◇SH0302◇銀行員30年、弁護士20年 第23回「訴訟代理人としての弁護士」 浜中善彦(2015/04/28)

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銀行員30年、弁護士20年

第23回 訴訟代理人としての弁護士
 
弁護士 浜 中 善 彦
 
 

 件数はそれほど多くはないが、弁護士として、常時数件の調停または訴訟事件を担当している。法人の事件は顧問先の仕事がほとんどである。個人の事件は、みずほの相談案件がメインであり、時々、銀行のOBから直接依頼を受けることもある。
 事件を受任するときは、若い弁護士(といっても、年齢からいって当たり前であるが)と2人で受けることを原則にしている。顧問先の仕事はほとんど全部1人で処理しているが、そのほかに個別事件も1人でやるというのは負担が大きすぎるので多少横着をしたいという気持がある。もう一つの理由は、多少とも若い人たちに経済的な面で役に立てばという気持もある。したがって、報酬については、自分の方が多くとるということはしない。
 

 法人の事件と個人の事件と比べると、精神的な負担は個人事件の方が重いというのが実感である。法人の事件は、たとえば貸金返還請求訴訟についていえば、金額の多寡に関係なく、契約書がきちんとあるかどうか等、純粋に法律問題として扱えば足りる。ただ、その場合も、訴訟の勝ち負けだけではなく、役員や親会社等に影響が及ばないような配慮が必要なことは当然であるが、少なくとも、あまり感情的な問題を考慮する必要はない。
 しかし、個人の場合は、離婚にしろ相続にしろ、感情が絡むから、法律問題としてよりも、感情的な問題の方が難しい場合が少なくない。これは、法律という規範だけでは解決できない問題なので、ケースごとに対応せざるを得ない。その点が、法人の場合とは違った難しさである。
 

 訴訟の場合も、依頼人の言う通りにすればいいというものではない。とりわけ個人事件の場合は感情が絡むから、譲るべきは譲って合理的解決を図る必要がある場合が少なくない。そういう場合、依頼人を説得することも代理人の重要な仕事である。
 依頼人を説得する場合、論理的な説明をすれば納得するかといえば、そうはいえない。法的論理で説得しようとしても、それで納得という場合はむしろ少ない。準備書面で説得する相手は相手方当事者ではなく裁判所であるから、これは法的論理性が求められる。しかし、依頼人を説得するのに、同じ論法は通用しない。とりわけ和解の場合は、解決のためには双方当事者がそれぞれ譲歩をする必要があるから、代理人弁護士の果たす役割は大きい。その場合大事なことは、法的にこうなっているとか、論理的な説明だけで依頼人を説得しようとしないことである。
 納得させるということは、相手を論駁することではないし、ましてや事なかれ主義の解決をするということでもない。あくまでも、合理的解決であって、依頼人本人が納得できる解決でなければならない。そのためには、依頼人の言うことをよく聞くということに尽きる。依頼人は、自らの考え方の正当性を理解してほしいのである。たとえ、それが法的には多少問題があろうとも、代理人弁護士が良き理解者であると信じてこそ、初めて信頼関係ができるのである。よく聞くということは、言いなりになるということではない。賛成できる点についてはその通りだと言えばいい。しかし、そうでない場合も、頭ごなしにそれは間違っているというのではなく、こういう考え方もありますがどうですかといって、一緒に考える。そういう過程を経て、依頼人自らに解決案を出させるというのが説得であろうと思う。
 
以上
 
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