◇SH3515◇経産省、「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書案に対する意見募集を開始 鈴木実里(2021/03/05)

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経産省、「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2:
アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」

報告書案に対する意見募集を開始

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 実 里

 

1 はじめに

 本年2月19日、経済産業省は、「Society5.0」を実現していくために、多様なステークホルダーによる「アジャイル・ガバナンス」の実践が必要であることを示す「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書(案)[1](以下「本報告書案」という。)について、パブリックコメントを開始した[2]

 本稿では、本報告書案のうち、アジャイル・ガバナンスにおける企業の役割を中心に紹介する。

 

2 アジャイル・ガバナンスとは

 内閣府は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を「Society 5.0」と名付け、その実現を目標として掲げている[3]

 Society 5.0においては、大量のデータの収集・分析によりプライバシーや営業秘密に対するリスクをどう克服するか等、様々なガバナンス上の課題が生じ得る[4]

 そして、サイバー空間とフィジカル空間が融合するSociety5.0は、従来のフィジカル空間を中心とする社会と前提を大きく異にすることからすれば、ガバナンスのメカニズムを根本的に見直す必要があると考えられる。

 そこで、本報告書案は、企業、法規制、インフラ、市場、政治参加といった様々な場面において、ステークホルダー[5]が「環境・リスク分析」「ゴール設定」「システムデザイン」「運用」「評価」「改善」といったサイクルを、継続的かつ高速に回転させていく「アジャイル・ガバナンス」モデルを提言する[6]

 

引用元:本報告書案7頁

 

3 アジャイル・ガバナンスにおける企業

⑴ アジャイル・ガバナンスにおける企業の役割

 本報告書案では、Society5.0におけるサイバー・フィジカルシステム(CPS)[7]の実装・運用の主な主体となるのは企業であり、アジャイル・ガバナンスにおいて企業は以下の役割を担うとされている[8]

 

引用元:本報告書案55頁

 

 まず、「ゴール設定」については、企業が提供する製品等が、ユーザーをはじめとするステークホルダーに対して、どのような正のインパクトを与え、また、そこから生じるリスクをどの水準で管理するかというガバナンスのゴールを設定する上で重要な役割を担うことが期待されるとされ、こうしたゴール設定に適切に参加する企業こそが、市場や社会において高く評価されるようになる環境を整備することが重要であるとしている。

 そして、ガバナンスシステムの「評価」「改善」については、ガバナンスの設計、運用にかかわる情報を保有するのは、政府ではなく企業であることが多くなると考えられることから、企業は、ガバナンスシステムの提供者等として、その運用状況の実効性について意見を述べたり、蓄積した情報を提供したりすることが期待されるとしている。

⑵ 具体的制度改革案

 本報告書案では、具体的制度改革案として以下を挙げている[9]

  1.  ア ディスクロージャー制度等を通じたインセンティブ設計
  2.    企業にアジャイル・ガバナンスへの積極的な参加を促すとともに、企業の信頼を確保する一つの方法として、本報告書案は、ディスクロージャー制度や機関投資家等による企業の評価基準を一層整備することを挙げる。
  3.    ディスクロージャー制度等を充実させ、ガバナンスの各プロセスに貢献し、アカウンタビリティを適切に果たす企業が市場において正当に評価される仕組みを構築することにより、企業がガバナンスのプロセスに積極的に参加し、アカウンタビリティを果たすインセンティブが働くようにすることが考えられるとしている。
     
  4.  イ インセンティブを意識した企業制裁制度の整備
  5.    アジャイル・ガバナンスへの積極的参加等を促すために、売上げベースの制裁金等の企業にとって脅威となる企業制裁制度を整備することが考えられるとしている。また、インセンティブを適切に機能させるため、日本の諸制度との整合性等を十分に考慮しながら、事案ごとの柔軟な処理を可能とする取引的司法制度等といった手続を整備することも考えられるとしている。
     
  6.  ウ その他
  7.    上記のほか、本報告書案は、組織内のガバナンスシステム等に関するガイドラインの必要性や、リスクベースの考え方に基づく総合的な責任制度の設計も具体的制度改革案として挙げている。
     

4 おわりに

 昨年から世界中で新型コロナウイルス感染症が爆発的に流行したことにより、対面でのやり取りに代わって、行政手続や契約におけるオンライン化、在宅ワーク等、デジタル技術の活用が進んでいる。

 今後のオンライン化の推進に伴い、本報告書案が提言するようにガバナンスの方法も変わっていくことが予想され、企業として、Society5.0の実現に向けてどのように関与していくのか、どのような役割が求められているのかについて動向を注視していく必要がある。

以上



[4] 本報告書案3頁

[5] あるシステムから直接又は間接に影響を受けるものをいう。

[6] 本報告書案6頁

[7] 仮想世界(サイバー空間)と現実世界(フィジカル空間)をIoT関連技術で結び付け、産業の高度化や社会的課題の解決を図る仕組み。

[8] 本報告書案55頁以下

[9] 本報告書案60頁以下

 


(すずき・みさと)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2012年中央大学法学部卒業。2014年慶應義塾大学法科大学院修了。2016年1月判事補任官。東京地方裁判所勤務を経て、2019年4月「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

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