ドイツ付加価値税法と消費税法
第四話 リバース・チャージ
―EU型付加価値税はいつまでEU型であり続けることができるのだろうか―
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第四話 リバース・チャージ
はじめに
前段階税額控除とインボイスというのが、1977年の第六次付加価値税指令で確立された古典的な付加価値税制であるが、前段階税額が実際に納税されたか、否かにかかわらず、税額控除が受けられ、結果として多額の税収不足が生じるという問題を孕んだ税制となっている。また、納税者である事業者が購入の都度多額の付加価値税分の資金を用意しなければならないが、その前段階税額分については申告して初めて税額控除を受けられるため、その間の流動性確保の問題が残る。この流動性の問題もまた付加価値税の滞納をもたらす原因の一つとなる。
前段階税額控除のない売上高税から付加価値税に移行したのはこのような問題がありつつも、EU統合に際して、域内の競争条件を平等にし、売上高税が関税に代わる国境税となることを避けるためであったが、税率の上昇とともに、流動性の問題と、徴収不足の問題が目立つようになっている。
そのための改革案がリバース・チャージという手法である。これは供給者ではなく、受領者が付加価値税を納税するというものであり、受領者が申告に際してこれを前段階税額控除と相殺するという制度である。これが拡大すれば、EU型付加価値税といいつつ、実際には事業者間取引を非課税とする消費課税に変化していく可能性がある制度である。
日本の消費税法にもリバース・チャージは存在する。これは、EUの域内貿易を参考にした制度であり、本来の意味でのリバース・チャージではない。EUにはこれとは別のリバース・チャージがあり、また、現在審議中の法案ではさらに、3番目の種類というべきリバース・チャージの導入が予定されている。
付加価値税は、供給者が販売価格から納税するという制度から、事業者間取引は非課税とする制度へと進化していくのか、という岐路にあるのかもしれない。
1 我が国消費税法上のいわゆるリバース・チャージ
日本のリバース・チャージはEUの域内貿易を参考に構築された制度と思われる。日本の場合、消費税法2条の定義規定により、以下のものが特定資産の譲渡等とされる。
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そしてこれが4条の規定により課税標準に加えられる。下記の規定である。
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この規定の書きぶりは、EU付加価値税制のリバース・チャージではなく、むしろEU域内貿易の規定を参考にした制度と考えられる。
EU域内貿易とはEU加盟国の間の貿易であり、輸入国の事業者において輸入額が課税標準に加えられる規定となる。
ドイツ付加価値税法では、こちらのような規定となる。
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1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブ
ルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランク
フルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関
の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執
筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館
公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審
判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。
2025年4月から亜細亜大学経済学部にて租税論を講ずる予定。