Withコロナ時代の労働法務
第4回 在宅勤務(4)
島田法律事務所
弁護士 福 谷 賢 典
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下「新型コロナ」という)の流行は更に拡大の様相を呈し、1月7日には二度目の緊急事態宣言が発令されるに至ったが、かかる状況下でも、各企業においては、感染拡大防止策を徹底しつつ事業活動を継続する必要がある。本連載では、このことに伴って求められる従業員の労務管理等の諸課題への対処について解説する。第4回では、前回までに引き続き、在宅勤務を巡る各種の法的論点について述べる。
なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が現在所属し、または過去に所属していたいかなる団体の見解を示すものでもないことに注意されたい。
Ⅱ 在宅勤務と労働時間管理(承前)
6 労働時間の把握
- ⑴ 労働時間把握の責務
- 第2回および第3回で述べてきたとおり、在宅勤務をする従業員に対しても、労働基準法等に定める労働時間規制は当然に適用される。そのため、時間外・休日・深夜の労働(以下「時間外労働等」という)をさせる場合には割増賃金を支払わなければならず(労働基準法37条)、その計算をする上では、在宅勤務者の労働時間を正確に把握する必要がある。
- また、過重労働による従業員の健康被害を防止するという労働安全衛生の観点からも、従業員の労働時間の状況の把握が要求されているが(労働安全衛生法66条の8の3)、このことは、在宅勤務者についても同様である。なお、かかる労働安全衛生法上の労働時間把握義務は、事業場外みなし労働時間制や裁量労働制の適用者(第3回参照)、あるいは労働基準法41条に定める者(いわゆる管理監督者等)といった、時間外労働等に係る労働基準法の一部規定が適用されない者との関係でも認められることに注意が必要である[1]。
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以上のとおり、企業には、在宅勤務者の労働時間を適正に把握する責務がある。
- ⑵ 労働時間把握の方法
- 「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「テレワークガイドライン」という)(https://www.mhlw.go.jp/content/000545678.pdf)は、通常の労働時間制度に基づいて(在宅勤務を含む)テレワークに従事する労働者の労働時間につき、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下「労働時間適正把握ガイドライン」という)(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/0000149439.pdf)に基づいて適切にこれを把握しなければならないとしている(テレワークガイドライン2(2)イ(ア)(i))。また、労働安全衛生法66条の8の3は、厚生労働省令で定める方法によって労働者の労働時間の状況を把握すべき旨を定めるところ、同省令(労働安全衛生規則52条の7の3第1項)およびその解釈通達[2]は、基本的には労働時間適正把握ガイドラインを参考として当該方法を明確化している。
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以下では、労働時間適正把握ガイドラインが定める労働時間の把握の方法、およびその在宅勤務者への適用について述べる。
- ア 原則的方法
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労働時間適正把握ガイドラインは、労働時間の適正な把握のため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻の確認を求めており、その原則的な方法として、始業・終業時刻を①使用者が自ら現認すること、または②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録をもとに確認することを求めている(同4(1)・(2))。
ここで、上記①の「自ら現認」とは、「使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認すること」をいうが[3]、在宅勤務者については、その始業・終業時刻を管理職等が直接確認することは通常考え難い。ウェブカメラによって従業員がパソコンの前にいることを自動的に撮影するモニタリング・ソフトウェアを用いれば不可能ではないかもしれないが、従業員のプライバシーやモチベーションの観点から、導入には相当のハードルがあるように思われる。
そのため、基本的には、上記②の客観的な記録を基礎とした確認を検討すべきこととなろう。例えば、企業が在宅勤務者に対して業務用のパソコンを貸与している場合で、当該パソコンのログイン・ログアウト時刻を遠隔操作で確認することができるときは、かかる方法で日々の始業・終業時刻を確認することができる。私用のパソコンの利用を認めている場合も、社内のパソコンの遠隔操作を可能とする等のシステムを導入しているのであれば、当該社内システムへのアクセスの記録をもって始業・終業時刻を確認することが可能である。
- イ 自己申告制による場合に講ずべき措置
- 上記アの方法によることなく、労働者の自己申告制によってその始業・終業時刻を確認しようとする場合、不正確・過少な申告となりがちであることから、労働時間適正把握ガイドラインは、使用者に対し、以下の①ないし⑤の措置を講じることを求めている(同4(3))。
- ① 自己申告制の対象となる労働者に対して、ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
- ② 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと
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③ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること -
④ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと -
⑤ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、 上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと
また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること
さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定 (いわゆる三六協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること
- 在宅勤務者に対し、社内の勤怠管理システム上で毎日の始業・終業時刻を入力させたり、始業・終業時の管理職等への電話やメールによる連絡を義務付けたりしている場合が、上記の自己申告制による確認を行っている場合に該当する。かかる場合、上記①ないし⑤の措置を講じる必要があるが、特に重要なのは、上記③の実態調査である。具体的には、従業員に対する定期的なヒアリングや、定期的に行う従業員の申告内容と客観的な記録との対照および両者に一定程度以上の乖離が見られる場合のより詳細な調査等を業務フローとして定め、これを適切に運用することが考えられる。これら定期的な調査に限らず、例えば在宅勤務者がその申告に係る終業時刻よりも後に頻繁にメールを送信している等、申告時間と実労働時間との乖離が疑われるようなときは、適時適切に実態調査を行うべきであろう。
(第5回へ続く)
[1] いわゆる高度プロフェッショナル制度(労働基準法41条の2)の対象となる従業員については、労働安全衛生法66条の8の3が定める労働時間把握義務は免除されているが、当該従業員の「健康管理時間」を把握するための措置は講じる必要があり(労働基準法41条の2第1項3号)、「健康管理時間」が1週間当たり40時間を超えた場合におけるその超過時間が、1ヵ月当たり100時間を超える者については、医師による面接指導を受けさせなければならない(労働安全衛生法66条の8の4、労働安全衛生規則52条の7の4第1項)。
[2] 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平30基発1228第16号)第2の問9、12~14。
[3] リーフレット『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/0000187488.pdf)4頁。
(ふくたに・まさのり)
島田法律事務所パートナー弁護士。東京大学法学部卒業、2004年10月弁護士登録(57期)、2007年1月~2008年12月都市銀行法務部に出向。中心的な取扱分野は、争訟、労働法務、コーポレート、金融法務等。メーカー、金融機関等の人事部門・法務部門から、人事制度の設計・運用、個別労働紛争の処理等に係る法律相談を日常的に受けるとともに、労働審判、あっせん等の企業側代理人も務めている。