中国:ネットワーク安全審査弁法の修正草案の公表(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鈴 木 章 史
2. ネットワーク安全審査の手続に関する改正
⑴ 審査に際し考慮される要素の追加
本草案では、ネットワーク安全審査の過程で、国家安全上のリスクの判断において考慮される要素について、以下のように改正された。(下線部分が本草案で加えられた文言を指し、取消線部分が本草案で削除された文言を指す。以下同様。)
-
• 製品及びサービスの使用により重要情報インフラが違法にコントロール、妨害又は破壊されるリスク
、重要データが盗取、漏洩又毀損されるリスク(本草案10条1号) - • 製品及びサービスの供給中断が重要情報インフラの業務連続性に与える危害(本草案10条2号)
- • 製品及びサービスの安全性、開放性、透明性、出所の多様性、供給ルートの信頼性、政治、外交及び貿易等の要素により供給が中断されるリスク(本草案10条3号)
- • 製品及びサービス提供者による中国の法律、行政法規、部門規章の遵守状況(本草案10条4号)
- • 核心データ、重要データ又は大量の個人情報の盗難、漏洩、棄損及び不正使用又は域外移転のリスク(本草案10条5号)
- • 国外で上場された後に重要情報インフラ、核心データ、重要データ又は大量の個人情報が、外国政府によって影響を受け、管理され又は悪意により使用されるリスク(本草案10条6号)
- • 重要情報インフラの安全や国家データの安全を脅かす可能性のあるその他の要因(本草案10条7号)
これらの改正はいずれも、データの取扱い行為及び海外の証券市場での上場が、ネットワーク安全審査の適用対象に加えられたことに起因するものであり、特に域外へのデータ移転を意識しているものと考えられる。なお、データ安全法21条3項で、各地域及び各部門が、重要データの具体的な目録を決定するとされており、特定のデータが重要データに該当するか否かについては、かかる目録を確認することが必要となる。また、本規定における核心データの内容や、データ安全法21条2項に定める国家核心データとの関係については本草案では明らかにされていない。
⑵ 特別審査における審査期間の延長
ネットワーク安全審査の審査手続に関し、特別審査の審査期限が、45営業日から3か月に延長された(本草案14条)。
審査手続の流れは以下のとおりである。①安全審査弁公室は、審査申告資料を受け取った時点から10営業日以内に審査が必要かどうかを判断し、申告者に書面で通知する。②審査が必要と判断された場合は、書面による通知日から30営業日以内に初期的な審査を実施する(15営業日延長することも可能。)。③安全審査弁公室は、安全体制業務メンバー及び関連重要インフラ保護部門に審査結果案を送付し、安全体制業務メンバー及び関連重要インフラ保護部門は審査結果案を受領してから15営業日以内に意見を回答する。④審査結果案に対する意見が一致しない場合、さらに特別審査を行い、その審査期限が3か月とされた。
かかる改正により、特別審査が必要とされた場合の審査期限が、現行法より3週間程度伸びることとなり、現行法と比べて審査がより長期化する可能性が生じることとなった。
⑶ 提出書類
ネットワーク安全審査の申告にあたり提出する書類について、提出予定のIPO資料が加えられた(本草案8条3号)。海外の証券市場での上場が、安全審査の適用対象に加えられたことに起因するものである。
- • 申告書(8条1号)
- • 影響する又は影響しうる国家安全に関する分析報告書(8条2号)
- • 調達文書、協議書、締結予定の契約書又は提出予定のIPO資料等(8条3号)
- • ネットワーク安全審査業務に際し必要となるその他の書類(8条4号)
3. ネットワーク製品及びサービスの追加
本草案では、安全審査の対象となるネットワーク製品及びサービス(本草案5条及び15条、上記1.の表を参照)に、重要な通信製品が加えられた。通信製品も対象となることで、現行法に比べ規制範囲が広げられることとなった。
- • 本草案にいう、ネットワーク製品及びサービスとは、主にコアネットワーク設備、重要な通信製品、高性能コンピューター及びサーバー、大容量メモリー設備、大型データベース、アプリケーションソフトウェア、ネットワーク安全設備、クラウドコンピューティングサービス、その他重要情報インフラの安全に重大な影響のあるネットワーク製品及びサービスを指す(21条2項)。
4. まとめ
本草案は意見募集稿であり、今後修正される可能性があるが、本年9月1日から施行されるデータ安全法と関連する改正でもある。本草案によりネットワーク安全審査の対象が大幅に広げられたが、米国に上場するオンライン業者を対象とする取締り強化の情勢も踏まえ、今後の動向を引き続き注視する必要がある。
以上
この他のアジア法務情報はこちらから
(すずき・あきふみ)
2005年中央大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院修了。2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年都内法律事務所入所。2015年北京大学法学院民商法学専攻修士課程修了。同年長島・大野・常松法律事務所入所。2021年5月より中倫律師事務所上海オフィスに出向中。主に、日系企業の対中投資、中国における企業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、中国企業の対日投資案件、その他一般企業法務を扱っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。