中国:輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
3. 輸出許可制
まず、管理品目の輸出を取り扱う事業者は、関連法令に従い関連する管理品目の輸出経営資格が求められる場合には、当該経営資格を取得することが求められる(11条)。
そして、管理リスト及び臨時管理の対象となる管理品目を輸出する場合には、輸出事業者は、国家輸出管制管理部門に輸出許可を申請する必要がある。管理リスト及び臨時管理の対象とならない他の貨物、技術及びサービスについても、国家輸出管制管理部門の通知を受けた場合のほか、輸出事業者において以下のリスクが存在する可能性があることを知り又は知るべき場合には、輸出事業者は輸出許可を申請する必要がある(12条)。
① 国の安全と利益に危害を及ぼす
② 大量破壊兵器及びその運搬手段の設計、開発、生産又は使用に用いられる
③ テロリズムの目的に用いられる
また、輸出事業者による管理品目の輸出申請を国家輸出管制管理部門が審査し、許可するか否かを決定する際の考慮要素は、次のとおりとされる(13条)。
① 国の安全と利益
② 国際義務と対外誓約
③ 輸出の種類
④ 管理品目の機微程度
⑤ 輸出仕向国又は地域
⑥ エンドユーザーと最終用途
⑦ 輸出事業者の関連する信用記録
⑧ 法律、行政法規で規定するその他の要素
他方、輸出事業者が輸出管理の内部コンプライアンス制度を構築し、かつ運用状況が良好であれば、国家輸出管制管理部門はその関連する管理品目の輸出に対して包括許可等の便宜措置を与えることができる(14条)とされているが、その詳細は下位規定に委ねられている。構築すべきコンプライアンス体制については、国家輸出管制管理部門は適時に関連産業の輸出管理ガイドラインを公布し、輸出事業者が輸出管理の内部コンプライアンス制度を構築・整備し、経営を規範化することを指導する(5条4項)とされている。
許可を得ないで管理品目の輸出をした場合や輸出禁止の管理品目を輸出した場合は、違法行為を停止するよう命じた上、違法所得の没収と違法経営額に応じた罰金が併科されるが、情状が深刻な場合は、業務停止、輸出許可の取消し、関連する管理品目の輸出経営資格の取消し等の行政処罰に服する(34条)ほか、一定の場合においては刑事責任が追及され得ることを定めている(43条)。
4. エンドユーザーと最終用途の管理
(1) 輸出申請における証明と誓約
上記のように、輸出申請の審査においてはエンドユーザーと最終用途が審査される。輸出事業者は、管理品目のエンドユーザーと最終用途に関する証明文書を提出する必要があり、当該証明文書は、エンドユーザー又はエンドユーザー所在国又は地域の政府機構が発行するものとされている(15条)。また、エンドユーザーは、国家輸出管制管理部門の許可なしに、管理品目の最終用途を変更しないこと、いかなる第三者にも譲渡しないことを誓約する必要があり、輸出事業者及び輸入者がエンドユーザー又は最終用途が変更される可能性があることを発見した場合には、直ちに国家輸出管制管理部門に報告する必要がある(16条)。
(2) 当局による評価・調査
上記に加え、国家輸出管制管理部門は管理品目のエンドユーザーと最終用途のリスク管理制度を構築し、管理品目のエンドユーザーと最終用途に対して評価・調査を行い、エンドユーザーと最終用途の管理を強化する(17条)とされている。当該評価・調査に輸出先(つまり中国国外)での実地調査が含まれるかは、現時点において不明であり、懸念される。今後の下位規定及び運用において、どのような形でエンドユーザーと最終用途に対する評価・調査がなされることになるかが注目される。
(3) 規制先リスト
更に、国家輸出管制管理部門は、以下のいずれかの事由に該当する輸入者とエンドユーザーにつき、規制先リストを作成する(18条)こととされている。
① エンドユーザー又は最終用途の管理要求に違反したもの
② 国の安全と利益に危害を及ぼすおそれのあるもの
③ 管理品目をテロリズムの目的に用いたもの
当該規制先リストに加えられた輸入者とエンドユーザーに関し、国家輸出管制管理部門は管理品目に関わる取引を禁止・制限する、管理品目に関わる輸出を中止するよう命じる等の必要な措置をとることができ、この場合、国家輸出管制管理部門に対し特殊な状況を説明の上個別の許可を得た場合を除き、そのような輸入者とエンドユーザーとは取引できないことになる。規制先リストに掲載された輸入者やエンドユーザーと取引を行った場合は、警告を与え、違法行為を停止するよう命じた上、違法所得の没収と違法経営額に応じた罰金が併科されるが、情状が深刻な場合は、業務停止、関連する管理品目の輸出経営資格の取消し等の行政処罰に服する(37条)。
規制先リストに加えられた輸入者又はエンドユーザーは、措置をとることによって規制先リストに加えられた原因の事由がなくなった場合は、国家輸出管制管理部門に規制先リストからの削除を申請することができる。
なお、同じくブラックリスト的なものとして、2020年9月19日、商務部は、「信頼できないエンティティリスト規定」を公布し、即日実施した。信頼できないエンティティリストに掲載された場合、輸出管理上の措置に限らずより広範な対応措置に服することになる。詳細は次号にて述べる。
5. 国家輸出管制管理部門の調査その他の権限
国家輸出管制管理部門は輸出管理法の規定に違反する疑いのある行為に対して調査を行い、以下の措置をとることができ、広汎な調査権限が付与される(28条)。
- ① 調査対象者の営業場所又はその他の関連場所に立ち入り検査を行う
- ② 調査対象者、利害関係者及びその他の関連組織又は個人に質問し、調査対象事件に関わる事項について説明するよう求める
- ③ 調査対象者、利害関係者及びその他の関連組織又は個人の関連する証憑、協議書、会計帳簿、業務上の書簡・電報などの書類・資料を読み調べる、複製する
- ④ 輸出に用いる輸送手段を検査し、疑いのある輸出品目の積込を阻止する、不法に輸出された品目を返送するよう命じる
- ⑤ 事件に関わる品目を差押、押収する
- ⑥ 調査対象者の銀行口座を照会する
国家輸出管制管理部門は単独で又は関連部門と共同で監督検査と調査を行うとされ、関連組織と個人は協力する義務を負う(29条)。さらに、国家輸出管制管理部門は、勧告、警告状を発行することもできる(30条)が、事実上の強制力をもつ可能性もある。
(3)につづく
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(わかえ・ゆう)
長島・大野・常松法律事務所パートナー。2002年 東京大学法学部卒業、2009年 Harvard Law School卒業(LL.M.、Concentration in International Finance)。2009年から2010年まで、Masuda International(New York)(現 NO&Tニューヨーク・オフィス)に勤務し、2010年から2012年までは、当事務所提携先である中倫律師事務所(北京)に勤務。 現在はNO&T東京オフィスでM&A及び一般企業法務を中心とする中国業務全般を担当するほか、日本国内外のキャピタルマーケッツ及び証券化取引も取り扱う。上海オフィス首席代表を務める。
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