マレーシア:倒産処理・債務整理に関する法制度の改革(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 酒 井 嘉 彦
マレーシアにおいて、会社の倒産処理・債務整理にはマレーシア会社法(Companies Act 2016。以下「会社法」という。)の条項が適用されるところ、会社法を所管するマレーシア企業委員会(Companies Commission of Malaysia)は、この夏、2020年会社法改正案に関する諮問文書(以下「諮問案」という。)を公表した。諮問案では、倒産処理・債務整理手続に関する会社法改正の政策的指針に加え、会社法の改正文言案も提示されている。今回は、前回に引き続き、倒産処理・債務整理手続に関する会社法改正に向けた主要な動向について、その概要を紹介する。
3. スキーム・オブ・アレンジメントの法的枠組みの強化(つづき)
(2)債権者による処分禁止命令の申立権
スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement。以下「SOA」という。)におけるモラトリアム期間中の債権者の保護を強化するために、債権者は、債務者が誠意をもって通常の事業過程において行う場合を除き、会社が財産を処分し又は株式を譲渡することについて制限する特別命令を発することを裁判所に申し立てることができる旨が提案されている。
(3)裁判所の処分禁止命令の関連会社への適用拡大
SOAの対象となる会社に対する法的手続や処分を禁止する裁判所の処分禁止命令について、当該会社の子会社や親会社等の関係会社がSOAにおいて必要不可欠な役割を果たしている場合など、これらの関連会社に対する法的手続や処分もあわせて制限しなければ、SOAが奏功しない場合があり得る。このような場合に、法定の要件が満たされることを条件として、裁判所が管轄権を有する限り、裁判所の処分禁止命令の適用対象が当該関連会社にも拡大され得る旨の規定が提案されている。
(4)クラムダウン制度の導入
SOAにおいて、異なるクラスの債権者が存在する場合、債権者のクラス毎に総債権金額の4分の3以上の債権額を保有する債権者の賛成が必要とされている。したがって、あるクラスの債権者が反対する場合、SOAが成り立たないおそれがあった。諮問案では、一定のクラスの債権者が反対している場合であっても、当該クラスの債権者にとって公正かつ衡平であり、異なるクラスの債権者を不当に差別していない等の一定の要件が満たされる場合には、強制的にSOAを承認することを認めるクラムダウン制度(cross class cram-down)を導入することが提案されている。
(5)その他、プロセスの改善
上記に加えて、SOAのプロセスを改善するものとして、以下の制度の導入が提案されている。
- (ⅰ) 提案されたSOA案の内容に異議が提起された場合、裁判所は、プロセス全体を最初からやり直すのではなく、修正SOA案の内容であらためて承認を得る債権者会議を開催することができる制度。これにより、より良い内容の修正SOA案について、迅速に債権者の承認を得る機会が設けられる。
- (ⅱ) 裁判所が、一定の条件の下、債権者集会を開催せずにSOA案を承認することを認める制度。
- (ⅲ) 債権者が、裁判所に対して、モラトリアム期間中に会社が行った決定の再審理を求め、一定の救済を申し立てることができる制度
4. 倒産処理メニューの活用の拡大
倒産処理メニューの活用の拡大 |
(1)会社任意和議手続へのアクセスの拡大 (2)会社更生手続へのアクセスの拡大 |
諮問案では、会社法上の倒産処理メニューの活用の拡大のための改正案も提示されている。これらの倒産処理メニューへのアクセスを拡大することは、COVID-19のパンデミックによる影響を緩和する上で、重要な改正提案であると位置付けられている。
(1)会社任意和議手続(corporate voluntary arrangement)へのアクセスの拡大
現行の会社法下では、会社任意和議手続を利用できる会社は制限されていたものの、諮問案では、かかる制限を取り除き、法定されている一定の会社を除き、会社任意和議手続は広く利用可能とされている。
(2)会社更生手続(judicial management)へのアクセスの拡大
会社更生手続についてもその利用可能な会社の要件を明確化し、会社更生手続に対するアクセス拡大が志向されている。
((3・完)につづく)