◇SH3454◇最二小判 令和2年6月26日 国民健康保険税処分取消請求控訴、同附帯控訴事件(菅野博之裁判長)

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 被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金につき納期限等を定めてその納付等を求める旨の相続人に対する通知と消滅時効の中断

 被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金につき、納期限等を定めてその納付等を求める旨の相続人に対する通知は、これに係る地方税の徴収権について、地方税法(平成29年法律第45号による改正前のもの)18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しない。

 地方税法9条、13条1項、地方税法(平成29年法律第45号による改正前のもの)18条の2第1項1号

 令和元年(行ヒ)第252号 最高裁令和2年6月26日第二小法廷判決 国民健康保険税処分取消請求控訴、同附帯控訴事件 一部破棄自判、一部上告棄却(民集74巻4号759頁)

 原 審:平成30年(行コ)第304号、第317号 東京高裁平成31年3月27日判決
 第1審:平成29年(行ウ)第56号 さいたま地裁平成30年9月26日判決

1 事案の概要等

 (1) 本件は、Y市長が、国民健康保険税及びその延滞金の滞納処分として、Xの預金払戻請求権を差し押さえ(以下「本件差押処分」という。)、さらに配当処分をしたことについて、Xがその取消し等を求める事案である。

 Xは、上記配当処分が違法であるとする理由として、税額の算定の誤り等も主張しているが、上告審では、同税に係る債権(以下「本件租税債権」という。)の消滅時効の成否(時効中断事由の有無)が問題となった。地方税の徴収権は5年の消滅時効にかかるところ、その中断事由としては、地方税法(平成29年法律第45号による改正前のもの。以下同じ。)18条の2第1項において納付又は納入に関する告知(1号)、督促(2号)等が定められているほか、同法18条3項により民法の規定が準用され、差押え及び承認(平成29年法律第44号による改正前の民法147条)も租税債権についての中断事由となると解されている(なお、法改正により、時効の「中断」は「完成猶予」と「更新」に改められた。)。

 (2) 本件の事実関係等の詳細は判決文のとおりであるが、消滅時効の成否に関係する事情は次のとおりである。

  1.  平成22年4月1日頃   Y市長職務執行者がXに係る平成20年度及び平成21年度の国民健康保険税につき世帯主であるA(Xの父)に対し税額等の決定(以下「本件各決定」という。)をし、その旨を通知
  2.  平成23年1月26日    YがAに対し督促
  3.  平成23年11月     Aが死亡
  4.  平成24年1月24日    XがYに滞納金の一部を納付(以下「平成24年納付」という。)
  5.  平成24年10月25日  Y市長がXに対しAの滞納金を相続人として同年11月16日までに納付するよう求める旨通知(以下「本件承継通知」という。)
  6.  平成29年1月10日    本件差押処分

 

2 一審判決及び原判決の概要

 (1) 本件租税債権の消滅時効に関し、平成23年1月の督促及び平成29年1月の本件差押処分が中断事由に当たることは当事者間に争いがないが、この間に約6年が経過している。Yは、平成24年納付が承認に当たり時効が中断したと主張したが、一審判決は、Xが本件各決定に係る税額を一貫して争っていたことからすると、Xが平成24年納付の際に納付しなかった部分につき債務を承認したものと認めることは困難であるとして、Yの主張を排斥し、本件租税債権は時効消滅していたとして、配当処分の取消請求を認容した。

 (2) Yが控訴し、平成24年10月の本件承継通知が納付又は納入に関する告知に当たり時効が中断したとの主張を追加したところ、原判決は、一審判決と同様に平成24年納付は承認に当たらないとする一方、本件承継通知は納付の告知(地方税法13条)に当たり、時効中断効が認められるとして、配当処分の取消請求を棄却すべきものとした。

 

3 本判決の概要

 これに対し、第二小法廷は、被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金につき、納期限等を定めてその納付等を求める旨の相続人に対する通知は、これに係る地方税の徴収権について、地方税法18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しないとした上、本件では、本件各決定が被相続人であるAに対する納付の告知に当たり、相続人であるXに対してされた本件承継通知は上記中断の効力を有しないとして、配当処分の取消請求を認容すべきものとした。

 

4 説明

 (1) 国民健康保険税の賦課徴収に関する手続

 地方税法13条1項は、地方団体の長は、納税者から地方団体の徴収金を徴収しようとするときは、文書により納付又は納入の告知をしなければならないとし、当該文書には納付又な納入の期限等を記載するものとしている。そして、納税者が納期限までに国民健康保険税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合には、徴税吏員は、督促状を発し(同法726条1項)、滞納者がその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の財産を差し押さえなければならないとされる(同法728条1項1号)。

 (2) 相続による納税義務の承継

 相続により納税義務の承継があった場合(地方税法9条)において、被相続人に対して納付の告知、督促又は差押えがされているときには、これに基づき直ちに相続人に対して督促、差押え又は換価をすることができ、改めて相続人に対する納付の告知等を繰り返す必要はないと解されている。もっとも、被相続人に督促をした税額につきその相続人に対し差押えをしようとするときは、実務上、あらかじめ相続人の納付すべき額について催告をした上で行うことが適当であるとされており(地方税務研究会編『地方税法総則逐条解説』(地方財務協会、2017)81頁。なお、国税に関しては、国税通則法基本通達第5条関係20において同趣旨の内容が明記されている。)、これは、相続人に任意の納付等の機会を与え、その利益を保護する趣旨のものと解される。

 (3) 納付又は納入に関する告知による時効中断

 ア 前記のとおり、地方税法においては納付又は納入に関する告知が地方税の徴収権の時効中断事由として掲げられているところ、国税においても「納税に関する告知」が、また、国の会計に関する一般法である会計法においても「納入の告知」が、それぞれ時効中断効を有するものとされている。このうち会計法における納入の告知に時効中断効が認められている理由については、納入の告知が、法令の規定により一定の手続と形式を要し、かつ公正慎重に行われるものであるから十分に確実性のあるものであり、私人が行う催告のような非形式的請求とは異なり、裁判上の手続に比べて必ずしも軽視できない公の手続行為であることに基づくなどと説明されており(青木孝德編『平成27年改訂版 会計法精解』(大蔵財務協会、2015)710頁等)、このことは、地方税法における納付又は納入に関する告知にも同様に当てはまるものといえる。

 イ Yは、Aに対して納付の告知(本件各決定の通知)及び督促をした後、その相続人であるXに対し本件承継通知により改めて納付の告知をしたもので、これにより時効中断効が生じたと主張している。そもそも本件承継通知がXに対する納付の告知の趣旨で行われたものであるのかについては疑問もあるが、仮にこれが納付の告知としての形式を備えているとして、このような再度の納付の告知に時効中断効が認められるかが問題となる。

 この点について明示的に述べた文献や裁判例等は見当たらないが、会計法上の納入の告知に関しては、1回限り行い得るものであり、2度以上の納入の告知は、たとえ納入告知書の形式の文書をもってされても、単なる催告にすぎず、それ自体では時効中断の効力は生じないと一般に解されているようであり(兵頭広治『逐条会計法概説』(大蔵印刷局、1983)326頁等)、福岡高判昭和32・7・31訟月3巻7号43頁も同様の判断をしている(このほか、地方税法上の督促に関し、再度行った督促は履行の催告としての効果を生ずるにすぎないとするもの(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣、1990)262頁等)もある。)。

 ウ 本判決は、地方税法が、地方団体の徴収金の徴収に関して段階的な手続を定めており、納付又は納入の告知が繰り返されることを予定していないことや、同告知の性質に照らして特別に時効中断効を付与したものと解されることを根拠に、地方税法18条の2第1項1号に基づく時効中断効は最初に行われたものについてのみ生ずるとして、会計法上の納入の告知等に関する上記のような一般的な理解と同様の立場を採ることを明らかにしている。実質的にみても、納付又は納入の告知は裁判上の請求等に比べれば簡易な手続で行い得るものであり、これを繰り返すことによって容易に時効を中断し得ることとすると、地方団体の利益を過度に保護することになり、相当ではないように思われる。

 その上で、本判決は、相続があった場合にもこの理は異ならないとし、本件承継通知は同号に基づく時効中断効を有しないとしたものである。なお、本件承継通知は、前記(2)のような実務上の運用に従って行われたものであると思われ、本判決の「相続人の利益保護等の観点から、……相続人に対し改めて……その納付等を求める旨の通知をしたとしても」との説示は、このことを踏まえたものであろう。

 

5 本判決の意義

 本判決は、被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされている地方団体の徴収金につき、相続人に対し改めて納期限等を定めてその納付等を求める旨の通知がされた場合に、地方税法18条の2第1項1号に基づく時効中断効が生ずるかという点に関し、最高裁として初めて判断を示したものであり、実務上も理論上も重要な意義を有するものである。

 なお、Yは、配当が完了すると配当処分の効力は消滅するから、配当処分の取消しを求める訴えの利益はないとも主張していたが、一審判決及び原判決は訴えの利益を肯定した。本判決も、その理由は明示していないが、訴えの利益があることを前提としているものと解され、この点においても注目されるものといえよう。

 

 

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