◇SH3502◇eスポーツを巡るリーガル・トピック 第4回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツの選手と著作権 長島匡克(2021/02/25)

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eスポーツを巡るリーガル・トピック

第4回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツの選手と著作権

TMI総合法律事務所

弁護士 長 島 匡 克

 

  1. 第 1 回 eスポーツを巡るリーガル・トピックの検討の前提として
  2. 第 2 回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作物性とプレイ動画
  3. 第 3 回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権
  4. 第 4 回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツ選手と著作権
  5. 第 5 回 eスポーツとフェアプレイ(1)――ドーピング等
  6. 第 6 回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に
  7. 第 7 回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点
  8. 第 8 回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約
  9. 第 9 回 eスポーツにおける契約上の問題点(2)――eスポーツにおける選手契約
  10. 第10回 eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

 

 eスポーツの試合またはプレイ動画の配信においては、梅原大吾選手の「背水の逆転劇」のように、スーパープレイと評することのできるゲームプレイがなされることがある。そのようなeスポーツ選手のゲームプレイには、何らかの保護が与えられないのか。今回は、eスポーツ選手が著作権法上の著作者または実演家として保護される可能性について検討する。

 

1 eスポーツ選手が著作者となる可能性

⑴ ゲームの著作物の翻案

 ゲームのプレイ動画を配信する選手には何らかの権利は与えられるか。プレイ動画の醍醐味は、当該ゲームに精通したプレイヤーのプレイであり、これに何らかの保護が与えられないだろうか。

  1.  ア ゲームプレイそれ自体
  2.    プレイヤーのプレイがゲームという著作物の翻案(著作権法27条。以下「法」という。)となりうるか。翻案とは、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」と定義されている[1]。複製との違いは、「新たに思想又は感情を創作的に表現」しているかどうか、すなわち創作的表現の修正、増減、変更等の有無である。
  3.    プレイヤーがゲームプレイそれ自体により創作性を発揮できる場面は、eスポーツタイトルであるゲーム[2]を前提とすると、限られている。プレイヤーの操作によりプレイごとに影像や音声が変化するものの、その変化はあらかじめゲーム会社により設定された範囲内においてプレイヤーがキャラクターの動き等を選択しているにすぎず、プレイヤーの創作的な表現が画面上に表示されるとは考え難い。そのため、選手はゲームプレイにおいて創作的活動を行っているとは評価できず、ゲームの著作物の翻案とはならないのが通常であろう(チートツールを用いてゲーム制作者により設定された範囲を超えてのプレイも可能となった場合には、ゲームプレイ自体に創作性があるといえる場合もあるかもしれないが、別途同一性保持権の侵害の問題が生ずる。)。
  4.    もっとも、プレイヤーが創作的な表現を行えるゲームにおいては、ゲームプレイに著作物性が発生する場合も考えられる。
     
  5.  イ プレイ動画の配信のための動画編集・実況等
  6.    一方で、プレイ動画の配信のために、プレイ動画を編集し、実況や解説等の音声を吹き込む場合はどうか。この点は、当該編集や実況、解説等に創作性が認められれば、ゲームという著作物の翻案に該当し、二次的著作物となると考えられる。このような二次的著作物の創作については、当然に原著作者の許諾が必要であるところ、プレイ動画の配信に関するガイドラインにおいて許諾されている場合が多い。
  7.    また、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する」(法28条)とされているため、当該プレイ動画の利用についても、原著作者であるゲーム会社の許諾が必要になってくる。この点も、プレイ動画の配信に関するガイドライン等で許諾されている範囲での利用(多くは一定の動画配信サイトでの配信)に限られることになる。
     
  8.  ウ アバターの権利
  9.    ゲームのプレイヤーは、例えばNintendo SwitchにおけるMiiのように、自らゲーム内で操作するアバターを作りだすことができる場合がある。このようなアバターが著作物であると認められれば、ゲームのプレイヤーが当該アバターに著作権を保有することになる。この点、かなりの自由度をもってアバターを作りだすことができる場合には、著作物性が認められる余地はあるであろう[3]。一方で、一定の種類の素材がゲーム側で用意されており、それを組み合わせることによりアバターを作りだす場合には、具体的な仕様によるものの、創作的な表現とまでは言い難く、著作物性が認められる余地は大きくはないと思われる(編集著作物(法12条1項)としての保護もありうるが、編集著作物たるには素材の選択又は配列に創作性が必要であるところ、ゲーム側で用意された素材を組み合わせて作る場合に、素材の選択又は配列に創作性があると考えられる場合は限定的ではないかと思われる。)。

 

2 eスポーツ選手が実演家として保護される可能性

 一方、ゲームのプレイヤーが著作隣接権を有する実演家と考えられる余地はあるだろうか。実演家とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」をいい(法2条1項4号)、実演とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」(法2条1項3号)をいう。起草者によると、実演の原則は、著作物を演ずることであるが、著作物を演じないものであっても、それ自体が著作物を演ずると同じような芸能的な性質を有するもの、例えば、記述・曲芸・腹話術というようなものも含まれることになる[4]

 実演家は、著作権者のように、実演家人格権(氏名表示権、同一性保持権)と、実演家財産権(録音権・録画権、放送権・有線放送権、送信可能化権、譲渡権及び貸与権)を有する。

したがって、仮にeスポーツ選手が実演家となる場合には、eスポーツ選手の実演であるゲーム内のキャラクターの操作に係る動画が無断で録音録画され、インターネット上で配信する行為に対して、差止請求及び損害賠償請求が可能になる。

 eスポーツ選手が実演家としての保護の可能性に係る検討においては、ゲームのプレイヤーによるゲーム内のキャラクターの操作がゲームという著作物を「演ずる」か、あるいはその他何か芸能的な性質を有するといえるか、が論点である。

 実演家に著作隣接権が認められる根拠は、著作物の創作活動に準じたある種の創作的な活動が行われる点に求められる[5]。脚本を俳優が演じたり、楽曲を歌手が歌唱したりすることが実演の典型例であり、このような場合には俳優や歌手のある種の個性が表れるのに対して、前述のとおりeスポーツにおけるゲームプレイは、あらかじめゲーム会社により設定された範囲内においてプレイヤーがキャラクターの動き等を選択しているに過ぎず、ゲーム内のキャラクターの操作にプレイヤーの何らかの個性が表れる余地は限定的ではないかと思われる[6]。たしかに、ゲームプレイにも観客を沸かせるスーパープレイは存在し、多くの者を魅了するものもある。しかし、これはマラドーナ選手の5人抜きのドリブル、ロジャー・フェデラー選手の美しいプレイ、八村塁選手のダンクシュート等の従来型スポーツのスーパープレイに近しいものであり、そのプレイヤーに実演家の権利が発生しないのと同様に、eスポーツプレイヤーのゲーム上でのキャラクターの操作は、ゲームという著作物を「演ずる」のでも「芸能的な性質を有するもの」でもなく、実演に該当しないと考えることが自然であるように思われる[7]

 もっとも、起草者がフィギュア・スケートや体操の床運動においては、競技会での演技は実演にはならないが、アイスショーやアクロバットショーの場合においては実演に該当する、と述べていることから[8]、eスポーツ大会でのゲームプレイは実演ではないが、プレイ動画配信の際のゲームプレイは実演になりうるという見解もある[9]。また、「『芸能的な性質』の有無については当該行為に着目した時にそれを行っている者に実演家の権利を及ぼす必要性・相当性があるか否かといった観点から弾力的に解釈するべき」との見解もあるところであり[10]、eスポーツ選手が実演家として保護されるべきかどうかは更なる今後の議論の集積が待たれるところである。

第5回につづく

 


[1] 最一判平成13・6・28民集55巻4号837頁(江差追分事件)

[2] eスポーツにおけるゲームタイトルとして念頭に置いているのは、本記事掲載時におけるいわゆるMOBA、FPS、スポーツゲーム、格闘ゲーム等であるが、これらにおいても個別具体のゲームタイトルによっては例外がありうることもあろう。

[3] Epic GamesのMetaHuman Creatorはクラウドベースのアプリケーションで、顔の特徴を直接操作し、肌の色を調整し、プリセットされた体形、ヘアスタイル、服装等から選択することで、思いどおりのキャラクターを作ることを可能にしている。もっとも、リアルな人間の顔にどの程度の著作物性を与えてよいかは検討の余地があると思われる。

[4] 加戸守行『著作権法逐条講義〔六訂新版〕』(著作権情報センター、2013)27頁

[5] 知財高判平成26・8・28判時2238号91頁(ファッションショー事件)

[6] 但し、ゲームの内容によっては、異なる取扱いもありうるであろう。

[7] 大江修子「実演家の権利と外延を考える」コピライト701号(2019)18頁

[8] 加戸・前掲注[4] 26頁

[9] 高木智宏=松本祐輝「著作権を含むeスポーツの法的課題の論点整理」パテント73巻9号(2020)33頁、39頁

[10] 小倉秀夫=金井重彦編著『著作権法コンメンタール〔改訂版〕Ⅰ』(第一法規、2020)68頁〔桑野雄一郎〕

 


(ながしま・まさかつ)

2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。

 

TMI総合法律事務所 http://www.tmi.gr.jp/

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