SH3925 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第46回 第10章・ジョイントベンチャー(JV)(1) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/03/03)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第46回 第10章・ジョイントベンチャー(JV)(1)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第46回 第10章・ジョイントベンチャー(JV)(1)

1 はじめに

 Contractorが、複数の企業によるジョイントベンチャー(JV)として構成されることは、国内外を問わず、よく見られることである。JVを組成する理由としては、技術力の補完、資金提供力の補完、リスクの分散等が、一般的に考えられるところである。すなわち、一社のみでは、工事に必要な技術力が全てカバーできない場合、十分な資金が提供できない場合、リスクが大きすぎる場合等において、これを複数の企業で補完ないし分担し合うことによって、対応するということである。

 また、一社のみで十分対応可能な場合であっても、Employerの意向によって、JVが組成されることがある。具体的には、Employerが公的機関である場合に、地元の建設会社の経験値、技術力等を高めるために、これと大手建設会社とのJV組成を求めることがある。これは国内および途上国のインフラストラクチャー・プロジェクトでも見られる。

 ただし、JVは、法律関係を複雑にする要因である。一般論として、多数当事者間の契約関係ないし法律関係は複雑である。しかも、大規模な建設・インフラ工事の法律関係は、もともと複雑であり、JVが組成されることによって、これがより一層複雑となる。

 そこで、この複雑さにいかに対処するかが重要になるところ、第2回で述べたとおり、幹となる権利義務に着目することが有益である。以下、JVの形態について若干の確認をし、次回において、EmployerおよびContractorそれぞれの視点で、幹となる権利義務およびその他の重要事項について、留意するべき視点を解説する。

 

2 JVの形態に関する視点

⑴ 構成員から独立した法人

 JVの形態は、組成される国の法律(準拠法)によって様々なバリエーションが考えられるものの、大きな視点としては、JVが、構成員から独立した一つの法人となるか、否かという点が重要となる。この違いは、Employerとの工事契約の当事者の違いに表れる。JVが構成員から独立した一つの法人である場合には、この法人が工事契約の当事者となり、構成員である個々の企業は、工事契約の当事者とはならない。これに対し、JVが独立した法人として組成されない場合には、構成員である複数の企業が、工事契約の当事者となる。

 実質的な違いとして重要なことは、JV構成員の責任の範囲である。例えば、JVが構成員から独立した株式会社として組成され、JVの構成員が株主となる場合、株主はその出資額の範囲でしか責任を負わないというのが原則になる。JVの構成員は、工事契約の当事者ではないため、その責任を直接負うことはない。

 これに対して、JVの構成員が工事契約の当事者となる場合には、当事者として直接責任を負うことになり、出資額の範囲という責任限定はない。

 もっとも、この相違は、別途の手当により修正され得るものであり、絶対的に貫かれるものではない。JVが構成員から独立した株式会社として組成されたとしても、その構成員が保証人として、JVの義務を保証することは一般的に行われており、この場合JVの構成員がEmployerに対して直接義務を負うことになる。

 他方、JVの構成員が工事契約の当事者となる場合にも、損害賠償額の上限を設けるなど、責任範囲を限定することも可能である。

 ただし、独立した法人を組成するか否かによって、法律関係は大きく変わり得るのであり、重要な視点である。相違は、JV構成員の責任範囲以外にも、例えば、税金、決算情報等の開示義務の範囲、許認可の取得しやすさ等において生じ得る。これらの相違を総合的に比較し、案件毎に適切な形態を選択することになる。

 

⑵ 組合・パートナーシップ(partnership)

 これは、JVの構成員から独立した法人を組成しない場合を対象とする視点である。この場合、複数の構成員がEmployerとの工事契約の当事者となるところ、当該構成員の関係が組合、パートナーシップといった特定の関係か否かが法律上重要な意味を持ち得る。

 これも、JV構成員の責任範囲に関係する。すなわち、適用される法律(準拠法)次第ではあるものの、一般に組合ないしパートナーシップとされると、JV構成員の全員が、工事契約のContractorの義務全体について責任を負うことになり、いわば無限責任を負うことが原則となる。組合ないしパートナーシップという用語は、法律的な意味合いを余り考えずに用いられることがあるが、重要な効果を伴い得る概念であるため、留意して用いられるべきものである。

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