マレーシア:クラウドファンディングに関するルールの整備
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
インターネット等を通じて多数の投資家から小口の出資を集めるクラウドファンディングとよばれる資金調達の手法が、東南アジア各国においても浸透をみせ始めている。クラウドファンディングの仕組みには様々な類型があるが、総じて比較的容易に資金を集めることが可能である一方で、その容易さゆえに生じる詐欺等の悪質な行為の抑止、及び投資家に対する一定の保護をどのように図るかという点については、クラウドファンディングに特化したものとしては、東南アジア各国においても最近まで十分にルールが整備されていなかったところである。そのような中、マレーシアは東南アジア各国の中で最も早く、クラウドファンディングに係る取引に関するルールを整備した。
ガイドラインの創設
マレーシア証券委員会は、2014年9月、クラウドファインディングに係る取引について一定の規制を策定する方針であることを発表し、2015年2月10日、改正市場規則ガイドライン(the revised Guidelines on Regulation of Markets under Section 34 of the Capital Markets and Services Act 2007)を策定し(同日発効)、これにエクイティクラウドファンディング(ECF)に係る取引に関するルールを盛り込んだ。同ガイドラインは、大まかにいえば、マレーシアにおいて電磁的方法により株式等に係る市場を運営する場合に適用され、上記ECFに係るルールは、当該市場がECFのプラットフォームに該当する場合における特則として位置付けられている。
ECFに関するガイドラインの内容
ECFとは、簡単にいえば、出資者が(寄付や商品購入という形式をとるのではなく)資金募集者に投資をする類型のクラウドファンディングの仕組みのうち、株式等のエクイティに投資をして、資金募集者の収益やキャピタルゲインをもってリターンを得るというタイプのものである。マレーシア証券委員会のプレスリリースによれば、スタートアップ企業や中小規模の企業の資金調達に利用されることが想定されている。
ECFの仕組みにおいては、資金募集者、投資家、及びこれらの者を結ぶプラットフォームの運営者(ECF運営者)が登場するところ、上記改正ガイドラインにおいては、それぞれの者に関する資格要件及び諸ルールが定められている。本稿においてその全てに触れることはできないが、例としては以下のようなものが挙げられる。
- • ECF運営者は、マレーシアにおいて設立された者でなければならない。
- • 運営者は、資金募集者に対する所要の審査を行い、これを監視監督すべき義務、資金募集者において重大な悪影響が生じるような変化が生じた場合における投資家への通知義務等、一定の義務及び責任を負う。
- • ECF運営者は、信託口座を開設し、資金募集者による資金募集期間中及び6日間のクーリングオフ期間中等の間、投資家が拠出した資金を当該信託口座に確保しておかなければならない。
- • 資金募集者は、ECFプラットフォームの参加に際して、財務情報や事業計画等の情報をECF運営者に提出し、ECF運営者は当該情報を含む一定の事項をECFプラットフォームにおいて開示する。
- • 資金募集者は、マレーシアにおいて設立されたprivate company(exempt private companyを除く。)でなければならない。
- • 投資ファンド及び金融機関等、上場会社及びその子会社、資本金が500万リンギット(約1億5,000万円)を超える会社等は、資金募集者としてECFプラットフォームに参加することはできない。
- • 資金募集者は、原則として、12か月間で300万リンギット(約9,000万円)まで、かつトータルで500万リンギットまで、ECFプラットフォームを通じて資金調達を行うことができる。
- • 投資家がECFプラットフォームを通じて投資することができる金額にも、投資家の類型に応じて上限が設けられている。プロ(sophisticated)投資家に対する投資額の上限は設けられていないが、エンジェル投資家(the Malaysian Business Angels Networkから認証を受けた投資家)に対しては12か月間で50万リンギット(約1,500万円)まで、一般投資家に対しては、1資金募集者あたり5,000リンギット(約15万円)まで、かつ12か月間で5万リンギット(約150万円)まで、という上限が設けられている。
- • 家の設立準拠法又は株主等の構成については、ECFに関するルールとしては特段定められていないが、当然ながら別途外資規制等の関連法令に従う必要はあろう。
ECF運営者の登録
上記改正ガイドラインの策定・発効を受けて、証券委員会は、2015年4月、同ガイドラインに基づくECF運営者の登録に係る申請を受け付ける旨のプレスリリースを発表した。最近の報道によれば、すでに6社がECF運営者の登録を受け、従前よりマレーシア国外でECFプラットフォームを運営している事業者もこれに参入した模様である。今後のマレーシアにおける新ルールに基づくクラウドファンディングの実務が注目されるところである。