SH3664 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第15回 第3章・当事者及び関係者(2)――Engineer 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/06/24)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第15回 第3章・当事者及び関係者(2)――Engineer

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

第15回 第3章・当事者及び関係者(2)――Engineer

1 Engineerとは

 Engineerとは、当該プロジェクトにふさわしい資格、経験および知見を有するプロの技術者(a professional engineer)であり、法人または自然人である(3.1項)。

 会社をEngineerとすることも、個人をEngineerとすることも、いずれも可能であるが、その業務には大きな責任が伴い、大規模な工事において、個人を任命することは現実的でない。現在では会社であるコンサルタントが設計、契約図書、入札関連図書等の作成を行い(フェーズ1)、施工管理、契約管理もEngineerの立場で行う(フェーズ2)というのが一般的である。

 Engineerが会社の場合は、当該会社に所属する個人を、当該プロジェクトのEngineerとして任命し、これを代表する権限を与えなければならない(8.3項)。ここで任命されるのは、当該会社の代表者(社長等)であることが多いが、かかる代表者が現場(プロジェクト・サイト)に常駐することは困難である。

 そこで、一般には、当該会社の従業員をEngineerの代理(Engineer’s Representative)として任命し、常駐させる(3.3項。Resident Engineerとも呼ばれる)。なお、このEngineer’s Representativeは必須のものではなく、これを指名しないことも許容されており、更には、Engineerが現場に常駐しない(Engineer’s Representativeがいなければ、Engineer側は誰も現場に常駐しない)ことも、FIDICの規定上は許容されている。もっとも、かかる常駐なしという状況は、土木工事では現実的ではなく、また、FIDICが主に対象とする大規模な工事では、土木工事以外でも現実的ではない。そこで、上記のとおり、Engineer’s Representativeが任命され、現場に常駐することが、一般的である。

 Engineerの要件として、その工事で用いられる言語でコミュニケーションがとれる必要があり、英語が用いられる工事であれば、英語でのコミュニケーションがとれることが求められる(3.1項)。

 前回述べたとおり、EmployerにはEngineerを選任する義務が課されており、換言すれば、Engineerは必須の存在である(3.1項)。

 

2 Engineerの役割

 Engineerは、EmployerとContractorとの間に介在する。工事に関してContractorがやり取りをする相手は、基本的にEngineerであり、Employerと直接やり取りをする場面は限られている。

 Engineerの役割は広範であり、以下の事項が含まれる。

  1. ・ 工事の開始日時をContractorに連絡する(8.1項)。
  2. ・ Contractorに対する指示(instruction)を行う(3.5項)。
  3. ・ Contractorからの月次等の報告を受ける(4.20項)。
  4. ・ EmployerからContractorへの代金支払時に、Contractorの作業量を確認し、BQ(bill of quantities)に従い代金額を定め(12.1項、12.3項)、代金支払い実行のための証明書(Interim Payment CertificateないしIPC、Final Payment CertificateないしFPC)をEmployerに発行する(14.6項、14.13項)。
  5. ・ Contractorからの工事の変更要求の提案を受け、これに同意するか否かを決定するとともに、自ら工事の変更要求をContractorに提案し、さらには、Contractorに対して工事の変更を命ずることができる(13.3項)。
  6. ・ Contractorが実施する完工等の検査方法を確認し、また、検査に立ち会う(9.1項、7.4項)。
  7. ・ 工事に瑕疵その他の不備があるときに、その旨をContractorに通知する(7.5項)。
  8. ・ 工事の完工と、Contractorからの必要書類(Contractor’s Documents)の提供を確認した時に、その旨の証明書(Performance Certificate)をContractorに発行する(11.9項)。
  9. ・ 工事の目的物の引渡に関する証明書(Taking-Over Certificate)をContractorに発行する(10.1項)。
  10. ・ ContractorまたはEmployerからの代金増額、工期延長等の要求(claim)を受領し、これに対する初期的な回答をする(20.2.1項、20.2.2項)。
  11. ・ ContractorおよびEmployer間に係争が生じた場合に、両者の間に入って和解協議をあっせんし、また、和解がまとまらないときには暫定的な判断(Engineer’s determination)を示す(3.7項)。

 なお、Yellow BookにおけるEngineerの役割としても、基本的に、上記の各事項が定められている。ただし、Yellow Bookでは、第12回で述べたとおり、代金額がBQ精算により定まるのではなく、仕事の結果に対してまとめて代金を支払うというlump sumの方式であるため、上記のうち、Contractorの作業量を確認し、BQに従い代金額を定めるという事項に代わって、Yellow Bookでは、Schedule Payment、Milestone Paymentなどの査定をすることになる。

 

3 Engineerの立ち位置

 Engineerは、選任者であるEmployerのために行動するものとみなされる(3.2項)。旧Red Book(Conditions of Contract for Works of Civil Engineering Construction, 4th edition, 1987)では、Engineerは、EmployerおよびContractorとの間において中立的とされ、中立的に行動することが定められていたが、Employerから選任され、Employerから報酬を受領しながら、中立的であることには無理があった。そこで、1999年版からは、Engineerが、Employer側の人間であることが、前提とされるようになった。

 ただし、2017年版でも尚、EmployerとContractorとの間に係争が生じた場合には、Engineerが両者の間に入って和解協議をあっせんし、また、和解がまとまらないときには、暫定的な判断(Engineer’s determination)を示すところ、これらの場面では、Engineerは、中立的に対応することが求められ、Employerのために行動するとはみなされない(3.7項)。なお、Engineer’s determinationについては、追って紛争の解決および予防の箇所で、改めて解説する予定である。

 

4 Engineerに関する法律関係

 第2回で述べたとおり、権利義務関係を整理して把握するためには、誰と誰との間の権利義務であるか、換言すれば、その主体を明確にする必要がある。この観点からは、いかなる契約関係が存在し、各契約の当事者が誰であるかを整理する必要がある。

 この観点でEngineerを見ると、まず、Engineerは、FIDICが対象とする工事等の契約との関係では、当事者ではない。この契約の当事者は、EmployerとContractorである。

 Engineerが当事者となる契約は、Employerとの間の契約であり、コンサルタント契約等と呼ばれるものである。このEmployerおよびEngineer間の契約についても、FIDICは契約書式を用意しており、White Bookという名称である。

 Engineerに対する報酬は、このEmployerとの契約に基づき、Employerから支払われる。Engineerの業務に不備があれば、当該契約に基づく債務不履行責任が、Employerとの関係で問題となる。

 Contractorとの関係では、Engineerは契約関係にないため、Contractorに対して直接責任を負わないというのが原則となる。Engineerの行為の効果はEmployerに帰属し、EmployerとContractorとの間の権利義務関係に還元されるというのが原則である。

 Engineerは信頼されるべき存在とされており、具体的には、Employerの個別の授権が必要な事項をEngineerが行った場合には、当該授権は行われているものとみなされる(3.2項)。なお、個別の授権が必要な事項の典型例として、一定金額以上の工事内容の変更(Variation)が挙げられる(Variationについては、追って章を改めて解説する)。

 ただし、EngineerにEmployerとContractorの間の工事等の契約を変更する権限はなく(3.2項)、契約変更はEmployerによって行われる必要がある。また、EngineerがContractorの義務ないし責任を免除すると述べたとしても、これが免除されることもない(3.2項)。

 なお、EngineerがContractorに対して直接責任を負わないというのが原則と述べたが、権利義務関係には、契約に基づくものと、契約に基づかないものがある。契約に基づかないものの代表例の一つが、不法行為に基づく損害賠償責任である。したがって、EngineerがContractorに対して不法行為に及んだ場合には、これに基づき、EngineerはContractorに対して直接、損害賠償責任を負うことになる。この場合、追って紛争解決手続において解説するDAABや仲裁廷には管轄権がなく、管轄権のある裁判所で争うことになる。もっとも、そのような損害賠償請求を、筆者らが実際に目にしたことはない。

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