◇SH3382◇厚労省、「令和2年版 過労死等防止対策白書」を公表 藤田浩貴(2020/11/13)

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厚労省、「令和2年版 過労死等防止対策白書」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 田 浩 貴

 

1 はじめに

 厚生労働省は、令和2年10月30日、「令和元年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(以下「令和2年版過労死等防止対策白書」という。)を公表した。

 政府は、毎年、国会に対して、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出しなければならないとされており(過労死等防止対策推進法第6条)、「過労死等防止対策白書」は、同条に基づき作成・提出される年次報告書である。

2 令和2年版過労死等防止対策白書について

⑴ 令和2年版過労死等防止対策白書の構成

 令和2年版過労死等防止対策白書の構成は、下図のとおりであるが、疫学研究等についてのこれまでの主な分析を記載している点や企業や民間団体等における過労死等を防止するための取組事例をコラムとして多く紹介している点がポイントとして挙げられる。

出典:厚生労働省『令和2年版過労死等防止対策白書(令和元年度年次報告)〔概要〕』
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/11/000689329.pdf

 

 以下では、過労死等防止対策推進法及び令和2年版過労死等防止対策白書の対象となる「過労死等」とは何を意味するのかについて解説したうえで、実際に労災支給決定(認定)がなされた事案を分析することが重要と考えられることから、令和2年版過労死等防止対策白書第3章の1「労災支給決定(認定)事案の分析及び労働・社会」について解説を行うこととする。

⑵ 「過労死等」の意義

 そもそも、「過労死等」とは、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」とされている(過労死等防止対策推進法第2条)。

 すなわち、「過労死等」は、①脳・心臓疾患事案と②精神障害事案に大きく分けることができる。令和2年版過労死等防止対策白書においても、「過労死等」を①と②に分けつつ、労災支給決定(認定)事案についての分析を行っている。

⑶ 労災支給決定(認定)事案についての分析

 令和2年版過労死等防止対策白書においては、平成22年度から平成29年度までの8年分の労災支給決定(認定)された①脳・心臓疾患事案2280件及び②精神障害事案3517件について分析が行われている。

 まず、①脳・心臓疾患事案については、40歳代から50歳代の発症が多く、40歳以上の割合は男性、女性ともに8割以上であったとされており、業種別に分析すると、「運輸業、郵便業」、「卸売業、小売業」、「製造業」の順に件数が多くなっている。発症前1か月の時間外労働時間の平均は99.6時間であり、また、発症前6か月の労働時間以外の負荷要因としては、「拘束時間の長い勤務」が最も多く、次いで「交代勤務・深夜勤務」、「不規則な勤務」の順となり、「医療、福祉」と「建設業」では「精神的緊張に伴う業務」が多くなっていることが特徴として挙げられる。

 次に、②精神障害事案について、30歳代から40歳代の発病が多いが、特に女性においては29歳以下が最も多くなっていることが特徴として挙げられる。業種別に分析すると、「製造業」、「卸売業、小売業」、「医療、福祉」の順に多くなっている。発病に関与したと考えられるストレス要因(出来事)としては、長時間労働、仕事内容・仕事量の変化、職場の人間関係に関連するものが多くなっているが、特に「医療、福祉」においては、悲惨な事故や災害の体験・目撃が多くなっていることが特徴として挙げられる。

3 まとめ

 企業は、以上の分析を踏まえ、過労死等を防止するための対策を講じていくことが重要となる。例えば、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、大企業を中心にテレワークの導入が進んだが、仕事とプライベートの境界が曖昧となることによる長時間労働の懸念や社内のコミュニケーションをうまくとれないなど慣れない在宅勤務がストレスとなっている可能性が指摘されているところであり、企業としては、これらが精神障害事案に繋がることをあらためて認識してメンタルヘルス対策に取り組むことが重要となるといえるであろう。

 また、令和2年版過労死等防止対策白書においては、企業や民間団体等における過労死等を防止するための取組事例を紹介したコラムも多く取り上げられているので、過労死等を防止するための対策を実施する際にはこれらのコラムも参考になるであろう。

以上

 


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(ふじた・ひろき)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年大阪大学法学部卒業。2015年京都大学法科大学院修了。2016年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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