総務省、電気通信事業ガバナンス検討会(第13回)
――電気通信事業ガバナンスのあり方と実施すべき措置に関する検討状況――
岩田合同法律事務所
弁護士 和 田 義 光
1 はじめに
近年、電気通信事業を取り巻く環境の変化によって、情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクや通信サービス停止のリスクが高まりつつあり、これらにより、多様な個人的法益・社会的法益・国家的法益の侵害につながるおそれがあり、電気通信事業の円滑・適切な運営を確保することが一層重要になっている。
電気通信事業ガバナンス検討会(以下「本検討会」という。)では、電気通信事業法を対象とした検討を通じて、利用者が安心できる電気通信役務の提供の確保を図っていく方策として、Ⅰ 電気通信事業に係る情報の漏えい・不適正な取扱いに対するリスク対策、Ⅱ ネットワークの多様化等を踏まえた通信サービス停止に対するリスク対策、Ⅲ 情報の適正な取扱いや通信サービスの提供等に関する利用者等への情報提供の3つの観点から整理しているが、論点が多岐にわたるため、本稿では、Ⅰ 電気通信事業に係る情報の漏えい・不適正な取扱いに対するリスク対策について取り上げることとする。
2 情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクへの対応に係る考え方
本検討会では、情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクへの対応に係る考え方の視点として、①対象となる情報、②対象となる者、③情報規律の内容等を挙げて検討している。
⑴ 対象となる情報
本検討会では、電気通信が我が国の経済・社会活動、国民生活の基盤として重要な役割を果たすようになりつつあること、情報の漏えい・不適正取扱い等が利用者に及ぼす影響の大きさなどを踏まえ、利用者が安心できる電気通信役務の提供を確保する観点を重視し、通信の秘密に関する情報を含む「電気通信役務利用者情報」(電気通信役務の利用者に関する情報であって利用者を識別することができるもの)を新たに適正管理を行うべき情報として整理することが検討されている。
(第13回電気通信事業ガバナンス検討会 参考資料13-1「電気通信事業ガバナンスの在り方と実施すべき措置」9頁)
「電気役務通信利用者情報」は「個々の通信に関する情報」と「電気通信サービスの利用者に関する情報」とに大別され、通信の秘密に関する情報に該当するかどうかについて個々の通信との関係を踏まえて個別に判断されることが検討されている。
⑵ 対象となる者
本検討会では、まず、電気通信役務利用者情報の適正な取扱いに係る規律は、全ての電気通信事業者を対象とすることが議論されている。
これに加え、利用者への影響度が大きい電気通信事業者に対しては、毎年度、電気通信役務利用者情報の取扱いに関するリスク評価の実施を義務づけるなどの追加的な規律を課すことが検討されている。具体的には、電気通信役務利用者情報を多く取得、収集等して利用する電気通信事業者ほど利用者への影響度が大きいと考えられることから、利用者にとって非代替的な通信サービスを提供していることを示す基準として国内消費者の約1割の1000万人を念頭に利用者数を中心とした基準を定めることが検討されている。
次に、現行の電気通信事業法では、電気通信回線設備(送信の場所と受信の場所との間を接続する伝送路設備及びこれと一体として設置される交換設備並びにこれらの附属設備をいう。)を設置せずかつ他人の通信を媒介しない電気通信事業(法164条1項3号に該当する事業。以下「第三号事業」という。)については、電気通信事業の登録や届出の対象とならず、通信の秘密の保護と検閲の禁止を除き、規律の適用を除外されていた。
これに対しては、インターネットの発展に伴い、第三号事業にも関わらず著しく利用者数が多く、登録・届出の対象となる電気通信事業と同等又はそれ以上に取得・蓄積し得る利用者に関する情報量が膨大化していること、第三号事業の社会経済活動における不可欠性が高まっていること、第三号事業であっても、実質的に他人の通信を媒介する第三号事業が出現していることから、利用者利益の保護の観点から、一定の要件を満たす第三者事業者についても規律の対象とすることの社会的要請が高まってきている。
本検討会では、かかる観点から、たとえばSNS等の他人の通信を実質的媒介する電気通信役務であって、利用者が非常に多いものに限り規律の対象とすることが検討されている。また、検索サービス等の様々な電気通信役務にアクセスするための基盤的な役割を担う電気通信役務で大規模のものも規律の対象とすることが考えられるとしている。他方、インターネットネットショッピング等の特定の分野に限定した検索機能・サービスについては対象外と考えられるとしている。
⑶ 情報規律の内容
本検討会では、電気通信役務利用者情報の適正な取扱いに関し、以下のような規律を設けることが検討されている。
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ア 全ての電気通信事業者に対する電気通信役務利用者情報の適正な取扱いに係る規律
- ① 当該情報の安全管理措置[1]
- ② 委託先の監督
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③ その他当該情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じること
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イ 特に大規模な電気通信事業者[2]に対する電気通信役務利用者情報の適正な取扱いに係る規律
- ① 電気通信役務利用者情報の適正な取扱いに関する取扱規程の策定
- ② 電気通信役務利用者情報統括管理者の選任
- ③ 電気通信役務利用者情報の適正な取扱いに係る方針の策定及び公表[3]
- ④ 電気通信役務利用者情報の適正な取扱い関する評価の実施と対策への反映
なお、これらの規律の違反については、業務改善命令(法29条)等の対象とすることでその実効性を担保することが検討されている。
3 終わりに
本検討会においては、引き続き電気通信事業者法改正について議論が進められるところ、全ての電気通信事業者に対して電気通信役務利用者情報の安全管理措置が求められるなど従前は規律の対象となっていなかった事業者についても同法の規律の対象となっていくことが想定され、電気通信事業者の担当者においては、今後も本検討会における検討状況について継続的に確認しておくべきと思われる。
以 上
[1] たとえば、サイバーセキュリティ対策、蓄積情報の保護措置(アクセス管理等)、安全管理措置を講ずるための組織体制の整備等が考えられるとしている。
[2] 本規律の対象とはならない電気通信事業者に対しては、これらに準じた努力義務を課すことも検討されている。
[3] 必要な記載事項としては、例えば、取得する電気通信役務利用者情報の内容、電気通信役務利用者情報を保管する電気通信設備の所在国や電気通信役務利用者情報を取扱う業務を委託した第三者の所在国を明記すること等が考えられるとしている。
(わだ・よしみつ)
岩田合同法律事務所所属。2014年北海道大学法学部卒業。2016年一橋大学法科大学院修了。2018年1月裁判官任官。松山地方裁判所勤務を経て、2021年4月「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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