◇SH1611◇社外取締役になる前に読む話(7)――取締役会での実質的議論への参画⑶ 渡邊 肇(2018/01/31)

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社外取締役になる前に読む話(7)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

VII 取締役会での実質的議論への参画――情報共有(その1)

ワタナベさんの疑問その5

 経営会議へ出席したい旨、社長に進言したところ、経営企画室の担当取締役から、経営会議においては、社外取締役に開示できない情報も提供されるため、ご遠慮頂きたいと言われた。

 会社のスタンスは妥当なのだろうか。

 

解説

 これまで2回(第5回第6回)にわたり、経営会議等の名称の会議は、会社法上定められた会議ではなく、あくまでも会社が任意に設置し、開催している会議であること、社外取締役がその構成員となっていないとしても、それにもまた会社法上の根拠はないこと、従って、ワタナベさんが経営会議への出席を求めた場合、会社が当該要請を拒否できる法律上の根拠はないこと、などをご紹介した。

 では、ワタナベさんの経営会議出席要請を、経営会議においては社外取締役に開示できない情報が提供されることを根拠として(例えば会社が保有する機密情報の存在を根拠として)会社が拒否することはできるのだろうか。

 この設問に対しては、取締役会付議事項であるべき議案と、それ以外の議案で区別して考えることが適切であろう。

 まず取締役会付議事項についてであるが、会社は、取締役会付議事項については、社外取締役に開示できない情報があることを根拠として経営会議等への出席を拒否することはできないと考える。なぜなら、そもそも、これらの議案につき、社外取締役がアクセスできる情報と、業務執行担当取締役等のその他取締役がアクセスできる情報を区別すること自体、許されないと考えるべきだからである。理由は以下の二点である。

  1. 1. これまで解説したとおり、社外取締役は、会社利益から独立した客観的立場から、企業価値の向上に貢献することが求められている。そして、社外取締役の主たる職務は、取締役会における業務執行の決定に関与することであり、会社法は、この、取締役による業務執行決定権限につき、社外取締役とそれ以外の業務執行取締役等の取締役との間に何らの区別もしていない。従って会社が、取締役が業務執行決定権限を行使することについて、社外取締役とそれ以外の取締役との間に区別を設け、社外取締役に対してのみ、当該権限の行使を阻害することは許されないと解される。そして、取締役が業務執行決定権限を行使するにあたっては、判断に必要な情報が十分に与えられることが必要不可欠であることはいうまでもない。そうだとすると、社外取締役がその役割を十全に発揮するためには、少なくとも取締役会に上程される議案については、それに関連する総ての情報について、十分に開示を受ける必要があり、会社の側が、社外取締役に開示する情報の程度に、その他取締役との間に差違を設けることは許されないというべきである。
  2. 2. 今後詳細に解説するが、社外取締役の義務の一つに、業務執行取締役の職務の監視義務がある。社外取締役は、業務執行取締役がその業務執行にあたり違法行為に関与していないか、または取締役に与えられた裁量権を逸脱した行為をしていないかについて監視する義務を負っている。当該義務を履行する前提には、業務執行取締役の業務執行の詳細について、完全な情報の開示を受けることが必要不可欠であり、その点が担保されない限り、社外取締役はその監視義務を履行することができないことになってしまう。社外取締役が、その監視義務を十全に履行できる環境を整えることが会社の義務であり、会社が当該義務の履行を阻害することは許されないと考えられる。

 以上のとおり、まず取締役会付議事項について、社外取締役に対して開示できない情報があることを根拠に、会社が、社外取締役が経営会議等に出席することを拒否することは困難であると思われる。因みに、このことは、ワタナベさんが経営会議等での審議状況につき、取締役会への報告を求めた場合も同様である。会社は、かかる要請に対し、社外取締役に開示できない情報の存在を根拠に、経営会議等での審議状況を取締役会に報告することを拒否することはできないし、仮に取締役会において審議状況の報告を行ったとしても、その前提事実の一部について、取締役会で開示することを拒否することもまた、同様にできないと考えられる。

 次回は、取締役会付議事項ではない議案について検討してみたい。

 

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