米国・欧州・日本の人工知能規制の概要と最新動向
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士・カリフォルニア州弁護士 井 上 乾 介
弁護士 佐々木 公 樹
1 はじめに
昨今、米OpenAI社のChatGPTを始めとした生成AI(人工知能)の利用が世界中で急速に広まっており、多くの企業においてAIの開発や業務への導入が進められている。日本企業においてもAIの開発・導入に向けた動きが見られる[1][2]。生成AIを含むAIの利用は、個人・企業を問わず今後も益々加速していくことが予想される。
他方、AIはその利用に伴って様々なリスクが生じ得る。たとえば、人権や人の健康・安全等を侵害するリスク、安全保障上のリスク、民主主義プロセスへの不当介入のリスク等が生じ得る。
このようなリスクに対応しつつ、AIによるイノベーションの促進とのバランスも確保するため、世界各国でAIの規制の在り方についての議論が急務となっており、規制に関して各国で様々な動きが見られる。
本稿では、米国(連邦レベル・州レベル)、欧州(EU・英国)におけるAIに関する規制の動向について概観した後、日本における議論の状況を紹介する。
2 米国
⑴ 連邦レベル
バイデン政権下の米国においては、ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)が、昨年10月4日、AIの開発などに当たり考慮すべき原則をまとめた「AI権利章典の青写真」を発表した[3]。当該章典においては、AIシステムの設計、使用、導入の際の指針となる原則として、①安全かつ有効なシステム、②アルゴリズムから生じる差別からの保護、③データのプライバシー、④告知と説明、⑤問題発生時の人間による代替、検討、対応という5つの原則が提示されている。
また、今年の1月26日には、米国商務省の国立標準技術研究所(NIST)が、「人工知能リスク管理フレームワーク(AI RMF)」を発表した[4]。AI RMFも上記「AI権利章典の青写真」と同様、AIシステムの設計、導入等をする際に参照すべきものとして策定されている。
さらに、4月11日には、米国商務省国家電気通信情報庁(NTIA)が、AIシステムの監査・評価・認証に関する政策策定に向け、意見募集を開始し[5]、5月1日には、OSTPが労働者の監視や評価における自動化ツールの使用について、意見募集を始めると発表した[6]。
4月25日には、連邦取引委員会(FTC)、司法省、消費者金融保護局(CFPB)、雇用機会均等委員会(EEOC)の4機関が、AIを含む自動化システムの弊害への対処に関する共同声明を発表した[7]。当該声明では、企業等が雇用や住居、融資等の個人の権利や機会に影響を与える重要な決定を行う際にAIを利用することで、違法な偏見や差別を生む可能性があると指摘されている。そして、AIがもたらすこうした問題に対し、上記4機関は既存の法令を厳格に適用していく旨の方針を明確に提示した。
また、バイデン政権は、5月4日、AIに関する責任あるイノベーションの推進に向けた新たな施策を発表した[8]。同施策には、新たな7つのAI研究機関の設立、既存の生成AIシステムの公開評価、および政府によるAIシステムの利用に関する指針案の公開が含まれる。
そして、連邦議会においては、上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務(ニューヨーク州)が、4月13日、AIの推進と管理に関する立法措置に取り組むと発表した[9]。また、4月28日には、民主党のマイケル・ベネット上院議員(コロラド州)が、連邦政府のAI政策について、規制や立法面での提言を行う閣僚級のタスクフォースを設置する法案を提出した[10]。
このように、連邦レベルにおいては、AIについての規制の導入に関する検討の動きが見られるものの、現状は法的拘束力のある包括的な規制は導入されていない状況である。
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(いのうえ・けんすけ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。
(ささき・こうき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2021年早稲田大学法学部卒業。2022年弁護士登録(第二東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
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