◇SH3877◇インドネシア:オムニバス法の制定(18)〜不動産法制の主要なアップデート(2) 中村洸介(2022/01/14)

未分類

インドネシア:オムニバス法の制定(18)
〜不動産法制の主要なアップデート(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 村 洸 介

 

(承前)

2. 土地登記制度の電子化

⑴ 土地登記制度

 インドネシアでは、土地の登記は、国土庁(BPN)の管轄で、各地に設置されている土地局において行われる。土地登記令(政令1997年第24号)上、土地局から発行される権利証書は、測量簿及び土地登記簿の情報と一致する限りにおいて、これに記載されている物理的及び法的情報に関する「強い証拠」であると定められている。ただし、実際には、権利証書の作成されていない土地があったり、権利者が保有する権利証書が最新の権利関係を反映していないケースも見受けられる。

 また、土地登記は一般に公開されておらず、誰しも確認できる制度は設けられていない。土地の権利関係を確認しようとする場合は、実務上、土地の権利者が保有している権利証書の写しの開示を受けるとともに、権利者から委任状の交付を受けたうえで、土地証書作成官(PPAT)を選任し、PPATを通じて管轄の土地局から、権利証書と土地登記簿の内容が一致していることの確認書(SKPT)を取得する必要がある。

 この点、日本では、誰でも不動産の登記事項証明書を取得することが可能であり、不動産登記簿(登記記録)は基本的にコンピューター化(電子化)され、オンラインで不動産登記情報を取得できる。かかる日本の登記制度と比較しても分かるように、インドネシアの土地登記制度は信頼性が高いとは言えず、使い勝手が悪いと評価されてきたところである。

 

⑵ 土地登記の電子化の流れ

 本政令においては、土地登記の整備及び運用は電子的に行われることが規定された。権利証書を含む土地登記に係る全てのデータ及び書面は、今後段階的に電子書面の形式でデータベースに保管され、提供されると定められている。これらのデータ、電子情報及びその印刷物は、裁判手続きにおいて有効な法的証拠になることも明示的に確認されている。

 また、インドネシアにおける土地の権利の取引では、当事者間が諸条件を合意する売買契約(PPJB)のほかに、PPATのもとで売買証書(AJB)の作成が必要であるが、AJBについても電子的に作成することが認められている。

 近年、インドネシアの土地・空間計画省及び国土庁は、電子土地情報サービスに関する規則(規則2020年第19号)や、電子権利証書に関する規則(規則2021年第1号)を制定する等、土地登記制度の電子化の方針を打ち出してきたが、本政令はこうした電子化の流れを政令レベルで認めたものと言える。

 このように、本政令は、土地登記情報の公開まで定めるものではないものの、行政のデジタル化の一環として、電子化によって土地登記制度のサービスが向上し信頼を高め、ひいてはインドネシアの不動産分野のビジネス環境が改善されることが期待されている。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(なかむら・こうすけ)

2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。

2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。ジャカルタ・デスク勤務(2019年10月~2020年)を経て、現在はシンガポール・オフィスに所属し、インドネシアをはじめ東南アジアへの日本企業の事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました