インドネシア:輸入業者番号(API)に関する商業大臣令の改正
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
去る2015年9月28日、輸入業者番号(API)に関する商業大臣令(2015年第70号、以下「新大臣令」という。)が公布された。新大臣令は2016年1月1日から施行される。輸入業者番号制度については、2012年に一連の商業大臣令(以下「旧大臣令」と総称する。)による改正がなされたところであったが、2015年9月9日にジョコ・ウィドド大統領が発表した経済回復に向けた政策パッケージ第一弾の一環として、輸入業者番号制度についてさらなる改正がなされたものである。商業省は、本改正により輸入手続に係る規制、手続の合理化、簡略化が図られることを期待している模様である。
1. 輸入業者番号制度
インドネシアにおいては、原則として、APIとよばれる輸入業者番号を有する業者のみが物品の輸入を行うことができる。APIにはAPI-U(一般輸入業者番号)及びAPI-P(製造輸入業者番号)の2種類が存在するところ、API-Uは売買目的で一定の物品の輸入を行うための輸入ライセンスであり、API-Pは自ら生産等に使用するために資本財、原材料、補助材等の輸入を行うための輸入ライセンスである。一つの会社が両方のAPIを取得することは認められず、いずれか一方のAPIに限り取得が可能であるという点は、旧大臣令と新大臣令において変わるところはない。
2. 今回の改正における注目ポイント
(1) 「1つのAPI-Uに基づき輸入できる物品は1分野のみ」の制限の撤廃
旧大臣令の下では、API-Uの保有者が輸入できる物品は、1つのAPI-Uにつき(すなわち、1社につき)、21種類に分類された物品分野のうちいずれか1種類に限られるとされた。かかる改正は実務界からの批判が大きく、結局最初の改正から数か月で新たな改正がなされ、「1つのAPI-Uに基づき輸入できる物品は1分野のみ」の枠組みを維持しつつも、輸出者と輸入者の間に「特別な関係」(一定の契約関係や株式保有関係に基づくものがこれに該当するとされる。)があれば、輸入者(API-U保有者)において複数分野に係る物品を輸入することが可能であるとされた。新大臣令では、かかる輸入物品の分野に関する制限を設けておらず、したがって当該制限は撤廃されたと解される。この点はAPI-Uを保有する輸入業者において輸入の自由度の増す改正であるといえる。
(2) API-P保有者による一定の完成品の輸入及び販売が認められないこととなる可能性
旧大臣令の下では、売買目的での物品の輸入を行うことが原則として認められないAPI-P保有者であっても、インドネシア市場の反応を見るために試験的に販売を行う場合の「試験製品」、又は一定の要件を満たした「補完財」については、当局の承認(PIとしての決定)を受けて、完成品を輸入しこれをインドネシア国内で販売することが許容されていた。例えば、API-P保有者がインドネシアにおいて製造する製品に関連するアフターサービス用のパーツやアクセサリーパーツ等の完成品を補完財として輸入し、販売する場合等がこれにあたる。
ところが、新大臣令では、従前よりも限定された範囲でのみ輸入品の販売を認める規定は存在するものの(第6条)、旧大臣令において認められていたAPI-P保有者による完成品(試験製品及び補完財)の輸入及び販売を認める規定は設けられていない。新大臣令の規定を文理解釈する限りでは、これまでAPI-P保有者に認められていた一定の完成品の輸入及び販売は今後認められなくなるのではないかという懸念が実務界に生じており、仮にそうだとすると実務上相当程度大きな影響が生じることが予想される。実際にそのような解釈を前提に運用がなされるのか否か、引き続き注視していく必要がある。
3. 新制度への移行
新大臣令は一連の旧大臣令を取り消し、新たにルールを定めるという建付けとなっている。上記のとおり新大臣令の施行日は2016年1月1日であるところ、新大臣令において、旧大臣令に基づいて発行されたAPIは引き続き有効であり、2016年6月30日までに新大臣令における制度と調整する旨、及び、新大臣令施行後も旧大臣令に基づいてなされたPIとしての決定はその有効期限まで引き続き有効である旨が定められている。