郵便業務担当の契約社員と正社員との間の年末年始勤務手当等に
関する相違が不合理と判断された事例
(日本郵便事件・最一判令和2年10月15日)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 沢 崎 敦 一
1 はじめに
2020年10月第3週は、いわゆる20条裁判に関し、非常に重要な週であった。同月13日、最高裁第三小法廷から、大阪医科薬科大学事件(宮崎裕子裁判長)およびメトロコマース事件(林景一裁判長)に関し判決が言い渡され、同じ週の同月15日、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)から、3つの日本郵便事件(東京事件、大阪事件、佐賀事件)に関する判決が言い渡されたからである。本稿では上記のうち3つの日本郵便事件を取り上げるが、これらの事件では、日本郵便で郵便業務を担当する契約社員らが、年末年始勤務手当、病気休暇、夏期冬期休暇等の労働条件について正社員との間に相違があったことは、いわゆる働き方改革関連法による改正前の労働契約法20条(「改正前労契法20条」)に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償請求をするなどしていた。控訴審では判断が分かれたものもあったため、最高裁による判断が長らく待たれていたところであった。
以下、最高裁で不合理か否かの判断の対象となった労働条件の相違[1]について、最高裁の判断を見ていく。タイトルの横に事件名を記載しているが、それはどの事件で最高裁が判断を示したかを示している。事件名と原審の対応は以下の通りである。
事件名 | 原審 |
東京高判平成30・12・13労判1198号45頁 |
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大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁 |
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福岡高判平成30・5・24労経速2352号3頁 |
2 年末年始勤務手当(東京事件、大阪事件)
年末年始勤務手当については、郵便業務担当の正社員のみに支給し、同じ業務に従事する契約社員(「本件契約社員」)には支給しないという相違があった。東京事件の原審は、上記相違は不合理と判断したが、大阪事件の原審は、上記相違は原則として不合理ではないが、通算雇用期間が5年を超える場合は不合理となると判断した。
これに対し、最高裁は、以下の理由から上記相違は不合理と判断した。
- ① 年末年始勤務手当は、郵便業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている年末年始の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価の性質を有する。
- ② 従事した業務の内容やその難度等にかかわらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体が、同手当の支給要件とされている。
- ③ 同手当の支給金額は実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
- ④ このような同手当の性質や支給要件および支給金額に照らせば、同手当を支給することとした趣旨は、本件契約社員にも妥当する。
- ⑤ 郵便業務担当の正社員と本件契約社員との間に職務の内容や当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情(「職務の内容等」)につき相応の相違があること等を考慮しても、上記相違は不合理であると評価できる。
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(さわさき・のぶひと)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。1999年3月東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録(54期)。経営法曹会議会員。第二東京弁護士会労働問題検討委員会委員長(2020年4月~)。労働法務、データプライバシー法務を中心に、企業法務全般を広く取り扱う。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 https://www.amt-law.com/
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