◇SH3810◇消費者庁、公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説 蛯原俊輔(2021/10/29)

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消費者庁、公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説

岩田合同法律事務所

弁護士 蛯 原 俊 輔

 

1 はじめに

 消費者庁は、令和3年10月13日、「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「『指針の解説』」という。)を公表した。本稿では、「指針の解説」の位置づけについて説明をした上で、「指針の解説」の内容をいくつか紹介する。

 

2 「指針の解説」の位置づけ

 令和2年6月に成立した公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)による改正後の公益通報者保護法(以下「改正法」という。)では、事業者において、①公益通報対応業務従事者[1](以下「従事者」という。)を定めること(改正法11条1項)、及び②事業者内部における公益通報(以下「内部公益通報」という。)に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置(以下「内部公益通報対応体制の整備等」という。)をとること(同条2項)が義務付けられた[2]/[3]。消費者庁は、改正法の成立を受けて、令和3年8月20日、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号。以下「本指針」という。)」を公表した[4]

 もっとも、本指針は、事業者がとるべき措置の「大要」を示すものとされ、事業者がとるべき措置の具体的内容を定めるものではない。これは、「事業者がとるべき措置」は、事業者の規模、組織形態、業態、法令違反行為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、労働者等及び役員や退職者の内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等によって異なり得るため、事業者がとるべき措置の具体的内容を画一的に定め、一律な対応を求めることは適切ではないことによる。

 「指針の解説」は、本指針の公表を受け、事業者が本指針に沿った具体的な対応や取組の検討をする際の参考となるように、(ⅰ)本指針を遵守するために参考となる考え方や本指針が求める措置に関する具体的な取組例や、(ⅱ)本指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例を示すことを目的に策定されたものである。

 

3 「指針の解説」の内容

 「指針の解説」は、上記のとおり、事業者が本指針に沿った具体的な対応や取組の検討をする際の参考となるように策定されたものであり、その内容は、以下の構成でまとめられている。

 紙幅の関係上、「指針の解説」の全てを紹介することはできないが、以下では、各事業者において、特に参考となると思われる内部公益通報対応体制の整備等の点につき、主要なものについて紹介する。

 

⑴ 内部公益通報受付窓口の設置等について

 本指針では、事業者は、内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定めなければならないとされている。これは、事業者において、通報対象事実に関する情報の早期かつ円滑な把握を図るとともに、責任の所在を明確にし、公益通報対応業務が実効的に行われるようにするとの趣旨で定められたものである。

 この点について、「指針の解説」は、『指針を遵守するための考え方や具体例』として、組織の実態に応じて、内部公益通報受付窓口が他の通報窓口(ハラスメント通報・相談窓口等)を兼ねることや、内部公益通報受付窓口を設置した上、これとは別に不正競争防止法違反等の特定の通報対象事実に係る公益通報のみを受け付ける窓口を設置することが可能であることを挙げる。

 また、「指針の解説」は、『その他の推奨される考え方や具体例』として、人事部門に内部公益通報受付窓口を設置することが妨げられるものではないが、人事部門に内部公益通報をすることを躊躇する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意することを挙げる。

 事業者においては、事業者の規模等を踏まえつつ、通報対象事実に関する情報の早期かつ円滑な把握といった前述の趣旨を損なわないよう、「指針の解説」を参照しつつ、実情に応じて、実効的な対応を行い得る内部通報受付窓口を設置することが求められる。

⑵ 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

 本指針では、事業者は、内部公益通報に係る事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとらなければならないとされている。これは、内部公益通報について、中立性・公正性に欠く対応がなされないようにするとの趣旨で定められたものである。

 この点に関し、「指針の解説」は、『指針を遵守するための考え方や具体例』として、上記の「関与させない措置」の方法について、「事案に関係する者」を調査や是正に必要な措置の担当から外すことが考えられるとする。また、『その他に推奨される考え方や具体例』として、想定すべき「事案に関係する者」の範囲については、内部規定において具体的な例示をしておくことが望ましいと指摘している。

 事業者においては、これらの点も参照し、内部通報に関する内部規定の整備を行う等、内部公益通報について中立性・公正性を欠く対応がなされないための措置をとることが重要である。

 

4 終わりに

 「指針の解説」は、上記で紹介したもののほかにも、改正法及び本指針に基づいて事業者がとるべき措置の内容について、参考となる考え方や具体例が示されているため、各事業者において、改正法施行までに、内部公益通報対応体制を整備・運用するにあたり、必読の資料となるであろう。

以 上



[1] 事業者内部における公益通報を受け、当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査を行い、その是正に必要な措置をとる業務に従事する者をいう(改正法11条1項)。

[2] 改正法の施行日は未定であるが、令和4年6月までに施行されることとされている。

[3] 常時使用する労働者の数が300人を超える事業者については義務であるが、300人以下の事業者については努力義務とされている(改正法11条3項)。


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(えびはら・しゅんすけ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2014年3月早稲田大学法学部卒業、2015年11月東京大学法科大学院中退。2016年12月検事任官。大阪地方検察庁、福岡地方検察庁小倉支部勤務を経て、2019年3月検事退官。同年4月弁護士登録、岩田合同法律事務所入所。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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