って返還請求することができる[47]。しかし他方で、組合と取引をした第三者に対する関係では普通の脱退組合員と同様の責任を負わねばならない(表示主義の徹底)[48]

 これに対して、改正法は、組合員の一人について意思表示の無効又は取消しの原因があっても、他の組合員の間においては、組合契約の効力は妨げられない(新667条の3)とする。上述のように、現行法の解釈としては第三者との取引開始の前後で分ける解釈が有力であったが、改正法では他の組合員の意思を尊重して組合契約の効力を認める必要があること、第三者との取引開始の前後で紛争を生ずるおそれがあることから、実務上問題があるとの指摘もあり、この解釈を取らなかった[49]。すなわち、組合員の一人についての意思表示の無効等は、組合契約全体の効力に影響を及ぼすことはなく、その組合員との関係でのみ効果が生じ、出資した財産がある場合には、原状回復としてその返還を求めることができる(新121条の2)。そして残存組合員のみでは組合を存続することができない場合、組合を解散することになる(新682条1号又は4号)。もっとも他の組合員の意思を尊重しているのであるから、その必要がないときは組合契約全体が成立しないか、効力を生じないとすべき場合があるといえる[50]。さらに、法律行為に無効・取消原因がある組合員を除くと二人以上の組合員が残らない場合、組合の解散事由の有無の問題として処理すべきであると考えられ、この点は組合の団体としての終了に接続する。

 

Ⅳ 団体性の意義

 以上で見てきたように、組合契約は、組合という団体(組織)が関係するために、契約の終了という場面のみならず、団体(組織)の終了という場面が存在する。他方、民法上の組合は法人格をもたない団体であるために、社団との関係は従来から議論されてきた[51]。上述してきたように、個々の解釈論で、団体性が強く出る場合には、契約法の総則規定の適用が大なり小なり制限されてきた。近時、このような解釈論の動向も踏まえ、契約の基本類型・分類の議論が注目される。たとえば、市場型契約(ガソリンスタンドにたまたま立ち寄った車のドライバーとのガソリンの売買契約)と組織型契約(フランチャイズ契約・下請契約)という区別がされ、前者には当事者の自由な合意を基準として民法規定や通常の契約解釈論が用いられるが、後者には「組織原理」が類推適用されるべきだという見解がある[52]。そして組織としての一体性という観点から、①法人、②組合、③諸契約の締結、という順になるとされるが、組合は組織型契約になり、組織性がある。他方、権利能力なき社団は、現在では法人格を取得することが容易となっており、その存在意義が減少していることから、民法上の組合としては、契約的性質が強いものが残り、その結果組合の契約性がより強調される、という[53]

 上述した合同行為論に関しても、「法律上は契約という形式を採りながら実質的には組織(団体)を創出するという法技術(組合契約はその古典的法技術であり、その権利義務の解釈にあたって一般の契約と同視してよいかは問題たりうる)が、新たに現代的意味を帯び始めており、このような組織形態における権利義務を解釈するには、少なくとも契約の解釈一般とは異なった態度を要求するとも考えられ」、そうであれば「そのような組織を創設するに至る段階に関するかぎり、合同行為の概念は、これを一概に捨て去るべきではない」と指摘される[54](ただし合同行為の伝統的定義があまりにも比喩的であるとして再定義が必要とする)。このような指摘は、団体(組織)性と契約性の関係における合同行為論の意義について、再評価を示唆するものといえる。もっともそうであれば、我妻説のような合同行為説と契約説の折衷的構成もまた改めて検討し直す必要もあろう。



[23] 梅謙次郎『民法要義巻之三(債権編)』(国立国会図書館デジタルコレクション)(私立法政大学ほか、1897)774頁。

[24] 我妻・前掲注[1]758頁。

[25] 宮崎孝治郎「合同行為否認論」法学研究(愛知学院大学)10巻2号(1967)39頁、川島武宜『民法総則』(有斐閣、1965)108頁、159頁、幾代通『民法総則〔第2版〕』(青林書院、1984)186頁以下など。

[26] 代表的な体系書でも、民法総則の法律行為概念の種類として、一方的(einseitig)法律行為と多方的(mehrseitig)法律行為に分類され、後者がさらに契約と決議(Beschlüsse)に分類されている。Larenz/Wolf/Neuner, Allgemeiner Teil des Bürgerlichen Rechts, 10. Aufl. 2012, S. 320-323.

[27] 星野英一『民法概論Ⅳ 第二分冊 契約各論』(良書普及会、1976)310頁。

[28] 川井健『民法概論4 債権各論〔補訂版〕』(有斐閣、2010)332頁。

[29] 中田・前掲注[5]555頁。

[30] 鳩山秀夫『増訂日本債権法(各論)下』(岩波書店、1924)688頁以下。

[31] 我妻・前掲注[1]760頁。

[32] 鳩山・前掲注[30]669頁、末弘厳太郎『債権各論』(有斐閣、1918)820頁など。

[33] 我妻・前掲注[1]761頁。

[34] 我妻・前掲注[1]761頁、大判明治44・12・26民録17輯916頁もこれを認めるとして引用。

[35] 福地は、甲組合員だけの脱退として処理すべしとしやむを得ない場合には解散によるとする(新版注釈民法(17)36頁)。

[36] 我妻・前掲注[1]761~762頁、新版注釈民法(17)36頁以下。

[37] 我妻・前掲注[1]758頁。

[38] 大判昭和14・6・20民集18巻666頁。

[39] 新版注釈民法(17)38頁[福地]。

[40] 中田・前掲注[5]563~564頁。

[41] 中田・前掲注[5]564頁。

[42] 我妻・前掲注[1]763頁。

[43] 同前。法律行為の一部無効の理論の例外とする。

[44] 新版注釈民法(17)39頁[福地]。

[45] 我妻・前掲注[1]763頁。

[46] 株式の引受けに関する意思表示について、民法93条ただし書及び94条1項が不適用(会社法51条1項)、錯誤無効主張、詐欺強迫による引受けの取消しは、会社成立後は認められない(同条2項)、会社設立無効の訴え、設立取消の訴えの制度を設けて無効主張や効果を大幅に制限(提訴期間828条1項、原告適格828条2項、対世効838条、不遡及839条)など。

[47] もっとも無能力、詐欺強迫については法定追認(125条)があり、意思欠缺においても125条の類推ができるとされる(新版注釈民法(17)41頁[福地])。

[48] 例外として、無能力【制限行為能力】を理由として脱退する者だけはこの責任を免れる。民法はこの者についてだけは表見的責任を負わさせない趣旨という(我妻・前掲注[1]765頁)。

[49] 部会資料75A、第6、2説明1(2)43頁。

[50] 中田・前掲注[5]562頁も同旨。

[51] 峻別論と連続論、あるいは類型論。山本敬三『民法講義Ⅰ総則〔第3版〕』(有斐閣、2011)511頁以下、社団と組合との関係について山本『民法講義Ⅳ-1契約』(有斐閣、2005)753頁以下、中田・前掲注(5)556頁以下など。

[52] 平井宜雄『債権各論 I 上 契約総論』(弘文堂、2008)64頁以下、114頁以下、同「いわゆる継続的契約に関する一考察」星野英一先生古稀祝賀『日本民法学の形成と課題』(有斐閣、1996)697頁、同「契約法学の再構築(1)~(3・完)」ジュリ1158号96頁・1159号135頁・1160号99頁(いずれも1999)。

[53] 中田・前掲注[5]560頁。

[54] 川島武宜=平井宜雄編『新版注釈民法(3)総則(3)』(有斐閣、1993初版、2003復刻版)51頁以下[平井]。

 

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