◇SH3644◇中国:知的財産権侵害の民事事件の審理における懲罰的損害賠償の適用に関する解釈(2) 川合正倫(2021/06/01)

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中国:知的財産権侵害の民事事件の審理における
懲罰的損害賠償の適用に関する解釈(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

(承前)
 

4. 懲罰的損害賠償金額の確定

(1)計算基数の確定

 本解釈5条1項によれば、原告の実際の損害金額、被告の違法所得金額又は権利侵害により取得した利益を懲罰的損害賠償金額の計算基数とし、当該計算基数には、法律に別途定めがある場合[1]を除き、原告が権利侵害行為を差し止めるために支払った支出は含まれない。原告の実際の損害金額、被告が権利侵害により取得した利益に関しては、著作権民事紛争事件、商標民事紛争事件、特許紛争事件及び不正競争民事事件の審理に関する各司法解釈に、それぞれ計算基準が設けられている一方で[2]、被告の違法所得金額については、司法解釈を含め明確な基準はないが、実務においては、権利侵害により取得した利益と同じものとして取り扱う事例が散見される。

 また、上記の実際の損害金額、被告の違法所得金額又は権利侵害により取得した利益の算定が困難な場合、人民法院は、当該権利使用の許諾料の倍数を参照して合理的に確定することができ、これを懲罰的損害賠償の計算基数とするとされている(5条2項)。なお、当該権利使用の許諾料については、以下の要素を総合的に考慮した比較可能な合理的な使用許諾料を下回らないとする実務がある[3]

  1. ① 使用許諾契約の履行の有無、インボイス、支払証憑等関連証拠の有無
  2. ② 使用許諾契約の届出の有無
  3. ③ 使用許諾の方法、範囲、期限等の要素は、訴えられた行為との間の比較可能性
  4. ④ 使用許諾料は、訴訟、買収、倒産、清算等特殊な外的要因の影響を受けていない、通常のビジネス使用料に該当するか
  5. ⑤ ライセンサーとライセンシーとの間の、投資又は関連会社等の利害関係の有無
  6.  

(2)懲罰的損害賠償の倍数の確定

 人民法院が懲罰的損害賠償の倍数を確定する際に、被告の主観過失程度、権利侵害行為の情状の軽重等の要素を踏まえ総合的に検討する(6条1項)。また、最高人民法院による初の知的財産権侵害懲罰的損害賠償事件では、以下の見解が示されている。

  1. ① 情状が重い:    2倍の適用可能性
  2. ② 情状が比較的重い: 3倍の適用可能性
  3. ③ 情状が特に重い:  4倍の適用可能性
  4. ④ 情状が極めて重い: 5倍の適用可能性(例えば、直接故意、完全に権利侵害を業とする、権利侵害の規模が大きい、持続期間が長い、権利者の損失又は権利侵害者が取得した利益が巨大、立証妨害等の要素を備える場合)

 なお、同一の権利侵害行為が、行政処罰の過料又は刑事罰の罰金の対象となりその執行が完了し、被告が、懲罰的損害賠償責任の減免を主張する場合、人民法院は、これを認めない。ただし、懲罰的損害賠償の倍数を確定する際に、これらの事情を考慮するとされている(6条2項)。

 

5. 懲罰的損害賠償の請求期限

 本解釈2条によれば、まず、原告が懲罰的損害賠償を請求する場合には、訴訟提起時に、賠償金額、計算方法及びその根拠となる事実及び理由を明らかにする必要がある。また、懲罰的損害賠償の請求期限に関しては、一審法廷答弁終結までは、懲罰的損害賠償請求を追加可能であるが、二審において懲罰的損害賠償請求を追加することはできない。

 

6. まとめ

 知的財産権分野における懲罰的損害賠償は、これまで、主に商標権侵害及び不正競争事案に適用されたが、本年6月1日以降は、改正著作権法及び改正特許法の施行に伴い、懲罰的損害賠償の適用が一層拡大されると予想される。本解釈は、知的財産権分野における懲罰的損害賠償に関する重要な基準を統一的に定めたものであるが、実務においては、各地方の高級人民法院が、管轄下にある人民法院による知的財産権侵害事件の審理に関し、更に細かいガイドラインや指導意見等を定める例もある。このため、知的財産権に関する契約において懲罰的損害賠償に関する規定を設ける場合や、知的財産権が侵害され懲罰的損害賠償の請求をしようとする場合に、本解釈を含め、各地の人民法院によるガイドラインや指導意見及び実務の類似事件の審理結果を踏まえ検討し、確認することが望まれる。

 


[1] 著作権法、商標法、特許法及び不正競争防止法には、いずれも、合理的な支出を損害賠償額に含める旨の規定はあるが、懲罰的損害賠償金額の計算基数とする規定はないが、ここの別途定めとしては、種子法における植物新品種に関する権利を侵害する際の懲罰的損害賠償の規定が考えられる。

[2] 著作権民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(法釈〔2020〕19号)24条、商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(法釈〔2020〕19号)14条、15条、特許紛争事件の審理における法律適用問題に関する若干の規定(法釈〔2020〕19号)14条、不正競争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(法釈〔2020〕19号)17条等

[3] 北京高級法院の指導意見1.9

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

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