◇SH2474◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(155)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉗ 岩倉秀雄(2019/04/12)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(155)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉗―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、「チーム力強化」の取り組みについて述べた。

 新経営陣により、単年度黒字化を実現した日本ミルクコミュニティ(株)は、組織文化が異なるが故に団結力が弱く経営効率が悪化しやすい合併会社の特性を認識し、従業員を団結させ、組織同士が十分に連携し相乗効果を生みだすような独自の組織風土を新たに作る必要性を痛感、「明るく楽しく元気の良いチーム」を作るために「チーム力強化」の取組みを開始した。

 2006年10月に全国の所属長、管理職、関係会社社長等を招集して「チーム力強化」のキック・オフ大会を開催、本社要員管理部署を推進事務局とし、各種の施策を実施した。(後述)

 また、チーム力強化の取組みによる従業員の意識や組織風土の変化に関する調査を継続的に実施し、組織や人事制度の更なる改革に役立てた。

 今回は、日本ミルクコミュニティ㈱の失敗と成功の要因を、改めて考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉗:失敗と成功の要因】

 これまで筆者が経験を踏まえて考察してきた日本ミルクコミュニティ(株)の失敗と成功のケースは、一般の会社合併においても様々の示唆を提示していると思われるので、以下にこれまでの考察の骨子を整理する。

 

1. 構造改革前の失敗要因

 筆者も事務局次長として参加した統合会社設立準備段階での失敗の要因を一言で言えば、準備期間が短く、出身会社主義を排除できず、各社の主張を中途半端に入れたために、様々の弊害が発生したと言える。

(1) 設立準備期間が短か過ぎた

  1. ① システムへの習熟不足(会社設立時に統一システムができていなかった。)
  2. ② 商品の知識不足(アイテムが急増、他社商品の知識を学ぶ時間が不足。)
  3. ③ 物流センターの混乱(同上+業務習熟訓練期間が不足+関連業者への周知徹底不足。)
  4. ④ 経営管理手法不慣れ(統一手法を確立せず習熟期間もなし。)

(2) たすき掛け人事の弊害

  1. ① 役員(バランスを考え多数、縦割りで他社出身役員への遠慮。)
  2. ② 管理職(営業部門は顧客対応が待ったなしなので融合に積極的だが、管理部門は手法の違いにこだわり、相互理解が困難。工場は、旧社の工場をそのまま持ち込んでいるので、旧態依然。会社としての経営管理手法が確立しておらず、管理職個人のリーダーシップややり方に依存、それが部下の混乱や不満を生む。)
  3. ③ 一般職(同じ職場で慣れた仕組みを活用する者が優遇され、他は冷遇されやすい。主流以外の出身者は肩身が狭くストレスが多い。)

(3) 出身会社主義を排除する認識が不足していた

  1. ① 組織文化の違いがあらゆる場面で顔を出す。(一見紳士風だが手柄の取り合いや足の引っ張りあいが激しい社風、営業中心のやや乱暴で快活な社風、協同組合の体質を残すクラブ的な社風等。)
  2. ② 給与体系設定の間違い(旧社の給与をそのまま持ち込み、調整給を設けて5年で統合するとしたが、それにより同じ職位・業務でも出身会社により給与に差が出て大きな不満要因となった。)
  3. ③ 不公平な人事評価(慣れた業務管理システムを扱う者が有利な評価を受けやすい、同じ出身会社の顔見知りが上司だと有利な評価を受けやすい、故意に出身会社主義を持ち込み、将来有利に展開したい者が出やすい。)
  4. ④ 経営管理手法の違い(本社が文書で命令し現場を従わせる本社中心の管理手法と顧客に接する現場の自由度を重視する現場主義の管理手法の違い等。)

(4) 中途半端な絞り込み

  1. ① 取扱アイテムの絞り込み不足(過剰なアイテム数が現場の混乱を招くので、アイテム数を1900から削減することを主張するロジスティクス部門の意見を営業部門が押し切り、それが混乱の原因となった。)
  2. ② 取引先の絞り込み不足(問屋、直接販売、販売店等、各社に得意の取引先があったが、売上げの減少を恐れ不採算の取引先をそのまま持ち込んだ。)
  3. ③ 物流費の経費増(各社の取引関係を配慮し、配送ルートの合理化や物流拠点の合理化が不十分なまま出発した。)
  4. ④ 営業拠点、工場についても各社の事情や主張を考慮して統合したので、不採算工場も統合時に持ち込んだ。

 

2. 構造改革プランとチーム力強化の成功要因

 構造改革プランは、退陣した経営陣が策定し交代した新経営陣に残した課題であり、「チーム力強化の取組み」は、合併会社の一体感の必要性を痛感した新経営陣が策定した新たな組織文化形成の試みであった。

 それらが、次の中期経営計画の成功(後述)に結実し、雪印乳業(株)との再合併に結びついた。

(1) 経営方針を明示し現場に浸透させた

  1. ①「実力主義と現場主義」の表明(メディアに発信するとともに、社長の経営方針として各職場に掲示し所属長から説明した。)
  2. ② 経営者が全国の現場に出向き説明(方針と構造改革プランを現場に出向いて説明し、経営と現場の一体感を強化した。)

(2) 人事制度の改革

  1. ① 給与体系の改革(出身会社主義の調整給を撤廃、同一職位・同一賃金とした。)
  2. ② 評価制度の改革(目標管理による業績評価+チーム力貢献評価。)

(3) 構造改革プランの実施

  1. ① 生産・物流体制の再構築
    ・ 売上規模に見合う工場の再編・統合(青森工場の閉鎖と狭山工場の売却)
  2. ② 物流・営業拠点の閉鎖(合計63→48)
    ・ 不採算アイテムの整理(1,914→800)と内製化
  3. ③ 中期営業政策の確立
    ・ 重点チャネルと縮小・撤退チャネルの選別
    ・ チャネル戦略と連動した重点カテゴリー・商品戦略の構築
    ・ 商品構成及び宣伝促進費の適正化
  4. ④ 経営体質の強化
    ・ 退職者不補充により総員340名削減した
    ・ 資材費・管理費等あらゆるコストの見直し・削減
    ・ 収支管理の徹底

(4)「チーム力強化」の取組み

  1. ① コミュニケーション活動への費用補助
  2. ② チーム力強化アイディアの募集と全社への案内
  3. ③ コーチング研修の実施
  4. ④ チーム力強化自己チェックシートの配布回収
  5. ⑤ 大学の公開講座・通信教育の受講補助
  6. ⑥ 寄付講座「マネジメントのための組織行動論」の開設等

つづく

 

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