SH3444 わが国上場会社においてバーチャルオンリー株主総会を許容する場合における法的論点(上) 太田洋(2021/01/14)

組織法務株主総会

わが国上場会社においてバーチャルオンリー株主総会を
許容する場合における法的論点(上)

西村あさひ法律事務所

弁護士 太 田   洋

 

一 はじめに

 2020年11月19日、日本経済新聞電子版は、「政府は企業の株主総会について完全なオンラインでの開催を認める検討に入った。物理的な会場を設定して取締役や一部の株主が集まることを求める規定に特例をつくる方向だ」と報じ、わが国でも、遂に、バーチャルオンリー型株主総会(以下「バーチャルオンリー総会」という)を許容する方向で、立法的検討が行われることとなった。具体的には、会社法の特別法により、一定の条件の下で、バーチャルオンリー総会を解禁することが検討されている模様である。

 この点、現行会社法の下では、バーチャルオンリー総会の開催の可否について、会社法298条1項1号が株主総会の招集に際して「株主総会の場所」を定めるよう求めていることから解釈上は難しいと解されている[1][2]。しかし、このことは、立法論としてバーチャルオンリー総会の開催を許容することを否定するものではないと考えられる。比較法的にみても、米国では、2000年にデラウェア州一般会社法が改正されてバーチャルオンリー総会を開催することが適法と認められたことを皮切りに、現在では30州でバーチャルオンリー総会の開催が可能とされている[3][4]。また、ドイツ[5]、フランス[6]、オーストリア[7]、スイス[8]、スウェーデン[9]及びインド[10]等では、従前、会社法上、特に上場会社においてはバーチャルオンリー総会を開催することが認められていなかったが、2020年における新型コロナウイルス感染症のパンデミックと感染拡大を防止するための全面的な外出禁止や都市封鎖といったロックダウンの措置が講じられ、株主が株主総会に物理的に出席することが事実上不可能になったことを受けて、時限立法として、一定期間、バーチャルオンリー総会を開催することを許容する立法措置が講じられるに至っている。

 バーチャルオンリー総会は、海外機関投資家など遠隔地の株主や健康上の理由や多忙等により株主総会への物理的な出席が難しい株主に対しても株主総会への参加・出席の機会(アクセシビリティー)を提供することで、株主の権利をより実質的に保証する(株主への情報提供を充実させ、より効率的な対話を促進する)ことを可能にする点で、既にわが国で許容されているハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)(以下「ハイブリッド出席型バーチャル総会」という)[11]と同様の意義を有する。また、バーチャルオンリー総会を活用することで、わが国企業が国境を越えて外国企業の買収又は外国企業との経営統合を行う場合における問題点の一つが解消されることも期待される。即ち、わが国企業X社が、三角合併や自社株対価TOBといった株式を対価とするM&Aの手法を用いて外国企業Y社を買収する場合又はY社と経営統合する場合、(その大部分が海外居住株主であると想定される)Y社の株主がわが国企業X社(又はわが国に統合持株会社Z社が設立される場合にはZ社)の株主に流入してくることになるが、バーチャルオンリー総会の方式でX社(又はZ社)の株主総会を開催すれば、それら流入してきた旧Y社の海外居住株主も、特に移動する手間や費用をかけることなく、X社(又はZ社)の株主総会に出席できることになるため、Y社の海外居住株主がX社による株式を対価とする買収又は経営統合に反対する動機が一つ消失する。

 他方、ハイブリッド出席型バーチャル総会と比較した場合、バーチャル株主総会を開催するための通信設備やシステム整備等のコストが必要となるという点では同様であるが、リアル総会を開催しないため、物理的な会場の確保が不要になることに加えて、物理的な会場を用いることに伴う音響機材等の設備費、警備員や誘導員等の人件費・委託費等を削減することや株主総会に対応するスタッフの手間を削減することが期待できる点で大きなメリットがある。また、バーチャルオンリー総会を開催する場合、リアル総会のための会場の確保や会場の使用時間に関する制約、さらには警備・誘導上の要請を考慮する必要性がなくなるため、リアル総会やハイブリッド出席型バーチャル総会と比較して、株主総会の開催日時に関する柔軟性が大幅に高まるものと考えられる(出席株主数が極めて多数に上る場合に、会場となるホテルやホール等の収容人数のキャパシティの面からの日程的な制約が消失するほか、ホテルやホール等を確保しにくい週末の総会開催も容易になるため)。また、新型コロナウイルス感染症の感染が再び拡大したり、将来、新たな感染症の感染が拡大したりすることにより、外出禁止や都市封鎖といったロックダウンの措置が講じられる状況になった場合、リアル総会やハイブリッド出席型バーチャル総会の開催は極めて困難になると考えられるが、バーチャルオンリー総会を開催することが許容されていれば、そのような状況や災害等により多くの株主の物理的な株主総会への出席が事実上不可能な場合でも、株主総会が開催できないために会社経営が麻痺ないし停滞するといった事態を回避できる。また、ロックダウンの措置まで講じられていなくとも、2020年の定時株主総会シーズンのように、感染防止等の観点から、株主総会への出席人数を厳しく制限せざるを得ない状況に陥った場合、委任状勧誘が行われているような会社では、リアル総会に出席できる株主の選別を巡って紛争が生じかねないが、バーチャルオンリー総会を開催することが許容されていれば、当日出席株主による議決権行使の結果を適時かつ正確に把握するシステムが整備されていることが前提とはなるものの、上記のような「リアル総会に出席できる株主の選別」を巡る紛争を予防することが可能となる。

 これらの点を踏まえて、2020年7月17日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、「バーチャルオンリー型株主総会を含む株主総会プロセスにおける電子的手段の更なる活用の在り方」に関して、2020年度内に一定の結論を得るとされており、さらに、日本経済団体連合会が同年10月13日に公表した「株主総会におけるオンラインの更なる活用についての提言」(以下「経団連提言」という)[12]では、バーチャルオンリー総会について、2021年6月の株主総会に向け、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の延長として、まずは特例法等による対応によりバーチャルオンリー型を選択的に開催可能とするための措置を検討する」こと等が提言されている[13]。以上等を受けて、2020年12月1日に策定・公表された政府の成長戦略会議の実行計画では、「来年の株主総会に向けて、バーチャル株主総会を開催できるよう、2021年の通常国会に関連法案を提出する」旨が記載されるに至っている。

 バーチャルオンリー総会は、【表1】のとおり、既に多くの国で解禁されており、コロナ禍が収束の兆しを見せない中で、わが国でもそれを許容する法制を早急に整備することは望ましい方向と考えられる。

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(おおた・よう)

西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。1991年東京大学法学部卒、93年第一東京弁護士会弁護士登録、2000年ハーバード・ロー・スクール修了(LL.M)、01年米国NY州弁護士登録、01年~02年法務省民事局参事官室(商法改正担当)、13年~16年東京大学大学院法学政治学研究科教授

日本経済新聞「企業が選ぶ2020年に活躍した弁護士」M&A分野第1位・企業法務一般第3位、同「企業が選ぶ2019年に活躍した弁護士」企業法務総合第2位など受賞多数

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