インド:2019年消費者保護法上のProduct Liability(3)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 山 本 匡
前回に引き続き、インドの2019年消費者保護法上のProduct Liabilityについて概説する。
5. PL訴訟において責任主体が損害賠償責任を負う場合
2019年消費者保護法(CPA)上、責任主体の種類により、PL訴訟において責任主体が責任を負う場合が区別して規定されている。製造物製造者、製造物サービス提供者および製造物販売業者がPL訴訟において責任を負うとされているのは、それぞれ以下の場合である。
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⑴ 製造物製造者
- ① 製造物に製造上の欠陥が含まれる場合
- ② 製造物に設計上の欠陥がある場合
- ③ 製造仕様からの逸脱がある場合
- ④ 製造物が明示の保証に適合しない場合(製造物製造者は、製造物について明示の保証を行うに当たり、無過失であったことまたは欺罔的でなかったことを証明しても、免責されない。)
- ⑤ 損害を防止するための正しい使用についての適切な指示または不適切もしくは不正な使用に関する警告が製造物に記載されていない場合
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⑵ 製造物サービス提供者
- ① 製造物サービス提供者が提供したサービスに、その時点で有効な法律、契約その他に基づき提供することが求められる履行の品質、性質または態様の瑕疵、不完全性、欠陥または不備がある場合
- ② 損害を生じさせた過失、不作為もしくは作為または意図的な情報の差し控えがあった場合
- ③ 当該サービス提供者が、損害を防止するための適切な指示または警告を出さなかった場合
- ④ サービスが明示の保証または契約の条件に適合しなかった場合
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⑶ 製造物製造者でない製造物販売業者
- ① 損害を生じさせた製造物の設計、試験、製造、パッケージまたはラベルを実質的に管理した場合
- ② 製造物を変更または改造し、当該変更または改造が損害を生じさせる実質的な要因であった場合
- ③ 製造物製造者の製造物についての明示の保証とは無関係に明示の保証を行い、当該製造物が損害を生じさせた製造物販売業者の明示の保証に適合しない場合
- ④ 当該製造物販売業者が製造物を販売し、かつ、製造物製造者の身元が不明である場合、またはその身元が判明していたとしても、製造物製造者に通知、訴状もしくは令状の送達を行うことができず、製造物製造者にインドの法律が適用されず、もしくは製造物製造者に対して命令を執行することができない場合
- ⑤ 製造物の組立て、検査もしくは保守に当たって相当の注意を怠り、または製造物を販売する際に関連する危険性もしくは当該製造物の適正な使用に関する製造物製造者の警告もしくは指示を伝達することを怠り、かつ、当該懈怠が損害の直接の原因であった場合
日本の製造物責任法上、製造業者等は、製造その他の行為を行った製造物であって、引き渡したものの「欠陥」により他人の生命等を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負うところ、この欠陥は、一般的に、製造上の欠陥、設計上の欠陥および指示・警告上の欠陥に分類することができると考えられている。
一方、上記から分かる通り、CPAでは、製造物またはサービスの「欠陥」により損害を生じた場合に製造物製造者等の責任主体が責任を負うという直裁的な文言の規定となってはいない。むしろ、責任主体ごとに責任を負う場合が規定されており、その場合の中において、「欠陥」という文言または「欠陥」の定義内で使用されている文言と同じ文言が含まれている。上記の各場合が欠陥の具体的内容という整理になるのかもしれないが、欠陥の定義と上記の各場合との関係は必ずしも明確でないように思われる。
6. 賠償の対象となる損害の範囲
賠償の対象となる損害は広汎にわたり、製造物自体を除く財産に対する損害や、生命または身体に対する危害、精神的損害等も対象となる。なお、PL訴訟における損害賠償の支払命令とは別の規定ではあるが、CPAに基づき設置された準司法機関である消費者紛争救済委員会は、懲罰的賠償を命令することができる旨の規定がCPAに存在する。
(4)につづく