◇SH3438◇中国:外商投資安全審査弁法の公布(下) 川合正倫/鹿 はせる(2020/12/29)

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中国:外商投資安全審査弁法の公布(下)

 

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫
弁護士 鹿   はせる

 

(承前)

3. 審査手続

 安全審査の申請者が、国家発展改革委員会内に設置される担当部署(「工作機制弁公室」、以下「当局」という。)に対して、投資計画等必要資料を提出することで審査が開始される。当局による安全審査は一般審査及び特別審査の二段階に分類されるが(8条)、一般審査の前に、当事者が行う外商投資について安全審査の対象となるかの確認を求める手続が用意されており、当局は当事者から提出された投資計画等の資料に基づき、15営業日以内に当該投資について安全審査が必要か否かの決定を下した上で、書面で通知することとしている(7条)。一般審査が行われた上で、国家安全に影響する可能性があると判断される場合は特別審査の対象となる。具体的な手続及び審査決定は下表のとおりである。

 

段 階 時 限 審査決定[1]
初期確認 申告書類の受領日から15営業日以内
  1. •  安全審査を要しないと決定した場合、当事者は投資を実行することができる。
  2. •  安全審査を要すると決定した場合、一般審査の手続に入る。
一般審査 上記決定がされた日から30営業日以内
  1. •  外商投資が国家安全に影響しないと判断した場合、安全審査のクリアランスを下す。
  2. •  国家安全に影響し又は影響しうると判断した場合、特別審査の開始を決定する。
特別審査 開始日から60営業日以内
  1. •  外商投資が国家安全に影響しないと判断した場合、安全審査のクリアランスを下す。
  2. •  外商投資が国家安全に影響すると判断した場合、投資禁止の決定を下す。
  3. •  追加条件を付すことにより国家安全に対する影響を解消でき、当事者が書面で追加条件の受入れを承諾した場合、条件付きの安全審査のクリアランスを下すことができる。

 

 自身の行おうとしている投資が安全審査弁法の適用対象になるか否か不明確の場合には、外国投資家は5条に基づく投資前の照会に加え、上記7条に従い、安全審査の必要性に関する確認を求めることが想定されている。なお、安全審査期間中、当局は申請者に資料情報の補足を求めることができ、補足資料が提出されるまでの期間は審査期間に算入されないと規定されていることから(10条)、事実上、審査期間が大幅に延長される可能性があることにも留意する必要がある[2]

 審査内容に関し、従来の通知では、(i)国防安全、国防需要の国内製品の生産力、国内サービス提供力及び関連設備施設を含む事項に対する影響、(ii)国の経済の平穏な運行に対する影響、(iii)社会の基本生活秩序に対する影響、(iv)買収取引が国の安全に及ぶキーテクノロジーの研究開発力に対する影響とされているが、(v)国の文化安全、公共道徳に対する影響、(vi)国のネットワークセキュリティに対する影響等を審査内容としていたが、安全審査弁法では審査内容に関する具体的な規定はなく、当局に広範な裁量があると考えておく必要があるように思われる。

 

4. 違反に対する措置

 安全審査が必要となるにもかかわらず申請を行わない場合、①当局は当事者に対して、指定する期限内に申請を行うことを命令できる、②①に基づく申請を行わない場合、当局は当事者に対して、株式、資産の処分等を通じて投資実行前の状態に回復することを命令できる、と規定されており(18条)、独禁法の届出義務違反等と異なり罰金規定は定められていない。

 また、未申告のみならず、虚偽の情報提供や情報を隠匿した場合、付加条件の不履行も是正命令等の対象とされている。

 さらに、上記の処分に該当した場合、規定違反行為を不良信用記録とし国の関連信用情報システムに組み入れる点にも留意が必要である。

(完)

 


[1] 外商投資法35条2項によると、法に基づいて下された安全審査決定は、最終決定とする。

[2] 実務上は、①の確認期間においても、当局による補足情報の要求及び期間の中断が認められるかが重要と思われる。この点、安全審査弁法10条の規定によれば、当局が補足情報を要求できるのは「安全審査期間」中であり、同8条が「外商投資安全審査は一般審査及び特別審査に分けられる」と規定しているため、①の確認期間はそれによって安全審査の要否が決定されるものの、安全審査そのものではなく、したがって期間の中断も認められないと解すべきように思われる。もっとも、条文上は必ずしも明確ではないので、実務の動向を見守る必要がある。

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

(ろく・はせる)

2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2010年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年長島・大野・常松法律事務所入所。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在し、2020年より長島・大野・常松法律事務所の東京オフィスに復帰。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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