◇SH3450◇包括的な担保権など検討の「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」が論点整理――仮称「事業成長担保権」を想定して制度設計上の論点を抽出 (2021/01/19)

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包括的な担保権など検討の「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」が論点整理

――仮称「事業成長担保権」を想定して制度設計上の論点を抽出――

 

 金融庁は2020年12月25日、「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)による論点整理を公表した。

 同研究会は「価値ある事業を支えられるような望ましい融資・再生実務のあり方について、金融機関に事業の継続や発展を支援する適切な動機付けをもたらすような包括担保法制等の可能性を含め検討する」として、11月4日に初会合を開催した(設置の背景などと併せて、SH3381 金融庁、「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会(第1回)」を開催 柏木健佑(2020/11/12)参照)。その後、11月25日・12月16日の会合開催を経て、今般「論点整理」が公表されたものである。(ア)研究会において議論された現状の実務の課題、(イ)新たな担保権の導入による実務の改善の可能性、(ウ)具体的な制度設計にあたっての課題について「一定の論点整理を試みた」と位置付けており、さらなる論点提起を含めた検討の積重ね、事業者を支える融資・再生実務に向けた議論のさらなる活性化を期待するとした。また、具体的な担保法制については「法制審議会において今後検討されることになるが、その議論に貢献できるよう、包括的な担保権の意義や課題、論点の洗い出し・整理を進めた」としている。

 上記(イ)を巡って研究会が担保法制における新たな選択肢として検討したのは「事業全体に対する包括的な担保権」を追加導入すること。実務における具体的な改善点として(α)ビジネスモデルが多様化・複雑化する現代にあっても、無形資産を含む事業 の将来性・事業価値に着目した資金供給の可能性が拡がり、創業・承継・成長途上の局面で、資金調達が容易になる、(β)事業者と金融機関が緊密な関係を構築しやすくなることで、事業の成長が借り手・貸し手の共通の利益となるため、事業の実態に即した融資・支援や、経営悪化時の早期支援が進む、(γ)価値ある事業を見極め、早期に抜本的な経営改革を進めることが借り手・貸し手の共通の利益になるため、再生計画の合意形成等が容易になること、また、商取引先やDIPファイナンスが保護され、事業の継続の可能性も高まる――といった3点が見込まれる。

 また、このような改善点を活用の「イメージ」と捉えたものとして、論点整理では、たとえば事業者における様々なライフサイクルを次の(A)~(D)の4つのシーンに分けて想定し、計10の活用事例を紹介するようにしている。(A)事業を立ち上げる・引き継ぐ局面:(事例1)ベンチャー企業に対する融資(ベンチャー・デット)、(事例2)プロジェクト・ファイナンス、(事例3)事業承継のファイナンス、(B)事業の成長を支える局面:(事例4)地域中核企業の成長事業へのファイナンス、(事例5)エグジットファイナンス、(事例6)従来の担保となる個別資産を持たない事業者へのファイナンス、(C)危機時を支える局面:(事例7)安定したキャッシュフローが見込まれる事業者へのファイナンス、(D)事業の再生を支える局面:(事例8)私的整理時におけるファイナンス、(事例9)私的整理時の第二会社方式における新会社へのファイナンス、(事例10)法的整理時におけるDIPファイナンス。

 上記(ウ)に係る制度設計上の課題については「考慮されるべき論点」として抽出、国連UNCITRALモデル法や米国・統一商事法典(米国UCC)などが参考とされたという。また、この段階で議論を深めるためのたたき台となる制度イメージとして用いられたのが「事業成長担保権(仮称)」である。これを踏まえ、論点整理が本文において論点として掲げたのは(1)新たな担保権の適切な活用、(2)事業継続に不可欠な利害関係者等との優先関係、(3)新たな担保権の実行手続の3点となった。

 たとえば(1)をみると、①包括的な担保権は経営者保証によらずに資金を調達するための新たな選択肢となることが期待されるが、経営者保証が果たしてきた規律付けの機能自体は否定されるべきではないことから、たとえば経営者の保証や個人資産への担保権設定につき、一定の停止条件を付すことなどが考えられること、②たとえば、無登録業者等による担保権の濫用のおそれなどの弊害を懸念する声もあり、このような濫用を予防するため、たとえば、担保権者の範囲について、監督指針や業界団体の自主規制等によって必要な手当てがされている貸し手に限定することが考えられること、③包括的な担保権を活用した新たな資金調達の手法として、担保付シンジケートローンが考えられ、現行法では担保権と債権の同一人への帰属が前提とされて高い取引コストが伴うところ、たとえばこの分離を認めることも検討に値すること――の指摘がなされている。

 なお、論点整理の末尾「別紙」において、本制度の概要・登録制度・優先順位・実行・管財人選任等といった9項目とともに計24に大別した要検討項目を挙げており、適宜参考とされたい。

 

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