ベトナム:【Q&A】2020年の地域別最低賃金
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
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Q: ベトナムでは毎年1月1日から最低賃金が改訂されると聞いていますが、2020年の最低賃金はどうなるでしょうか?また、その最低賃金を適用する際に留意すべき点はあるでしょうか?
- A: ベトナム政府は、2008年以降、毎年年末近くに翌年から適用される地域別最低賃金を定める政令を公布しています。今年も、政令90/2019/ND-CP号(以下「政令90号」といいます。)が2019年11月15日付で公布され、2020年1月1日に施行されます。その重要な内容及び留意点は、以下の通りです。
1 地域別最低賃金の金額
政令90号第3条に規定されている2020年1月1日以降の地域別最低賃金は、以下の通りです。
第1地域 | 第2地域 | 第3地域 | 第4地域 | |
月額(VND) | 4,420 ,000 | 3,920 ,000 | 3,430 ,000 | 3,070 ,000 |
2019年比上昇率(VNDベース) | 5.74% | 5.66% | 5.54% | 5.14% |
2019年比上昇率(USDベース)[1] | 4.32% | 4.24% | 4.12% | 3.73% |
これらの金額は、いずれも国家賃金評議会が政府に提出した案の金額と同じです。地域の上昇率の平均は5.52%で、2018年の同5.27%より増加しています。
また、上記の第1地域~第4地域は、都市化のレベルに応じて設定されています。2019年の最低賃金を定める政令と比較すると、政令90号では以下の地区について区分けの変更がされています。
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- 第2地域に追加された地域
- ・ Binh Phuoc 省Dong Phu県
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・ Ben Tre省Chau Thanh県及びBen Tre市
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- 第3地域に追加された地域
- ・ Nghe An省Nghi Loc県、Hung Nguyen県及びCua Lo町
- ・ Thanh Hoa省Dong Son県及びQuang Xuong県
- ・ Ben Tre省Ba Tri県、Binh Dai県及びMo Cay Nam県
2 地域別最低賃金の適用上の留意点
以下の留意点については現行の規定と変わっていませんが、再度ご確認ください。
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ⅰ. 最低賃金とは:労働法第90条は、「賃金(tien luong)」の定義として、業務や職務に基づく「給与(muc luong)」、手当及びその他の補助を含むとした上で、労働者の「給与(muc luong)」が、政府の定めた最低賃金を下回ってはならないとしています。したがって、給与に手当等を加えた金額が最低賃金以上であれば良いわけではなく、手当等を除いた給与のみで最低賃金以上でなければなりません。
なお、政令90号第5条3項は、雇用者は、同政令に基づく最低賃金を適用する際に、残業代や深夜勤務手当など労働法令に従って支払う必要のある手当等の金額を削減してはならないと定めています。給与額を上げる代わりに手当等を減らすことは、労働争議の原因となるばかりか、違法とされる可能性もありますので、ご留意ください。 -
ⅱ. 7%ルール:政令90号で定められた最低賃金は、通常の勤務条件で業務を行う、常勤の、最も単純な業務を行う労働者に対して適用される金額です(同政令第5条第1項a号)。それ以外の、「職業訓練コースに合格した労働者」のレベルが要求される業務を行う労働者には、上記の最低賃金の7%以上の賃金を支払わなければならないことになっています(同項b号)。このルールは7%ルールと呼ばれ、これを根拠に試用期間を終えた労働者に対しては一律最低賃金に7%を加えた給与を支払わなければならないと指導する当局の担当者も多いようです。
しかし、「職業訓練コースに合格した労働者」の内容は、同条第2項に列挙されています。そこでは、①教育法に基づく職業ライセンス、専門学校、高校、大学卒業資格等を取得した労働者、②職業訓練法に基づく通常の職業訓練プログラム等を終了した労働者、③企業による職業訓練を受けた後、企業が認定し、かつ当該職業訓練を経たことが必要とされる職務を行う労働者などが含まれるとされています。したがって、必ずしも試用期間を終えた労働者すべてに対して、7%ルールを適用する必要があるというわけではありません。しかし、一定の資格や訓練を経たことをある業務を行わせる上での条件とするのであれば、その業務を行う労働者に対しては、7%ルールを適用すべきことになります。
[1] ベトナム国家銀行が公表している2019年1月2日付のUSD/VNDレート(1USD=22,825VND)で2019年の地域別最低賃金をUSDに換算し、同じく2019年11月19日付のUSD/VNDレート(1USD=23,135USD)でUSDに換算した2020年の地域別最低賃金と比較したもの