◇SH3604◇厚労省、公正な採用選考を進める上で参考となる様式を定めるため、履歴書の様式例を作成・公表 藤田浩貴(2021/04/30)

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厚労省、公正な採用選考を進める上で参考となる様式を定めるため、
履歴書の様式例を作成・公表

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 田 浩 貴

 

1 背景

 厚生労働省は、これまで公正な採用選考を確保する観点から、一般財団法人日本規格協会(以下「JIS」という。)が示していた履歴書の様式例(以下「JIS様式例」という。)の使用を推奨していた。

 しかし、JIS様式例においては、性別欄の記載があったところ、NPO法人を中心として性別欄の記載をなくすことを求める署名活動が行われたことなどを受け、JISは、JIS規格の解説の様式例からJIS様式例自体を削除することとした。

 厚生労働省は、JIS様式例が削除されたため、公正な採用選考を確保する観点から検討を行い、令和3年4月16日、事業主の採用選考において参考になるものとして新たな履歴書の様式例(以下「厚生労働省様式例」という。)を作成・公表した。

 

2 JIS様式例との相違点

 厚生労働省様式例とJIS様式例の相違点は以下のとおりである。

  1.   性別欄は〔男・女〕の選択ではなく任意記載とされた。なお、未記載とすることも可能とされている。

出展:第163回労働政策審議会安定分科会「資料4:履歴書の様式例の作成について」
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/000769679.pdf

 

  1.  「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の各欄は設けないこととされている。

出展:第163回労働政策審議会安定分科会「資料4:履歴書の様式例の作成について」
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/000769679.pdf

 

3 厚生労働省様式例の位置付け

 厚生労働省様式例については、あくまで履歴書の様式例を示すものであり、法的拘束力はないとされている。そのため、厚生労働省様式例を採用するか否かは、それぞれの企業の判断によることとなる。

 ただし、別の様式の応募用紙を使用する場合には、就職差別に繋がるような項目を含めないように留意が必要である。職務内容や職業能力と関連性がないにもかかわらず、思想・信条などの労働者のプライバシーにかかわる重大な事項を申告させた場合、不法行為(民法709条)として損害賠償責任が生じる可能性もある。

 

4 企業における性的マイノリティ[1]に関する取組み

 令和元年に実施された企業を対象としたアンケート調査[2]によれば、「社内において、性的マイノリティが働きやすい職場環境をつくるべきだと思うか」という問いに対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた企業は7割に達している一方で、「性的マイノリティへの配慮や対応を意図した取組を実施している」と答えた企業は約1割であり、その中で「採用時の応募書類における性別欄への配慮」を実施していると答えた企業は2割弱にとどまっている。このように、近年、性的マイノリティに関する社会的関心が高まっている一方で、その取組みはまだ十分であるとはいえない状況である。

 厚生労働省は、各企業において、性的マイノリティの当事者を含めて、多様な人材が活躍できる職場環境を整えるための取組の推進を図ることを目的として、「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」(以下「本件取組事例集」という。)を作成し、本件取組事例集の周知等を通じて、各企業での取組や性的指向・性自認についての理解の促進に努めていくとしている[3]

 

5 まとめ

 企業としては、多様な人材が活躍できる職場環境を整えるための取組を実施していこうと考えても、何から手を付けてよいのか迷うところであろう。上記のアンケート調査によれば、「性的マイノリティへの配慮や対応を意図した取組を実施している」と答えた企業であっても「採用時の応募書類における性別欄への配慮」を実施している企業は2割弱であったが、この度の厚生労働省様式例の公表を受け、当該配慮を実施する企業は増加するのではないかと推測されるので、企業としては、まずは当該配慮を実施することが考えられる。これに加え、本件取組事例集等を参考にしつつ、多様な人材が活躍できる職場環境を整えるための取組を積極的に実施していくことが望ましいといえるであろう。

以上



[1] 性的マイノリティとは、同性を好きになる人、自分の性に違和感を覚える人、または性同一性障害の人等のことをいう(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル及びトランスジェンダーの頭文字をとって「LGBT」ということもある。)。

[2] 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和元年度厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/000673032.pdf

 


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(ふじた・ひろき)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年大阪大学法学部卒業。2015年京都大学法科大学院修了。2016年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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〒100-6315 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング15階 電話 03-3214-6205(代表)

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