SH4021 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第59回 第11章・紛争の予防及び解決(4)――DAAB(3) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/06/09)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第59回 第11章・紛争の予防及び解決(4)――DAAB(3)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第59回 第11章・紛争の予防及び解決(4)――DAAB(3)

2 FIDICの規定内容(続)

⑷ DAAB手続ルールの規定内容

 a 目的

 DAABを通じて、紛争が回避されること、また、紛争が生じた場合には、迅速かつ効率的に、コストを抑えた形で解決することを、目的として掲げている。

 

 b 和解協議あっせん

 当事者(Employer及びContractor)の合意がある場合には、DAABは和解協議あっせんを行うところ、その場面ないし方法が、当事者との会議の場面、現場訪問の場面、及び当事者に対する非公式の文書(informal written note)であることが規定されている。

 

 c 会議と現場訪問

 DAABが工事の内容と状況を把握するために、また、紛争の予兆ないし紛争が生じた場合には、その内容と状況を把握するために、会議と現場訪問は重要である。

 DAAB手続ルールでは、DAABが選任された後、できる限り速やかに対面での会議を設定することが定められている。また、その最初の会議では、その後の会議や、現場訪問のスケジュールを定めることも求められている。会議ないし現場訪問の頻度については、70日以上140日以下の間隔が原則であることが定められている。

 会議は、対面のほか、電話会議、テレビ会議の形式でも可能である。

 会議、現場訪問を実施した後は、DAABがレポートをまとめることとなっている。

 

 d DAABと当事者(Employer及びContractor)間のやりとり

 DAABと一方当事者がやり取りをする際には、同時に、他方当事者にそのコピーを送付することが義務づけられている。手続の透明性確保のためである。

 また、当事者からDAABに対して、契約書類、プログラム、関連する通知等の関連書類を提出することも、義務づけられている。

 

 e DAABの権限

 DAABの権限として定められている事項のうち、主なものは以下のとおりである。

  1.   手続の進行(現場訪問、和解協議あっせん、判断(decision)等の手続について)
  2.   DAABの管轄、判断対象[1]
  3.   当事者の同意がある場合には、専門家(法律の専門家、技術の専門家等)の手配
  4.   判断のために必要な事実の調査
     

 f 判断(decision)に向けた手続

 まず、各当事者、すなわちEmployer及びContractorのそれぞれに、合理的な範囲の主張立証の機会と、反論反証の機会を確保することが、DAABの義務として定められている。但し、DAABの手続の迅速性を損なわない範囲とされ、また、DAABは、手続の進行を定める際に、無用な遅延や費用を避けることも求められている。

 ヒアリングについての、規定も設けられている。ヒアリングは、判断に向けた手続のメインイベントというべきもので、DAAB及び当事者が一堂に会し、口頭での議論や、事実確認(尋問)等を行うものである。

 ヒアリングにおいては、DAABは、判断事項について意見を述べてはならないとされている。当事者の言い分を聞くことに集中することが、DAABに求められているといえる。

 また、同様の趣旨に基づくものと解されるが、ヒアリングにおいては、DAABは和解協議あっせんを行ってはならない。

 判断が、DAABメンバーが3名の場合に、全員一致に至らないときは、多数決によって判断することができる。その際には、多数意見のDAABメンバーが、少数意見のDAABメンバーに、別途のレポート作成を求め、これを当事者に提供することができる。

 

 g DAA合意終了の場合

 DAABの各メンバーとの間で、DAA合意が個別に締結されているところ、DAABメンバーが辞任その他により退任した場合には、当該メンバーとのDAA合意は終了する。

 その場合、判断について定められた期間(前回述べたとおり、付託後、原則84日以内に判断することが求められている)が中断し、補充のメンバーが新たに選任された場合には、またゼロから期間がスタートする。

 但し、DAABメンバーが3名の場合には、1名欠けたとしても、残りの2名で、手続を進めることができる。もっとも、ヒアリングと判断は、当事者が別途合意しない限り、2名だけでは行うことはできない。

 

 h DAABメンバーに対する異議及び忌避申立等

 各当事者は、DAABメンバーに対する異議(objection)と忌避(challenge)を申し立てることができる。いずれも、DAABメンバーの排除を求めるものであり、その理由となるのは、中立公正性を欠くこと等である。

 異議は、対象となったDAABメンバーの応答を求める手続である。応答のポイントは、当該メンバーが異議に応じて辞任するか、あるいは異議に理由がないとして辞任を拒むかである。この応答は、異議通知を受領した後、7日以内に行わなければならない。

 忌避は、ICC(国際商業会議所)の判断を求める手続である。異議を申し立てた当事者は、対象となるメンバーの応答を受領した後、7日以内にこの忌避を申し立てることができる。ICCは、忌避を認めて当該メンバーを排除するか、あるいは忌避を認めずに当該メンバーが引き続きDAABの業務にあたるかを、判断する。



[1] 判断できる範囲を、DAABが自ら判断するという立て付けである。

 

タイトルとURLをコピーしました