SH3627 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第10回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その7 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/05/20)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第10回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その7

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第10回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その7

7 Contractorによる履行の継続的な確認

⑴ 継続的な確認の必要性

 FIDICが対象とする大規模で、複雑な工事等は、極めて多くの作業を、長期間にわたり積み重ねて完成する。すなわち、Contractorの幹となる義務は、長期間にわたる極めて多くの作業の積み重ねを要求するものであり、その履行を確認することは容易ではない。結果だけで履行を確認することには無理があり、プロセスとして履行を確認する必要がある。

 その理由の一つとして、工事等の目的物が、日々変化するという点がある。ある時点で発生した問題は、直ぐに確認、対処しないと、その後の工事等の積み重ねの中で隠れてしまう。これは、コンピューターのプログラム、システム等の開発でも見られる特徴である。

 これらの契約では、プロセスとして履行を確保・確認することを怠ると、後に大変なトラブルとなり、その解決に莫大な時間と労力がかかる可能性がある。FIDICでは、かかる観点も踏まえ、以下の規定を設けている。

 

⑵ ProgrammeとMethods of execution of the Works(so called Method Statement)

 まず、工事等のプロセスを、コンピュータープログラムとして、仕様(Specifications)で定められたソフトウェアを用いて作成することが規定されている。これは、Contractorの義務として定められている(8.3項)。

 また、Contractorは、実際の工事の進捗に応じて、このプログラムを改訂する義務を負っている(同項)。

 このように、FIDICは、コンピュータプログラムを、ContractorとEmployer側との共通言語として、工事等のプロセスを管理することとしている。

 なお、大きな問題となり得るのは、入札見積時の施工計画における想定よりも、実際の作業量が大きく膨らむ場合である。入札見積を短期間のうちに、十分な検討を経ずに行うと、往々にして生じることである。その場合施工計画およびプログラムを大幅に修正する必要があり、また、増加コストの負担という問題が生じる(この増加コストは、Red Bookであれば、契約書の定め方(BQ精算)による。一方、Yellow BookおよびSilver Bookであれば一般的にはContractorが負担することになるが、Employerが負担する余地もあると考えられる)。このような入札見積との乖離はなるべく避けたいものであるが、これを避けることは必ずしも容易ではない。

 

⑶ Documents、Progress Reports

 加えて、各種書類を用意することも、Contractorの義務として定められている。

 対象となる書類としては、工事等を行うために必要な許認可、完成図書、運用・保守マニュアルが挙げられている(4.4.1項)。

 また、毎月の進捗報告(progress reports)の作成も、Contractorの義務である(4.20項)。

 すなわち、FIDICは、コンピュータープログラムと、書類を併用して、継続的な工事等の履行状況の可視化をはかり、プロセスとして履行を確保・確認することとしている。

 

⑷ Quality Management System・Compliance Verification System

 さらに、FIDICは、Contractorの義務として、契約上求められる品質が確保されていることを示すことを目的に、Quality Management Systemを導入することを定めている(4.9.1項)。

 また、設計、資材、工事目的物等が契約に即したものであることを示すことを目的に、Compliance Verification Systemを導入することも、Contractorの義務として定めている(4.9.2項)。

 

⑸ 問題が生じた場合の対処

 プロセスとして履行を管理するという観点からは、問題が生じたときの対処が重要である。対処の一つは、まずは当事者間で当該情報を共有することであり、FIDICは、そのような情報共有の義務を複数課している。たとえば、不測の事態またはその蓋然性について、関係者間で速やかに情報を共有する義務を課している。義務の対象となる不測の事態とは、Contractor側の義務の履行に悪影響を及ぼすもの、工事等の成果物に悪影響を及ぼすもの、契約価格の増加をもたらすもの、工事等の完成を遅らせるものである(8.4項)。

 また、契約書類の中に曖昧さ(ambiguity)や、不一致(discrepancy)を発見した場合にも、速やかに連絡する義務が、契約当事者に課されている(1.5項)。

 ただし、このような対処の話は、契約管理の領域に入るため、幹となる権利義務の説明である本章ではなく、別途改めて解説することとする。

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