◇SH3497◇eスポーツを巡るリーガル・トピック 第3回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権 長島匡克(2021/02/22)

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eスポーツを巡るリーガル・トピック

第3回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権

TMI総合法律事務所

弁護士 長 島 匡 克

 

  1. 第 1 回 eスポーツを巡るリーガル・トピックの検討の前提として
  2. 第 2 回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作物性とプレイ動画
  3. 第 3 回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権
  4. 第 4 回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツ選手と著作権
  5. 第 5 回 eスポーツとフェアプレイ(1)――ドーピング等
  6. 第 6 回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に
  7. 第 7 回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点
  8. 第 8 回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約
  9. 第 9 回 eスポーツにおける契約上の問題点(2)――eスポーツにおける選手契約
  10. 第10回 eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

 

 eスポーツの発展に伴い、その周辺ビジネスも盛り上がりを見せている。eスポーツの周辺ビジネスにおいても、eスポーツのプレイにおいてゲームという著作物の利用を伴うことになるため、著作権への留意は不可欠である。今回は、①eスポーツカフェやバー(以下「eスポーツカフェ」という。)といったeスポーツを楽しめる場の提供に係るビジネス、及び②eスポーツのプレイ技術を向上させるためのeスポーツスクールに係るビジネスを例にして、これらのビジネスとゲームの著作権との関係を検討してみたい。

 

1 eスポーツカフェでの利用

⑴ eスポーツカフェでのゲーム利用と著作権

 eスポーツカフェが店舗において高性能のゲーミングPC等のeスポーツ用の機器を設置し、利用者は当該機器でeスポーツタイトルを楽しめる場を提供する営業が増加している[1]。これらのeスポーツカフェが、ゲーム会社の許諾なく、ゲームタイトルを利用者にプレイさせることは、著作権法上の問題を生じさせる可能性がある。

 すなわち、eスポーツカフェにおいては、一定の人気ゲームタイトルが店舗に設置してある高性能ゲーミングPCに店舗側であらかじめインストールされている場合が多い。そうだとすれば、eスポーツカフェという営業で利用する目的での複製は、ゲームタイトルのライセンス契約においては認められたライセンス条件でないことが一般的であり、個人使用目的の複製に係る規定(著作権法30条1項。以下「法」という。)の適用はないことから、複製権(法21条)の侵害が生じ得る。

 なお、店舗によっては予めインストールされていないゲームタイトルは利用者においてインストール可能であるとされている場合もある。この場合の複製の主体は店舗か利用者かで争いになり得るだろう。

⑵ eスポーツカフェがゲームの上映権を侵害するか

 これに加えて、「著作物を公に上映する」ことに関し上映権(法22条の2)の問題も生じ得る。「公に」とは、不特定の者又は特定多数の者を意味し、「上映」とは、著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他のものに映写することを意味する(同法2条1項17号)。そのため、ゲーム会社の許諾なくeスポーツカフェ内でeスポーツ大会等を開催し、ゲーム影像を不特定多数が視聴可能なスクリーンに映写する場合は、上映権侵害となることは異論がないであろう。

 一方で、eスポーツカフェの利用者個人に割り当てられたPC等において、当該ゲームタイトルが上映される場合、eスポーツカフェがゲームに係る上映権を侵害するか否かは、①そもそもゲームタイトルのプレイにより上映行為を行っている主体は利用者であるが、eスポーツカフェもその主体と評価できるか(侵害主体論の解釈問題)、または②その上映主体はeスポーツカフェであるとしても、上映の相手方が利用者個人のみであることが「公に」の要件を充足するか(「公に」の解釈問題)、という点について議論になりうる[2]

 まず、①については、著作権法における侵害主体が、物理的な侵害主体のみならず規範的な侵害主体にまで認められることは争いがないところであり、上映行為についても、例えば裁判所は、カラオケボックス等で客の操作により、レーザーディスクに収録された楽曲の伴奏音楽を再生し、当該楽曲の歌詞をモニターに表示させる行為を事業者による上映行為と認定してきた[3]。その判断基準は、平成23年に下された最高裁判決を踏まえた昨今の裁判例を前提にすると、実際の著作権侵害の対象、方法、侵害行為の関与の内容、程度等の諸要素を考慮した総合判断により、侵害主体の認定がなされるであろう[4]

 この点、侵害主体の認定には総合考慮を要するため個別の検討とならざるを得ないものの、例えばFree-to-Play型のゲームの場合であれば、当該ゲームがeスポーツカフェでインストールされても、インストールそれ自体は基本無料であるからゲーム会社として金銭的な損失はないとも考えられる点(むしろ課金の主体であるユーザーのプレイ時間が増加するため利益を得る機会が増えたとも評価できる点)や、具体的なゲームタイトルの選択は利用者が行う点はeスポーツカフェの侵害主体性を否定させる方向に働き得る事情であろう。一方でeスポーツカフェが上映の対象であるゲームタイトルをあらかじめ用意し、その上映に必要なPC等の機器を準備の上、当該上映の対価として利用料を受け取っていることからすれば、eスポーツカフェが上映行為の主体と考えられる可能性も否定できないように思われる。

 次に、②「公に」とは、不特定の者又は特定多数の者をいい、特定とは、行為者との間に個人的な結合関係があるものを指す[5]。eスポーツカフェにとって個々の利用者とは個人的な結合関係があるものではなく、「不特定」の者であるから、たとえ一人であっても「公に」の要件は充足するように思われる。

 そうだとすると、具体的な事案によるものといわざるをえないものの、eスポーツカフェがゲームに係る著作権の上映権侵害を構成すると判断される可能性は否定できない。

⑶ ゲーム機とゲームソフトの提供の場合はどうか

 以上はPCでプレイするeスポーツタイトルを前提としているが、店舗にゲーム機とパッケージ販売されているゲームソフトを準備し、利用者に自由に利用させてゲームをプレイさせる店舗(eスポーツカフェとの対比の便宜上「ゲームバー」という。)もある。この場合も、物理的な上映行為を行うのは利用者であるが、パッケージ販売されているゲームは通常購入しない限りプレイできないのものであり、ゲームバーはゲーム機とゲームソフトを準備し、利用者にこれらを利用させ、それにより対価を受け取っていることからすれば、ゲームバーがゲームの上映主体であるとされる可能性があるだろう。実際に、ゲームバーの経営者等が、ゲーム会社の許諾なく客にゲームさせたとして著作権法違反(上映権侵害)の疑いで逮捕されている事件もある[6]

 なお、著作権の消尽に関する議論に関連し、一度著作物の販売時点で投下資本の回収がなされている場合、販売時点において通常予定されている利用方法について、権利者は権利を行使できないのではないか(権利が消尽するのではないか)という議論が近時展開されている(アーケードゲームの購入者が、客にゲーム影像を上映することが典型例とされる。)。しかしながら、アーケードゲームとは異なり、家庭用ゲームソフトの販売はあくまでも私的利用のためであるから、私的利用を超えて、ゲームバー等で営利目的で客に利用させる行為や、eスポーツとして観客に向けて上映する行為についてまで販売時点において通常予定されている利用方法とはいい難く、上映権は消尽しないと解すべきであろう[7]

 

2 eスポーツスクール・コーチングでの利用

 eスポーツの普及と同時に、eスポーツの選手となるための技術・ノウハウを提供するサービスも普及しつつある。オフラインでのスクール形式で提供するものもあれば、オンラインでのマンツーマン形式のものもあり、多様である。このようなスクール・コーチングの場合も、ゲームの著作権を利用するが、ゲーム会社から権利処理を受ける必要があるか、が問題となる。

 オフラインでのeスポーツスクールにおいても、当該スクールにおいてゲームタイトルが当該スクールのPCにインストールされる場合には、複製権侵害となろう。さらに、当該スクールが上映権を侵害するか、についても、多数に対してゲーム影像を上映する場合には問題なく肯定されるであろう。一方で、個人のPCにのみにおいてゲーム影像が表示される場合や、マンツーマンでのレッスンの場合には、上述の場合と同様に、①eスポーツスクールが上映権の侵害主体といえるか、②スクールの受講生のみへの上映が「公に」の要件を充足するか、の検討が必要になろう。この点、音楽著作権の演奏権に関する事案であるが、スクールにおける著作物の公への利用、という点で、JASRAC音楽教室事件[8]における事実関係に類似しているため、同判決が一定の参考になると思われる。

 同判決は、音楽教室側が演奏の対象である課題曲を決定しているなどの認定を前提に、音楽教室が演奏主体であると認定し、1人の生徒に対する演奏も「公に」の要件を満たすと判断しているため、同裁判例を前提にすれば、eスポーツスクールにおいても同様にレッスンの対象となるゲームをスクール側で決定する等の事情により、上映権侵害が認められる可能性は否定できない。しかしながら、同判決は多くの批判にさらされており、本記事掲載時点においては控訴審判決を控えているため、今後の動向を見守る必要がある。

 一方で、オンラインでのコーチングも行われている(コーチと受講生のマッチングサービスも存在する。)。コーチがコーチングのためにゲームを利用する場合、営利目的での利用と考えられるため、ライセンス契約に照らしてそのような利用が認められるか(許諾が必要ではないか)の検討が必要となる場合もあると思われる。

 

3 チート行為と著作権

 オンラインゲームに対するチート行為は、著作権法上の問題にもなりうる。この点については、第6回(eスポーツとフェアプレイ(2)チート行為と法律――著作権を中心に)において検討することとしたい。

 

4 小括

 このように、著作権の問題は、eスポーツの大会の開催・配信や、プレイ動画の配信はもちろんのこと、その周辺ビジネスにおいても不可避的に生ずることになる。eスポーツ産業の更なる拡大のためには周辺ビジネスを含め、ゲーム会社の著作権とどのように向かい合い、ゲームを利用していくかがポイントだと思われる。JeSUが取り纏めた「日本のeスポーツの発展に向けて~更なる市場成長、社会的意義の観点から~」と題する報告書においても指摘されているように[9]、ゲームタイトルの著作権等の知的財産権の適切な利用・許諾方法等について、今後の検討が重要になるであろう。

第4回につづく

 


[1] eスポーツカフェやバーが風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)2条1項5号の営業(いわゆるゲームセンター営業)に該当し、同法の規制の対象となるかの議論がなされている。この点、JeSUは参加料徴収型大会ガイドラインを発表し、「通信可能なパソコン、スマートフォン、タブレット等の汎用性のある機器は、当該機器がゲーム以外の機能を現実に利用可能な状態で提供されている限り、風営適正化法(筆者注:風営法)で定める遊技設備には該当しないことから、このような提供形態でこれらの機器のみを用いて開催される競技大会は、参加料の徴収の有無にかかわらずゲームセンター等営業には該当しない」との解釈のもとに、ガイドラインを制定しており、当該規制の適用範囲を明確化している(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/participationfee_guidelines.pdf)。あくまでも競技大会に関するガイドラインではあるが、風営法2条1項5号の「遊戯設備」の定義に関する解釈であるため、一定の参考になると思われる。

[2] 東京地判昭和59・9・28判時1129号120頁(パックマン事件)は、業務用ビデオゲーム機を喫茶店内に設置し、来店客に操作させて上映していた喫茶店経営者の行為を上映権侵害と認定している。

[3] 東京高判平成11・7・13判時1696号137号(カラオケボックスビックエコー著作権事件)

[4] 最一判平成23・1・20民集65巻1号399頁(ロクラクⅡ事件)。但し、本件は複製権に関する事案であり、上映権の検討にも射程が及ぶかは議論がある。演奏権について判断したものとして、東京地判令和2・2・28裁判所HP(JASRAC音楽教室事件)。同判決は、ロクラクⅡ事件と最三小判昭和63・3・15民集42巻3号199頁(クラブ・キャッツアイ事件)を参照し、「利用される著作物の選定方法,著作物の利用方法・態様,著作物の利用への関与の内容・程度,著作物の利用に必要な施設・設備の提供等の諸要素を考慮し,当該演奏の実現にとって枢要な行為がその管理・支配下において行われているか否かによって判断するのが相当」との規範を定立している。同裁判例ではさらに「著作物の利用による利益の帰属」を考慮しているが、この点について批判もなされている(上野達弘「判例詳解 音楽教室と著作権」Law&Technology88号(2020)20頁)。

[5] 加戸守行『著作権法逐条講義〔6訂新版〕』(著作権情報センター、2013)206頁、前掲注[4] JASRAC音楽教室事件

[6] 一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会「警告を無視、ゲームを無断上映した店舗経営者ら4名を逮捕」平成30年6月13日(https://www2.accsjp.or.jp/criminal/2018/1216.php

[7] 愛知靖之「譲渡以外の行為と著作権の消尽」著作権研究45号(2018)12頁、14頁

[8] 前掲注[4] JASRAC音楽教室事件

 


(ながしま・まさかつ)

2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。

 

TMI総合法律事務所 http://www.tmi.gr.jp/

TMI総合法律事務所は、新しい時代が要請する総合的なプロフェッショナルサービスへの需要に応えることを目的として、1990年10月1日に設立されました。設立以来、企業法務、M&A、知的財産、ファイナンス、労務・倒産・紛争処理を中心に、専門化と総合化をさらに進め、2021年1月1日現在、弁護士494名、弁理士85名、外国弁護士37名の規模を有しています。クライアントの皆さまとの信頼関係を重視し、最高レベルのリーガルサービスを提供できるよう努めております。

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