◇SH3412◇金融庁、終日全面取引停止のシステム障害を巡り東証・JPXに業務改善命令――東証は「再発防止策検討協議会」の検討を継続、実務者WGが2021年3月に最終報告へ (2020/12/08)

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金融庁、終日全面取引停止のシステム障害を巡り東証・JPXに業務改善命令
――東証は「再発防止策検討協議会」の検討を継続、実務者WGが2021年3月に最終報告へ――

 

 金融庁は11月30日、今年10月1日に発生した東京証券取引所のシステム障害により同日の取引が終日全面的に停止された問題を巡り、東証および親会社である日本取引所グループ(以下「JPX」という)に対し、各社に業務改善命令を発出する行政処分を行い、公表した。

 10月1日のシステム障害では、前場の取引開始前から相場情報の配信に障害が発生し、東証はまず「障害に伴う売買の停止について」と題するリリースにより第1報をアナウンス(後掲・10月19日の発表によると同日8時36分決定・公表、以下同様)。「東京証券取引所における全銘柄の売買を停止いたしますのでお知らせします。併せて、その時点より注文受付につきましても不可となります。復旧については現在のところ未定」などと説明した。続いて「障害に伴う売買の停止について【第2報】」では「併せてToSTNeT取引についても売買停止」としたうえで、その後「障害に伴う売買の停止について【第4報・終日売買停止】」において、(ア)立会内取引およびToSTNeT取引について同日は全銘柄の売買を終日停止すること(同日11時45分決定・公表)、(イ)復旧については現在のところ未定、翌日以降の予定については改めて連絡すること、(ウ)投資家、市場関係者には迷惑をかけており、お詫びする旨を発表。同日の【第5報】では原因と対策、終日全面的な取引停止に至った経緯を次のように簡潔に説明するとともに改めてお詫びを表明した。「本日は、ハードウェアの障害及び障害の起こった機器からバックアップへの切り替わりが正常に行われなかったことによって相場情報が配信出来なくなりました。現在、ハードウェアについては交換を予定しており、その他メンテナンス等を含め、明日以降、正常な売買ができるよう対応を行っています。本日は、仮に再起動した場合における投資家や市場参加者へ混乱を生じさせることが想定され、それにより円滑な売買の実施が難しいと考えられたことから、市場参加者と協議の上、終日売買停止することとしたものです」

 翌10月2日の取引再開に向けては、1日のうちに行った「明日の売買の取扱いについて」と題するリリースにより、基準値段について「本日(10月1日)と同じ基準値段又は板中心値段を採用」することとともに、9月30日の売買で空売りの価格規制に該当し、または制限値幅の拡大要件に該当していた銘柄に関する取扱いなどを発表。その後、障害発生当日最終となった「明日以降の売買について」により、「現状、市場再開に向けて問題なく対応を進めており、明日の東京証券取引所における立会内取引及びToSTNeT取引については通常通り売買を行う予定」であることを発表し、重ねてのお詫びを表明した。

 なお、翌2日にはリリース「本日の売買について」により「通常通り実施いたしますのでお知らせします」と告知。また同日、1日当日の16時30分~18時7分の間に東証ホールにおいて代表取締役社長・宮原幸一郎氏ら東証関係者4名が出席して開いた記者会見の要旨をウェブサイトに掲載している。

 10月5日には「arrowheadの障害に関する原因と対策について」を発表。(a)共有ディスク装置の1号機に搭載されたメモリの故障が発生し、(b)故障の発生を契機に2号機に自動的に切り替えられるべきところ、想定どおりに機能しなかったことの原因として「本装置が有している障害時の切替え機能のうち、メモリ故障に起因する障害パターンが生じた場合に、自動切替えが機能していないこと」を本システム障害の直接的な原因と特定したうえで、対策として(α)切替機能に関する検証の結果、本装置の設定を変更することで、メモリ故障に起因する障害において自動切替えを行うことが可能であることが判明したことから、(β)10月4日にシステムに適用、自動切替機能が動作することを確認済みであることを挙げた。さらに、JPXの独立社外取締役4名で構成する「システム障害に係る調査委員会」(委員長・久保利英明指名委員会委員/リスクポリシー委員会委員長。委員会名称はのちに「システム障害に係る独立社外取締役による調査委員会」と変更)を5日付で設置したとし、調査結果を踏まえて再発防止等の各種対策の実効性を高めると表明した。

 東証は10月19日、「10月1日に株式売買システムで発生した障害について」を発表するなかで経緯・原因を仔細に述べるとともに「当日中の取引再開ができなかった理由」をシステム面・運用面とに分けて明らかにし、再発防止措置の一環として「市場停止及び再開に係るルールの整備等」の必要性に言及。取引参加者・投資家・システムベンダーなどにより構成する「再発防止策検討協議会」を設置し、議論のうえ、2021年3月末を目途としてルールなどを整備するものとした。

 また、システムベンダーとしての立場から富士通が同日、お詫びの表明とともに障害の「根本原因」を説明し、その再発防止策を明らかにするほか、「お客様システムの更なる安定稼働実現に向けたシステム再点検と品質保証体制の強化」について今後の取組みなどを発表している。

 一連の問題を巡っては、金融庁によると、東証に対しては発生原因等につき、JPXに対してはグループ全体のシステムの信頼性向上に対する認識、課題およびその解決に向けた対応の方針につき、10月2日付で報告書の提出を求め、同月16日、東証・JPXより金融庁に対して報告がなされたという。

 上記「システム面・運用面」につき金融庁は今般、東証に対する業務改善命令において具体的に(1)①「東証と業務委託先は、システムの仕様と機器の製造元から提供されたマニュアルとが相違していたために機器の故障時に別系統への自動切り替えが行われない設定となっていたことを把握していなかった」こと、②「売買を通常の方法で停止させるために複数の手段を準備していたが、いずれも故障が発生した機器の正常稼働を前提としていたため、通常の方法によらずに売買を停止せざるを得なかったことが当日中の売買再開の大きな支障となった」こと、③「通常の方法によらない形で売買停止に至った場合においては、当日中に売買を再開するとの事態を十分に想定していなかったため、東証と取引参加者との間で障害発生時に注文受付を制限するルールや売買停止までに受け付けた注文の取扱いについてのルールが未整備であった」ことを指摘。さらに、④10月16日付の東証の報告が「今後は『レジリエンス』(障害回復力)向上のための迅速かつ適切な回復策を拡充する」としたことに対して「こうした基本的な考え方の見直しを踏まえ、取り組むべき施策の洗い出しを行い、必要な対応を実施する」よう要請しつつ、(2)「障害により取引が開始できず、その後も当日中に取引が再開できなかったことにより投資者等の信頼を著しく損なったこと」に対する「市場開設者としての責任の所在の明確化」を求めるものとした。

 金融庁による業務改善命令の発出と同日となる11月30日、JPXは「システム障害に係る業務改善命令及び責任の所在の明確化について」を発表した。JPXにおいては取締役兼代表執行役グループCEOおよび常務執行役CIOについて月額報酬を4か月、それぞれ50%・20%減額する処分を行うとともに、取締役兼代表執行役グループCo-COOを務め、東証・代表取締役社長を兼任していた宮原幸一郎氏については両職を11月30日付で辞任。東証においてはもう1名、障害当日の記者会見にも出席した執行役員について月額報酬10%減額(4か月)の処分を行うものである。なお、東証の新・代表取締役社長には同社取締役を兼任していたJPXの上記グループCEO・清田瞭氏が就任することとしている。また、富士通が12月3日、本件障害に係る関係役員の処分を発表し、代表取締役社長・代表取締役副社長・執行役員専務・執行役員常務(2名)の計5名について、役職に応じ月額報酬の50%~10%をそれぞれ4か月間、減額することとした。

 JPXは11月30日、「システム障害に係る独立社外取締役による調査委員会」による調査報告書が提出されたとし、公表。全38ページの報告書では「障害発生当日中の取引再開ができなかった原因」として、①8時36分に売買停止を決定したこと、②その後に売買停止に向けた作業を行い、最終的にロードバランサ遮断という手段を講じたこと、③arrowheadの再立上げによる売買再開は困難という判断のもとに終日の売買停止を決定したことの判断についてはいずれも「不合理であったとは認められない」としつつ、次の点については「不十分な点があったと考えられる」とした。①NAS(編注・共有ディスク装置)の障害発生時に緊急用売買停止機能を利用できなくなる可能性の検討が十分でなかったという問題、②システム障害発生時における、注文受付可否の判断手続、売買停止の判断手続、通常でない売買停止後の売買再開に向けた手続等に関する事前の十分な検討とルール化、取引関係者を含めた関係者への周知(以上、「第5編2(6)」報告書29頁参照)。

 そのうえで、システム面を含めた「再発防止措置」について具体的に言及するとともに(「第6編」報告書29頁以下参照)、「将来に向けた提言」を添え(「第7編」報告書36頁以下参照)、ここでは「障害等のトラブル発生時における適時適切な情報発信」「システム関連に更なる経営資源の投入を」といった5項目を指摘した。

 上述の「再発防止策検討協議会」では、その後11月6日に「再発防止策検討実務者ワーキング・グループ」を開催して実務的・具体的な検討を開始。12月4日には同WGの第3回会合が開催されており、今後、2021年2月下旬に最終報告書を取りまとめ、3月半ばには再発防止策検討協議会に対して報告がなされる予定である。

 

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