関西スーパー臨時株主総会承認のH2Oとの経営統合議案を巡り
TOB実施提案のオーケーが差止めを求める仮処分申請
――株式交換契約承認議案の賛成は66.68%、総会検査役の報告に基づき集計疑義を指摘――
関西スーパーマーケット(本店・兵庫県伊丹市、東証第一部上場。以下「関西スーパー」という)は10月29日、エイチ・ツー・オー リテイリング(本店・大阪市北区、東証第一部上場。以下「H2Oリテイリング」という)の完全子会社でいずれもスーパーマーケットを運営するイズミヤ(本社事務所・大阪市淀川区、大阪市西成区)・阪急オアシス(本社事務所・大阪市淀川区、大阪府豊中市)との株式交換契約の承認などを決議事項として同日開催した臨時株主総会において、上程した5つの議案すべてが原案どおり承認可決されたと発表した。関西スーパーとH2Oリテイリング・グループの経営統合を企図するもの。ただし、本経営統合に対抗するかたちで関西スーパー株式の公開買付けを実施する提案を行っていたオーケー(本社・横浜市西区)は11月8日、「本来「否決」とされるべきであったにもかかわらず、それが覆され、関西スーパー様のご判断により「可決」として処理されたという疑義があることが総会検査役の報告により判明」したと発表。翌11月9日には関西スーパーが集計経過を説明するとともに適法性に何らの疑義もないとする見解を表明したが、同日、オーケーは株式交換の差止めを求める仮処分を神戸地方裁判所に申し立てるに至っている。
本経営統合は関西スーパーとH2Oリテイリングが8月31日、両社それぞれの取締役会において決議、同日公表していた。株式交換は関西スーパーを株式交換完全親会社、イズミヤおよび阪急オアシスを株式交換完全子会社として行う。本株式交換の効力発生などを条件として(効力発生日は12月1日予定。イズミヤ・阪急オアシスはその前日までにH2Oリテイリングを割当先としてそれぞれ12,261,720,000円・4,122,425,608円の増資、それぞれ普通株式1株を新規に発行)、関西スーパーを吸収分割会社、分割準備会社(関西スーパー100%出資により9月22日設立)を吸収分割承継会社とする吸収分割を行うことにより、関西スーパーのすべての事業を分割準備会社に承継させる(効力発生日は2022年2月1日予定)。もって関西スーパーは分割準備会社・イズミヤ・阪急オアシスの3社を完全子会社とする持株会社となる(分割準備会社は商号を「関西スーパーマーケット」に変更)。持株会社となる関西スーパーは本スキームのもと、H2Oリテイリングの傘下にあってスーパーマーケット事業を営む3社を傘下に置く中間持株会社という位置付けになる。
両社間では8月31日に経営統合契約・株式交換契約が締結されていたところ、(a)株式交換の実施について関西スーパー、イズミヤおよび阪急オアシスのそれぞれの株主総会において本株式交換契約の承認が得られること、(b)本株式交換を巡り独占禁止法に基づく待機期間が満了していることが必要となるほか、上記吸収分割についても(c)その実施につき関西スーパーと分割準備会社とがその後締結する吸収分割契約が関西スーパーの株主総会において承認されることなど、実施のために満たされるべき条件が複数あった。
また、株式交換前・8月31日現在のH2Oリテイリングは関西スーパー株式を3,200,000株、両社によると議決権所有割合10.66%を有していた(筆頭株主。その余の89.34%の議決権は他の株主にある)。本スキームにより、株式交換後のH2Oリテイリングの所有株式数は37,034,909株(議決権所有割合58.00%)となり、その他の株主の議決権所有割合は42.00%にまで低下することになる。関西スーパーの2021年3月期の有価証券報告書によれば、3月31日現在の他の大株主とその状況は次のとおりであった。関西スーパーマーケット取引先持株会(所有株式数2,760,000株、自己株式を除く発行済株式総数に対する所有割合9.19%。以下同様)、オーケー(2,310,000株、7.69%)、伊藤忠食品(1,428,000株、4.75%)、国分グループ本社(1,021,000株、3.40%)など。
さらに、関西スーパー・H2Oリテイリング間においては2016年10月27日付資本業務提携契約書に基づく資本業務提携関係があることに鑑み、たとえば関西スーパーでは(ア)独立した特別委員会の設置および答申書の入手、(イ)特別委員会における独自の独立した第三者算定機関からの算定書およびフェアネス・オピニオンの取得、(ウ)同社における独立した第三者算定機関からの算定書の取得、(エ)特別委員会における独自の独立した法務アドバイザーからの助言の取得、(オ)同社における独立した法律事務所からの助言の取得、(カ)同社における利害関係のない取締役全員による承認――といった6通りの公正性担保措置を実施することとした。8月31日の取締役会決議も(カ)の措置により、過去にH2Oリテイリングの取締役であった1取締役については利益相反を回避する観点から審議・決議に参加していないとされる。
上記(ア)の措置は、関西スーパーが8月31日付発表において「(編注・H2Oリテイリングとの資本業務提携のあり方について継続的に検討を行ってきたところ)そのような状況下、当社は、2021年6月上旬、H2Oリテイリングとは別の第三者(以下「本提案者」といいます。)から、当社株式に対する公開買付け(以下「第三者公開買付け」といいます。)を行い、当社を子会社化することを前提とした資本業務提携の提案(以下「第三者提案」といいます。)を受領するに至りました」と明らかにしているように、当該「第三者提案に係る取引(第三者取引)」について本提案者・H2Oリテイリング・関西スーパーから独立した立場で検討・判断を行うために社外者5名で構成した特別委員会の設置を指す。特別委員会に対しては今般の経営統合についても諮問を行い、特別委員会からは結果「(i) 当社取締役会に対し、本取引(編注・本経営統合)の実施を勧告する。また、当社取締役会に対し、第三者取引を実施することは勧告しない。(ii) 当社取締役会における本取引の実施についての決定は、当社の少数株主にとって不利益なものではない」とする答申が8月31日付でなされている。
関西スーパーは上記発表と同日となる8月31日、臨時株主総会招集のための基準日を9月15日とすることを取締役会決議・公表。その後、9月30日には開催日を10月29日とし、付議議案を①第1号議案 当社とイズミヤ株式会社及び株式会社阪急オアシスとの株式交換契約承認の件、②第2号議案 当社とKS分割準備株式会社との吸収分割契約承認の件、③第3号議案 定款一部変更の件、④第4号議案 取締役(監査等委員である取締役を除く。)5名選任の件、⑤第5号議案 監査等委員である取締役4名選任の件――とすることを発表していた。
一方で関西スーパーは9月3日、同社へのオーケーによる買収提案に関する報道を受けた対応のなかで、8月31日付発表における「第三者」がオーケーであることを表明。(1)関西スーパー株式に対する公開買付けのオーケーによる提案価格が2,250円であったことに触れながら、(2)特別委員会において「当社の企業価値及び株主の皆様の利益という観点から、詳細に比較・検討を行った」こと、(3)オーケーに対しては「かかる特別委員会の勧告及び取締役会の決議を踏まえ、……当社及び当社特別委員会よりそれぞれ、2021年8月31日に、当社がオーケーの提案ではなくH2Oグループとの経営統合(以下「本経営統合」といいます。)を選択した旨を伝達し」たこと、(4)オーケーがホームページに掲載した「9月3日付「株式会社関西スーパーマーケットによるエイチ・ツー・オー リテイリンググループとの経営統合等に関するプレスリリースについて」と題する資料においては、オーケーによる公開買付けは、あくまでH2Oグループとの取引の撤回、当社の取締役会がオーケーの提案に真に賛同することなどが前提となるものとされて」いること、(5)関西スーパーとしては「H2Oグループとの本経営統合を推進する予定であって、これを撤回する意向はございませんが、株主の皆様におかれましては、今後も当社から開示される情報に十分にご留意いただき、慎重に行動していただきますようお願い」する旨を述べたものである(編注・11月9日現在、オーケーによる本件に係るホームページ上の発表の多くが移動または削除されている可能性がある)。
関西スーパーは9月24日、「エイチ・ツー・オー リテイリング グループとオーケー株式会社の各提案に対する当社の見解について」と題するリリースを発表。6月上旬にあったとされるオーケーによる「当社株式に対する公開買付け……を行い、当社を連結子会社化することを前提とした資本業務提携の提案」は、7月下旬には「当社の連結子会社化ではなく、完全子会社化(非公開化)を前提としたものに変更されました(かかる変更後のオーケー提案に係る取引を「本非公開化取引」といいます。)」と表明。「なぜ、当社の企業価値・株主の皆様の利益という観点から、本非公開化取引よりも、本経営統合の方が望ましいと判断するに至ったのか」について「H2Oリテイリンググループとの経営統合に関するFAQ」を併せて提供するとともに、9月14日の労使協議会では労働組合からの賛同表明を得たことも明らかにした。
10月4日には関西スーパーが同日、神戸地方裁判所伊丹支部に対し、株主総会検査役の選任の申立てを行ったと発表。このなかで「本総会に関しては、当社の株主であるオーケー株式会社からも、同裁判所に対し、株主総会検査役の選任の申立てがなされております」とした。同月14日、関西スーパーは「当社及びオーケー株式会社の申立てに係る手続が併合」され、10月7日付で選任された旨を発表。同じく14日には臨時株主総会の招集通知がホームページ掲載されるに至っている。
10月29日の臨時株主総会開催までの間、関西スーパーは10月15日、H2Oリテイリングと連名の「株式会社関西スーパーマーケット 株主の皆様へ」と題する文書により本経営統合に関して補足説明。同日「FAQ(第2回)」も公表した。同月18日には「株式会社関西スーパーマーケット 株主の皆様へ(追加ご説明)」を発表。「数点追加でお伝えすべき事項」とし、「1. 議決権行使助言会社の推奨について」「2. オーケーのプレスリリースその他の反対勧奨等について」「3. オーケー関係者による株主の皆様への訪問行為について」との項目により会社見解を表明するもので、これによると、上記1の関係では議決権行使助言会社ISSおよびグラス・ルイスがそれぞれ10月15日付で各議案に対して反対推奨を行ったとされる。上記2によれば、オーケーが「10月15日付で公表したプレスリリース「株式会社関西スーパーマーケット 株主の皆様へ【「反対」の議決権行使のお願い】」において」議決権行使に際しての懸念を表明していること、同日付で「議決権行使に関するQ&A」を公表していることに言及しながら、関西スーパーとしては「オーケーより、過剰に株主の皆様のご不安を煽るような情報提供がなされているように見受けられますが、どうぞご安心ください」と呼びかけた。10月20日には「FAQ(第3回)」を公開している。
関西スーパーが11月4日に提出した臨時報告書によると、10月29日開催の臨時株主総会では各議案が次の賛成割合をもってそれぞれ承認可決された。なお、下記①~③議案の可決には「議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成」を要し、④・⑤議案については「議決権の2分の1以上を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成」を要する。①第1号議案(当社とイズミヤ株式会社及び株式会社阪急オアシスとの株式交換契約承認の件):66.68%、②第2号議案(当社とKS分割準備株式会社との吸収分割契約承認の件):66.71%、③第3号議案(定款一部変更の件):66.74%、④第4号議案(取締役(監査等委員である取締役を除く。)5名選任の件):66.02~66.77%、⑤第5号議案(監査等委員である取締役4名選任の件):66.07~66.79%。
関西スーパーにおいては開催同日となる10月29日、付議議案のすべてが承認されたとする決議結果を発表。併せて、今後の株式交換効力発生日・吸収分割効力発生日を改めて案内した。H2Oリテイリングにおいても同日、「(開示事項の経過)株式会社関西スーパーマーケットの株主総会における同社との経営統合に係る議案の承認について」を発表。「イズミヤ株式会社及び株式会社阪急オアシスにおいても、それぞれの臨時株主総会において、本株式交換に係る株式交換契約の承認に関する議案が本日承認されております」と付言した。一方のオーケーにあっては11月1日、「臨時株主総会の結果のご報告と今後の弊社方針について」とするリリースにおいて、この決議結果を受け「関西スーパー様の株主の皆様のご判断であると真摯に受けとめております。弊社としましては、これを受け、弊社提案を取り下げることといたしました」と表明した。
オーケーはしかしながら11月8日、「関西スーパー様の臨時株主総会における議決権行使の集計に係る疑義の判明について」と題するリリースをホームページに掲載。このなかでオーケーは本稿冒頭に掲げた疑義を指摘しつつ、総会検査役の報告書の記載を紹介するかたちで集計作業の経緯について述べたうえで「白紙で提出されたマークシートの一部が「棄権」から「賛成」に集計し直されたことは、議長自らが議場の株主の皆様に行っていた説明に反するものである上、議場の裏でこのような取り扱いの変更が行われたことは、議場にいる出席株主に対して一切説明されておりません」と報告。外部の弁護士と株主総会実務に詳しい専門家の意見を添え、同社として「結果が恣意的に歪められたものに他ならない」とする見解を表明するとともに「多くの株主の皆様のためにも、本プレスリリースにより本件疑義の存在を明らかにする必要があると判断」したとするものである。
関西スーパーは11月9日、オーケーの発表を「事実誤認に基づく著しく不適切かつミスリーディングな主張を展開するものであって、当社として到底看過できない内容である」とし、また一方「本総会は、総会検査役の立ち会いの下で適法かつ公正に行われており、何ら不適法又は不公正な点はございません」などとする見解を表明。本総会における議案の採決方法を説明しつつ「本総会における集計の途上」「ある株主様から……のお申出」を受け、これを踏まえ総会検査役同席のもと「当該株主様から事実確認」を行った経過などを関西スーパーとして明らかにしたうえで「会社法その他の法令に照らし、この株主様は本議案の全てに賛成の投票をされたものと判断し、当該賛成票も含めて最終集計を行ったところ、本議案の承認可決が確定」したとする。「株主様が投票時に示された議決権行使の意思表示を正確に反映して集計を行ったものであり、この取扱いの適法性に何らの疑義もございません。むしろ、上記の状況にありながら、株主様の投票に際しての意思表示の内容を無視して集計をすることが会社法に反することは明らかであ」ると述べ、「本議案が本来「否決」となるべきであったなどという事実」についても「存在しません」とした。
オーケーは同日、関西スーパーによるこの見解表明に触れながらも「一旦確認された「否決」が「可決」に覆されたという事実は何ら変わらない」などとオーケーとしての考えを明らかにしたうえで「やはり本件疑義については公正を期して司法の判断を仰ぐべきであるとの考えに至りました」と結論。本発表と同日となる11月9日、関西スーパーとイズミヤ・阪急オアシスとの間の各株式交換の差止めを求める仮処分の申立てを神戸地方裁判所に行ったと発表した。