SH3738 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第23回 第4章・Variation及びAdjustment(6)――代金額の変更その2 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/09/02)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第23回 第4章・Variation及びAdjustment(6)――代金額の変更その2

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第23回 第4章・Variation及びAdjustment(6)――代金額の変更その2

4 法令等の変更に伴う代金額の変更

⑴ リスク分担ルール

 Variation以外にも、FIDICでは、代金額が変更する場合を定めている。その一つが、法令等の変更である。以下のいずれかが変更し、その結果工事等のコストに増減が生じたときは、代金額が変更される(13.6項)。

  1. ▶ 工事等が行われる国の法令(新法令の導入、既存法令の廃止または変更を含む)
  2. ▶ 司法または行政による上記法令の解釈または実施
  3. ▶ EmployerまたはContractorが取得した許認可
  4. ▶ Contractorが取得する予定の許認可の要件

 すなわち、上記の法令等の変動によるコスト増加のリスクは、Employerが負担するということであり、逆にこれによるコスト減少が生じた場合には、そのメリットはEmployerが享受するという定めである。

 

⑵ 変更ルール(手続)

 上記の法令等の変更によって、コストが増加する場合には、Contractorが、Claimの通知(Notice of Claim)として、代金の増額をEngineerに請求する(20.2.1項)。

 一方、コストが減少する場合には、EmployerがClaimの通知として、代金の減額をEngineerに請求する(20.2.1項)。

 いずれについても、その後の手続の大きな流れは、以下のとおりである(詳細については、紛争の予防および解決の章で解説する)。これらの手続を通じて、具体的な金額が定まる。

  1. (ⅰ)Engineerによる和解協議のあっせん
  2. (ⅱ)Engineerによる暫定的な判断
  3. (ⅲ)DAAB(Dispute Avoidance/Adjudication Board)による和解協議あっせん
  4. (ⅳ)DAABによる判断
  5. (ⅴ)(DAABによる判断に異議が唱えられた場合)仲裁廷による判断

 なお、上記の段階が(ⅰ)から(ⅴ)へと進むにつれ、紛争解決の側面が強くなり、変更ルールでありながら、紛争解決ルールの側面が強くなっていく。

 また、上記の法令等の変更に伴い、工事等の内容も変更する必要がある場合には、基本的に、ContractorまたはEngineerのうち先にその必要を認識した方が、相手方に通知(Notice)を送付し、Engineer主導で、Variationの手続を進めることになる(第18回の2 ⑵ 項参照)。

 法令等の変更に関する上記の各定めは、Yellow BookおよびSilver Bookにおいても、特に異ならない。Silver Bookにおいて、Engineerが、Employerにとって代わられる程度である。

 

5 人件費、資材価格等のコスト変動に伴う代金額の変更

⑴ リスク分担ルール

 人件費、資材価格等のコスト変動によっても、代金額が変更し得る。

 この変更は、契約において、人件費、資材価格等のコストにつき、基準ないしインデックス(cost indexation)が定められていることが前提となる。これが定められている場合には、これらのコストの上昇または下落に応じて、代金額が増減する(13.7項)。

 すなわち、この場合には、上記のコスト増加のリスクは、Employerが負担するということであり、逆にこれによるコスト減少が生じた場合には、そのメリットはEmployerが享受するという定めである。

 この基準ないしインデックスとしては、物価に関する統計ないし指数が用いられることが一般的である。具体的にどの統計ないし指数が用いられるかは、通常、入札時に決められる。

 また、コスト変動を具体的にどのように代金額に反映するかについては、FIDICに添付の「Guidance for the Preparation of Particular Conditions」の13.7項の箇所に、計算式の例が掲載されている。この計算式によると、比較の対象となるのは、入札日の28日前の日(Base Date)のインデックスと、出来高査定の対象期間最終日の49日前のインデックスである。これを、人件費、機材費、資材価格等の項目毎に比較し、それぞれの変動率を反映した代金額を合計して、全体の変更後の代金額とするというのが、この計算式の基本的な構造である(ただし、変動率を適用しない項目も考えられ、かかる項目については、当初の金額をそのまま適用する)。

 以上の計算式を適用するには、出来高査定の対象期間最終日の49日前のインデックスを入手する必要があり、相応に時間を要し得る。他方において、これを理由に、代金支払時期が遅延することは、Contractorとしては許容しがたいところである。そこで、FIDICは、当該査定に必要なインデックスの入手に時間がかかる場合には、Engineerにおいて、暫定的なインデックスに基づき代金額を支払い、最終的なインデックスが固まった後で調整することを定めている(13.7項)。

 なお、このコスト変動は、時間の経過によるものであり、いつをインデックスの適用日とするかによって、代金額が変わり得る。大規模な工事は長期間に及ぶことが通常であり、その間に人件費や物価が変動し得るところ、この適用日をいつとするかが、Contractorの履行遅滞の場合に問題となり得る。この点FIDICは、Contractorの履行遅滞の場面である以上、Employerに有利な定めを置いており、具体的には、①本来の竣工時において適用されるインデックス(本来の竣工時の49日前)と、②実際に工事を履行した時期において適用されるインデックス(対象期間の最終日の49日前のインデックス)のうち、よりEmployerに有利な方によるべきと定めている(13.7項)。

 以上は、人件費、資材価格等のコストにつき、基準ないしインデックス(cost indexation)が定められ、上記コスト増加のリスクをEmployerが負担する場合であるが、その場合であっても、全てのリスクをEmployerが負担するとは限らない。増加のうち一部のみをEmployerが負担し、残部はContractorが負担する(残部については代金額の増加が認められない)という取り決めもあり得る。

 さらには、上記コスト増加のリスクを、Contractorが全面的に負担するという取り決めもあり得る。契約自由の原則のもと、いかなるリスク負担の取り決めも、基本的には契約当事者の決め方次第である。ただし、この場合には、Contractorは当該リスク負担を入札価格に反映させる結果、入札価格が高くなり易くはなる。

 

⑵ 変更ルール(手続)

 人件費、資材価格等のコスト変動による代金額の変更については、手続につき、FIDICは特段の定めをしていない。

 ただし、争いが生じれば、Claimの対象となり、前記4 ⑵ 記載の流れで、処理されることとなる。

 人件費、資材価格等のコスト変動に関する上記の各定めは、Yellow BookおよびSilver Bookにおいても、特に異ならない。Silver Bookにおいて、Engineerが、Employerにとって代わられる程度である。

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