SH3891 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第41回 第8章・Suspensionとtermination(4) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/01/27)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第41回 第8章・Suspensionとtermination(4)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第41回 第8章・Suspensionとtermination(4)

4 Employerの主導によるtermination

⑶ 理由なしの解除(termination for convenience)

 (a) 基本的な考え方

 前回述べたとおり、FIDICのもとでは、Employerによるいわゆる「理由なし」の契約解除(すなわちEmployerの都合による解除であり、正当化理由が不要なもの)が認められている(15.5項)。プロジェクトを継続する必要がなくなったときや、継続することが不可能となったときなどに、Contractorの落ち度がなくても契約を解除できるため、Employerにとっては有益な規定である。

 理由なしの解除は、本来、Employerの都合によるプロジェクトの打ち切りを想定して設けられる契約上の仕組みである。ゆえに、伝統的には、解除した後にEmployerが残りの工事を(自らまたはContractor以外の業者に委託して)完成させることや、Contractorが解除後の清算において逸失利益の償還を受けることは想定されていなかった。FIDICの1999年版Rainbow Suitesでも、この伝統的な考え方に沿った規定が採用されていた。

 しかし、2017年版のRainbow Suitesでは、この方針が180度転換され、Employerに残りの工事を完成させる権利があることや、Contractorが逸失利益の償還を受けられることが、むしろ原則であることを窺わせる規定に変わった。これが、工事等を誰に任せるかは、施主たるEmployerが自由に決定できてしかるべきという発想に基づくものと推察されることは前回も述べたとおりである。その背景としては、Contractorの債務不履行による解除が可能に見える場面でも、Employerに債務不履行をめぐる紛争の解決を待つ時間的余裕がない場合もあるため、逸失利益分の追加的な金銭負担と引き換えにEmployerが工事委託先を変更できるという選択肢(さらには、債務不履行の主張が認められなかった場合に備え、予備的に理由なしの解除もしておくことで、解除という結果だけは確保するという選択肢)の必要性が広く認識されたことが考えられる。

 結果として、Employerは、完工までの請負代金がContractorより安い業者に残りの工事を委託することが可能となるが、上記の追加的な金銭負担に鑑みれば、不合理ではないと評価できよう。これに対し、Employerが、Contractorとの契約を維持したまま、工事の一部を契約対象から外し(omission)、より安い代金で施工してくれる業者に委託することは、Employerによる不公平な「いいところどり」と考えられており、2017年版のRainbow Suitesにおいても、正当なVariationとして行うことはできないとされている(13.1項)。

 

 (b) 通知要件及びその効果

 理由なしの解除は、Employerが、Contractorに対する解除通知を出して行う。

 解除通知を発すると、Employerの権利義務は直ちに下記のとおり変動する。

  1. ▶ Contractorが作成した書面や図面につき、(対応する金額を既に支払ったか、支払いが確定しているものを除いて)使用する権利を失い、Contractorに返還する義務を負う。
  2. ▶ Contractorの機材、一時的構造物(足場など)、アクセス経路、その他のContractorの設備やサービスにつき、Employerの職員や他業者による使用を許諾していた場合には、使用の継続を許す権利を失う。
  3. ▶ Performance SecurityをContractorに返還するための手配を行う義務を負う。

 そして、解除の効果は、Contractorが当該通知を受領した日、またはEmployerがPerformance SecurityをContractorに返還した日のいずれか遅い方から28日後に生じる(15.5項)。

 

 (c) 解除後のContractorの義務

 Employerが理由なしに契約を解除した場合、Contractorは、速やかに作業をやめなければならない。ただし、Engineer(Silver BookではEmployer)が、人身または財産の保護のため、あるいは保安のために指示した作業は行うことができ、かかる作業を行うためにContractorが負担したコストは、Employerに請求することができる。

 また、Contractorは、工事等に関わる文書や、設備資材等を、代金の支払いを受けた範囲でEngineer(Silver BookではEmployer)に引き渡す義務、および、保安のために必要なものを除き、その他の物品を回収してサイトから立ち退く義務を負う(16.3項)。

 

 (d) 解除後の清算処理

 解除後、Contractorは、Engineer(Silver BookではEmployer)の合理的な要請に従って、工事等の出来高(Contractorが工事等のために調達した設備や資材の費用や、Contractorのスタッフや工事等のために雇った人員の引き揚げにかかる費用を含む)および解除に起因してContractorに生じた逸失利益その他の損害を証する詳細な書類を提出することとされている。Engineer(Silver BookではEmployer’s Representative。以下同じ)は、かかる書類の提出を受け、Contractorに支払うべき金額を3.7項に従って合意または決定する(15.6項)。

 Employerは、EngineerがContractorから上記の書類を受領した後112日以内に、上記のとおり合意または決定された金額をContractorに支払う必要がある(15.7項)。この支払いが行われるまでは、Employerは、残りの工事を自らまたは他の業者に委託して完了することはできない(15.5項)。これは、上記 (a) で述べた方針の転換を反映した規定であり、債務不履行に基づく解除のときよりも重い金銭的負担と引き換えでなければ、工事等の委託先の一方的な変更はできないことを意味している。

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