◇SH2742◇最三小決 平成31年1月22日 文書提出命令申立てについてした決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件(山崎敏充裁判長)

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  1. 1  刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書につき民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書に該当するとして提出を命ずることの可否
  2. 2  刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しで、それ自体もその原本も公判に提出されなかったものを、その捜査を担当した都道府県警察を置く都道府県が所持する場合に、当該写しにつき民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書又は同条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当するとして提出を命ずることの可否

  1. 1  刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても、当該文書が民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書に該当し、かつ、当該文書の保管者によるその提出の拒否が、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる被告人、被疑者等の名誉、プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであるときは、裁判所は、その提出を命ずることができる。
  2. 2  刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しで、それ自体もその原本も公判に提出されなかったものを、その捜査を担当した都道府県警察を置く都道府県が所持し、当該写しについて文書提出命令の申立てがされた場合においては、当該原本を検察官が保管しているときであっても、当該写しが民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書又は同条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し、かつ、当該都道府県による当該写しの提出の拒否が、民事訴訟における当該写しを取り調べる必要性の有無、程度、当該写しが開示されることによる被告人、被疑者等の名誉、プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、当該都道府県の有する裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであるときは、裁判所は、その提出を命ずることができる。

 (1、2につき)民訴法220条1号、4号ホ、刑訴法47条
 (2につき)民訴法220条3号

 平成30年(許)第7号 最高裁平成31年1月22日第三小法廷決定 文書提出命令申立てについてした決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件 破棄差戻

 原 審:平成30年(ラ)第314号 大阪高裁平成30年5月10日決定
 原々審:平成29年(モ)第1918号 大阪地裁平成30年3月6日決定

 本件は、大阪府警察の捜査によって傷害事件(以下「本件傷害事件」という。)の被疑者として逮捕されたXが、違法な捜査により逮捕されたなどと主張して、Y(大阪府)に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める訴訟において、Yが所持する、本件傷害事件の捜査に関する報告書等の各写し(以下「本件各文書」という。)について、民訴法220条1号ないし3号に基づき、文書提出命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

 Xは、平成27年1月に本件傷害事件の被疑者として逮捕された後、本件傷害事件について起訴され、有罪判決を受け、同判決は平成29年12月に確定した。本件各文書も、その元となる各文書(以下「本件各原本」という。)も、本件傷害事件の公判には提出されなかった。

 刑訴法47条本文は、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」と規定し、この「訴訟に関する書類」とは被疑事件又は被告事件に関して作成された書類をいい、これに該当する書類は、公判で公にされるまで公開が禁止されると解されている。他方、同条ただし書は、「公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合」には、例外的に「訴訟に関する書類」を公にすることができる旨を規定している。そして、同条ただし書の「公益上の必要その他の事由」があって、当該書類を公にすることが相当と認められるか否かの判断は、当該書類の保管者において、公にする利益(目的、必要性)とこれによって予想される弊害とを利益考量し、合理的な裁量で決すべきであると解されている(以上につき、河上和雄ほか編『注釈刑事訴訟法〔第3版〕第1巻』〔立花書房、2011〕553~557頁〔香城敏麿=井上弘通〕)。

 本件各文書は、刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しであり、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当するものと解される。そして、本件各文書及び本件各原本は、本件傷害事件の公判に提出されていなかったため、いずれも、同条により、原則として公開が禁止されることになる。

 原審は、本件各文書が民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書又は同条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当するとした上で、本件各原本は検察官が保管しており、刑訴法47条ただし書の規定によってこれを公にすることが相当か否かを決定する権限は検察官が有していることからすれば、Yは、本件各原本の写しである本件各文書を公にすることが相当か否かを決定する権限を有せず、Yに対して本件各文書の提出を命ずることはできないとして、本件申立てを却下すべきものとした。

 Xが抗告許可の申立てをしたところ、原審はこれを許可した。本決定は、決定要旨のとおり判示して、原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。

 (1) 刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当する文書は、民訴法220条4号ホの「刑事事件に係る訴訟に関する書類」に該当し、文書提出の一般義務から除外されているところ、このような文書について同条1号ないし3号に基づいて文書提出命令の申立てがされた場合、公判で公にされるまで原則として「訴訟に関する書類」の公開を禁止する刑訴法47条がどのように適用されるかが問題となる。

 この問題については、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当する文書が法律関係文書に該当するとして文書提出命令の申立てがされた場合について、最三小決平成16・5・25民集58巻5号1135頁、判タ1159号143頁(以下「平成16年決定」という。)が、当該文書の保管者が提出を拒否したことが、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる被告人、被疑者及び関係者の名誉、プライバシーの侵害、捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その保管者の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであると認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができるとの判断を示した。

 平成16年決定のこの判断枠組みは、その後、最二小決平成17・7・22民集59巻6号1837頁、判タ1191号230頁及び最二小決平成19・12・12民集61巻9号3400頁、判タ1261号155頁でも踏襲され、その後の下級審裁判例もこの判断枠組みに従って判断がされており、この問題についての実務の解釈は定着したものとなっている。

 (2) これに対して、本件では、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当する本件各文書について、法律関係文書のみならず、引用文書にも該当するとして文書提出命令の申立てがされたため、引用文書に該当する場合に刑訴法47条がどのように適用されるかが問題となった。

 この点について、 本決定は、平成16年決定等を参照し、引用文書の場合についても、法律関係文書の場合と同様に解すべきであるとして、決定要旨1のとおり、法律関係文書の場合と同様の判断枠組みによって、すなわち、その保管者が提出を拒否したことが、前記の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであると認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができるとの判断を示した。

 (3) 刑訴法47条の「訴訟に関する書類」が公開されないことによって保護される利益は、被告人、被疑者及び関係者の名誉、プライバシー等の利益、すなわち、当該文書を引用する者以外の第三者の利益や、適正な捜査及び刑事裁判の実現等といった公益であり、これらの利益は当該文書を引用する者が放棄できないものと考えられる。また、民訴法220条1号の「引用」の意義については、文書の存在と内容を引用してさえいれば足りると解するのが多数説であり(秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ』〔日本評論社、2010〕377頁、高田裕成ほか編『注釈民事訴訟法第4巻』〔有斐閣、2017〕502頁〔三木浩一〕等)、同号に該当する引用行為が認められるとしても、通常、当該文書に記載された内容の全てが公開されているわけではない。したがって、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当する文書が引用文書に該当するとしても、当該文書自体が公開されないことによって保護される利益の全てが当然に放棄されたものとはいえないことから、同条本文により、その公開が禁止されることになるものと考えられる。そして、同条ただし書の規定によって当該文書を公にすることが相当と認められるか否かの判断がその保管者の合理的な裁量に委ねられていること自体は、引用文書であっても異なることはないものと考えられる。本決定は、以上のような理解の下に、決定要旨1のとおりの判断をしたものと思われる。

 (1) 刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に関する前記4(1)の各最高裁判例は、いずれも当該書類の「原本」について文書提出命令の申立てがされた事案に関するものであったところ、本件各文書は、刑事事件の捜査に関して作成された書類の「写し」であってYがこれを所持しており、他方、本件各文書の原本(本件各原本)は検察官が保管しているものと考えられる。

 そこで、本件のように、刑事事件の捜査に関して作成された書類の原本及びその写しのいずれもが刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当し、原則としてその公開が禁止され、当該原本を保管する者と異なる者が当該写しを保管する場合に、誰が刑訴法47条ただし書の規定によって当該写しを公にすることが相当か否かを判断することができるかが問題となる。 

 (2) この問題に関連する下級審の裁判例として、高松高決平成11年8月18日判時1706号54頁が、捜査報告書等の捜査に関する書類について文書提出命令の申立てがされた事案において、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」について、同条ただし書の規定によってこれを公にするか否かを決定する権限を有するのは当該書類を保管する検察官であり、その捜査を担当した警察を置く県は、当該書類を公にするか否かを判断する立場にはないから、当該書類の写しを保有しているとしても民訴法220条所定の「所持者」には当たらず、当該書類の写しについて提出義務を負わない旨の説示をしていた。本件の原審は、Yが本件各文書を所持していると認定している点で異なるものの、Yは写しである本件各文書を公にすることが相当か否かを決定する権限を有しない旨の説示をしている点において、上記裁判例と共通する見解に立つものと思われる。

 (3) 刑訴法47条の「訴訟に関する書類」の保管者は、検察官、司法警察員といった捜査機関に限られず、裁判所、弁護人、その他の第三者も含まれると解され、これらの全ての保管者が同条本文によって当該書類の公開の禁止を義務付けられており、当該書類を公にすることが相当と認められるか否かという同条ただし書該当性の判断は、これらの各保管者が、合理的な裁量によって決すべきであると解されている(河上ほか編・前掲554~557頁〔香城=井上〕)。また、刑訴法その他の法令において、刑事事件の捜査に関して作成された書類の原本を保管する者のみが当該書類の写しについて公にすることが相当か否かを判断することができるとする規定が存しないことからすれば、前記(2)の裁判例のような見解は採用し難いものと考えられる。そして、刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しをその捜査を担当した都道府県警察を置く都道府県が所持する場合には、当該都道府県は、当該警察において保有する情報等を基に、前記の諸般の事情(当該写しを取り調べる必要性の有無、程度、当該写しが開示されることによる弊害発生のおそれの有無等)を総合的に考慮して、刑訴法47条ただし書の規定によって当該写しを公にすることが相当か否かを判断することができると考えられ、その判断は、当該都道府県の合理的な裁量に委ねられているものと解される。本決定は、以上のような理解の下に、決定要旨2のとおりの判断をしたものと思われる。 

 本決定は、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当する文書が引用文書に該当する場合に裁判所が当該文書の提出を命ずることができるか否かについて最高裁が初めて判断を示すとともに、同条の「訴訟に関する書類」に該当する、都道府県が所持する刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しについて、当該書類の原本を検察官が保管している場合であっても、裁判所が当該写しの提出を命ずることができるか否かについて最高裁が初めて判断を示したものであり、実務的にも理論的にも重要な意義を有するものと考えられる。

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